マーケティングのゲームは変わった 問われるのは“仕組み”と“スピード”
横山:一方で、今問題なのはテレビCMに代わるような有効な広告枠がないということ。YouTube広告も受容性があるとは言い難いですし。これは代理店も広告主ももっと危機感を持たなければならないと感じます。
菅原:同感です。
横山:広告は本来、「コスト」ではなく「投資」です。有効な広告枠がなく広告主が「買えない」という状況に陥ってしまうと、マーケティング目標を達成することも難しくなってしまいます。だからといって、代わりに凝った販促企画をやろうとすると現場は疲弊しますし、必ずしもテレビCMを超える効果が見込めるわけではありません。本当に必要なのは、かつてのテレビCMのような「有効な広告を効率よく回す仕組み」の再構築。そして、そこでキーになるのは「クリエイティブのスピード」だと考えています。1ヵ月かけてプレゼン資料を作り、作ったクリエイティブを1~2年使うようなスピード感ではもう遅い。賞味期限3日のバズるフレーズで広告を出すとき、人間によるクリエイティブ制作ではもう追いつきません。AIと一緒にやっていくしか、選択肢はないんです。
菅原:広告クリエイティブの耐用年数は大幅に短くなりましたよね。変に「今っぽく」作るとすぐに旬が過ぎてしまうし……。AIを使ってアジャイル的に、「作ってはすぐ出す」を繰り返すプロセスにしていかないといけないと思います。

企業の10倍成長のためのアドバイザー。社会や企業内に存在する「難しい問題を解く」専門家。年間でクライアント10社、エンジェル投資先20社の計30社のプロジェクトを並行して進める。過去に取締役CMOで参画した企業をKDDI子会社へ売却し、そのまま経営を継続し売上を数百億規模へ成長させる。スマートニュースでブランド広告責任者とBtoBマーケティング責任者を経て現職。著書に『小さく分けて考える 「悩む時間」と「無駄な頑張り」を80%減らす分解思考』(SBクリエイティブ)『厚利少売 薄利多売から抜け出す思考・行動様式』(匠書房)など。
横山:ですね。
菅原:むしろ、これまでのマーケティングの効率がよすぎたのではないでしょうか。以前は増加する人口、欲しいものが明確な人々、テレビを見るのが当たり前の文化のなかで、どうやって物を売るかのゲームをしていたんですよね。現在は人口減少の中、消費欲求が少なく好みがバラバラの人々へ、多様なメディアでどうやって物を売るか考えなければならない。これってもう、全然違うゲームじゃないですか。
横山:そうそう。人口が減り、分母も異なるのに、成果を「率」で測っているのもおかしな話だと思います。
菅原:ちょっと騙しているように感じてしまいますよね。
マーケターは順番を意識しすぎ。ジャーニーから「ビンゴ型」へ
菅原:一方通行で単一的だったこれまでのマーケティングプロセスと比べると、現代のマーケティングはめちゃくちゃ複雑で難しくなっていますよね。
横山:マーケティングの主導権は、もう圧倒的に消費者側にありますからね。考え方も消費者一人ひとりバラバラですので、カスタマージャーニーのようなフローに落とし込むのも合わなくなってくるでしょう。マーケターは「順番」を意識しすぎです。

菅原:順番なんてもうないですよね。
横山:ええ。私は「ビンゴ型マーケティング」という理論を提唱しています。ビンゴカードの穴を順不同で開けていくように、消費者に様々な側面から情報を伝えていき、ビンゴカードの数字(適切な消費者パーセプション)が揃ったとき、消費者は購買行動に至る。消費者側には順番なんて関係ない、というものです。このくらい単純化して考えたほうがいいと思います。
菅原:なるほど。昨今はビンゴのマスの数自体も増えていそうですね。かつては3つ揃えばビンゴだったものが、4つも5つも必要になってきてしまった。数もアプローチも複雑化しています。そこで頼るべきはやっぱりAIでしょうね。世の中のトレンドを分析したうえで、どんなビンゴのマスがあるのか教えてくれますし、それをどういう順番で空けていくべきかも考えてくれます。
横山:そこはAIのブラックボックスな思考に任せるのが一番ですね。