ルームツアー企画の裏にある想い 自然な形で学びを届ける設計
そもそもルームツアーは、元々私自身がファッションデザイナーのインタビューをしたかったのが始まりです。YouTubeでストレートにインタビュー形式の動画を出すと視聴者の離脱率が高く、クリック率も低くなります。作り手としては、おもしろい企画になると意気込んで実施した「デザイナーのインタビュー」でも、受け手が自分にとっておもしろいか判断しにくいというのは問題です。
そこで、ストレートなインタビューではなくルームツアー企画の中でインタビューも完結させる形式にしました。
家というテーマなら、ファッションやブランドに興味がない人でも参考になると思って視聴してくれます。そこで先ほどのインタビュー企画を家具の紹介や趣味の紹介の合間に挟みこむことで、見終わった時には、自然とその人の仕事論や出自を知っている状態になるよう設計することにしたんですね。
とにかくSNSを見る世代が難しく考えずに済むように、視聴者にはわかりやすく、でも何かを自然と吸収してもらえるような構成を心がけています。
アイデアの軸は「過去アーカイブ×メディア情報×リアル体験」
━━頻繁にコンテンツを生み続ける中で、企画の種を生む仕組みはあるのでしょうか。
動画は週2~3本、月15本程度、年間100本ほどの制作ペースで、1動画に1イシューです。私は動画に携わるまでは出版社で雑誌を作ってきましたが、雑誌1冊は約100ページあります。ということで雑誌1冊分のアイデア量があれば、1年分の動画が作れてしまうのです。だからアイデアが枯渇するといったことはありません。
その上で、アイデアの源泉としては3つの軸を持っています。1つは自分の過去の体験からくるアーカイブ、2つ目は雑誌・テレビ・SNSなどの現在得られる情報、3つ目は散歩や趣味を通じたリアルな場所での体験です。
リアルに人と会って、その人の見た目や活動内容から、出演してもらいたいと思ったらその場でお声がけすることもあります。おしゃれなお店を見つけたら実際に足を運ぶなど、これまでの積み重ねを生かしていますね。

もちろん、世の中での受け入れられ方も確認するようにしていて、相対的な基準としては、SNSのフォロワー数やエンゲージメント数、YouTubeの再生回数、アーティストであればフェスでのキャパシティなどで見ることにしています。しかし、単に数字だけで決定することはしません。それらと、自分の中に蓄積されたアーカイブの文脈から外れていないかどうかを確認して方向性を決定していきます。
そのコンテンツにおいて受け手の目にどう映るのか、的外れになっていないかは、作り手が背景を理解しているという大前提が必要です。その点で、参照元として過去アーカイブにある情報は判断基準として必要ですし、キャスティングの質やその場で声をかけるというスピード感を生みます。言い換えれば、本人が知識を蓄積してきたジャンルそのものが判断基準や強みに強く影響します。ロジックやエビデンスが大切と言われる時代に、属人性や定性の重要性も感じるようになってきました。