AIによる世の中の変化は今に始まったことではない
━━最初に、現在取り組まれている業務やミッションについて改めて教えてください。
Microsoft Advertising JapanのRegional Vice Presidentとして、Microsoft広告を日本で普及させる売上責任を担っています。2022年の入社から約3年が経ち、業務内容の大枠は変わっていませんが、『Microsoft Copilot』(以下、Copilot)に関連するAIの領域が出てきたことは変化です。サーチ領域とアドネットワーク領域を中心に展開しているMicrosoft広告は現在、AIの領域でも広告をテスト的に配信しています。

━━2022年8月にご入社されて、11月にChatGPTが登場、翌年にCopilotが発表されました。このタイミングは偶然だったのでしょうか。
私のMicrosoft入社後にChatGPTが発表され、Copilotに発展したという流れから、「事前に知っていて入社されたのですか」とよく言われますが、決してそういうことはありません。
ただ、OpenAIにMicrosoftが出資していることは知っていて、業界の流れとしてAIが台頭してくることは予想できましたし、プラットフォーマーのビジネスがおもしろくなりそうだという感覚はありました。
強調しておきたいのは、AIによる世の中の変化を、OpenAIがChatGPTを発表してから急に始まった現象だと捉える方が多いことです。しかし、実際にはMicrosoftをはじめとする大手IT企業は約30年前からAIの研究を続けています。この業界にいれば、AIの到来は予想できていたことなのです。
「アプリケーションレイヤー」の質的変化が始まっている
━━現在AI領域で起きている変化について具体的に教えてください。
30年前からAI研究を継続しているという観点から申し上げると、生成AIは現在たまたま注目を集めているに過ぎません。
現在は生成AIの次の段階として、エージェンティックAIと呼ばれる領域(AIエージェント)が注目されています。エージェンティックAIとは、エージェント(代理人)として様々なタスクを代行してくれるAIのことです。その次に来るのがフィジカルAIです。これは自動運転自動車やロボットなど、物理的な領域にAIが搭載される段階を指します。

IT業界を構造的に捉えると、フィジカルレイヤー(チップなど)、OSレイヤー、アプリケーションレイヤー、クラウドレイヤー、データレイヤーに分かれます。この中でアプリケーションレイヤーがAIによって根本的に変わり始めています。
たとえば、これまでECで何かを購入したい場合、BingやGoogleなどの検索エンジンで商品を検索し、Amazonなどのモール、個別のECサイトのリンクをクリックして購入するか、直接ショッピングアプリにアクセスするのが一般的でした。しかし現在、ChatGPTやCopilotに買いたいものについて質問し、そこから直接購入する人が増えています。つまり、個別のアプリを開く必要がなくなっているのです。
━━AIとのデータ連携が進むと、個別のアプリが不要になるということでしょうか。
その通りです。データ連携は既に始まっています。この対象領域が、たとえば宿泊予約アプリや飲食予約サイトなど、個別サービスのデータベースに拡張されれば、お使いのAIの中に、さらに多くの機能が統合されることになります。