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マーケター必読!論文のすすめ

メタバースやB2Bなど、4つの異なる形から紐解く「オンライン・コミュニティの進化」【論文紹介】

オンラインとオフラインが曖昧に。メタバースやVTuberに見るコミュニティの在り方

 メタバースは、グッチやナイキなど多くのブランドが注目し、マーケティング施策に取り入れています。亜細亜大学の福田怜生准教授と明治学院大学の赤松直樹准教授の論文「メタバースにおける現実世界のステータスシンボルの影響 ― 二つの世界をつなぐフィジタルフレンドの役割 ―」は、現実世界の有名ブランドが、メタバース上の仮想製品にいかにしてその価値を移転できるのかを論じています。

 本研究の魅力の一つは、「フィジタルフレンド」という新しい概念が提示されている点です。これは、物理空間で対面接触があり、かつメタバース上でも交流する友人として概念化された、現実世界とデジタル空間を往来する独特の交友関係を指します。

 メタバースと現実社会が融合しつつある環境において、物理空間とオンライン空間の境界はあいまいになりつつあり、主体間の関係性もオンライン・オフラインの二元論では語れなくなっています。本研究はこうした実態を明らかにしている点で、時代に即した研究といえます。

 東京理科大学の柿原正郎教授の論文「集合体理論に基づくデジタルコンテンツの消費体験の考察 ― VTuberとオーディエンスの相互作用の事例を用いて ―」は、デジタルアバターを用いて活動する「VTuber」と、その視聴者との関係性をホフマンとノバックの「消費者―オブジェクト集合体」という理論を用いて考察しています(Hoffman and Novak 2018)。

 VTuberとは、実在する人物(配信者)がデジタルアバターを通じ匿名性を保持しながらコンテンツを発信する新形態のクリエイターです。VTuberは「実在する配信者」であり、自律した「ペルソナ(人格)」でもあり、様々な設定に基づく「フィクショナルなキャラクター」でもあります。近年、消費者行動の領域ではアバターやロボットなど「人間ではない何か」を対象とした研究が蓄積されていますが、本研究の対象は現実と仮想の境界が曖昧であるという点で非常に興味深く、新規性が高いといえます。

対人影響のカギ:パラソーシャルな関係とは

 ティネコインテリジェントテクノロジー株式会社の厳瑞丹氏と同志社大学 髙橋広行教授の論文「インフルエンサーと消費者とのパラソーシャル関係が製品の態度と推奨意向に及ぼす影響(英文)」は、美容・ファッション系のインフルエンサーを対象に、インフルエンサーの信憑性や消費者の羨望が、パラソーシャル(現実には接点がない相手に一方的に親近感や親しみを感じる心理)な関係性を通じて、推奨意向にどのように影響するのかを分析しています。

 また、インターネット黎明期のインフルエンサーはテキストベースでその影響力を形成していましたが、現在のインフルエンサーの主戦場は動画といえます。インフルエンサーが普及するにともない、インフルエンサーとオーディエンスとの関係性も、共感、尊敬、羨望、そしてパラソーシャルな関係性など、多様になりつつあります。

 この研究は、現代のインフルエンサー・マーケティングにおいて、単にフォロワー数を見るだけでなく、発信者と受け手の間にどのような質的関係が構築されているかを理解することの重要性を教えてくれます。

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B2B文脈におけるオンライン・コミュニティ

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この記事の著者

山本 晶(ヤマモト ヒカル)

慶應義塾大学商学部教授。2001年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。2004年同大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学大学院助手、成蹊大学経済学部専任講師、准教授、慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授を経て、2023年4月より現職。専門はマーケティングで、主にオンライン上のC2Cインタラクションの研究に従事。日本マーケティング学会(常任理事)、日本マーケティング・サイエンス学会(研究委員・編集委員)、日本消費者行動研究学会、日本商業学会関東部会(幹事)、INFORMS、ACRの各会員...

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2025/10/07 08:00 https://markezine.jp/article/detail/49850

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