エージェンティックAIがもたらす、4つの変革領域
そんなエージェンティックAI活用によって、企業や顧客の働き方や行動はどのように変革するのだろうか。横井氏は4つの変革領域を挙げた。
1つは、ECサイトのAIチャットコマースや自動宿泊予約など、顧客一人ひとりに寄り添う「パーソナルAIエージェント」だ。AIが店員や予約担当者となり、顧客はAIと相談しながら商品・サービスを購入できる。2つ目は、従業員を支える「従業員伴走AIエージェント」。各種リサーチ業務や保険など複雑な商品の営業活動サポートなど、AIが日々の業務を効率化するようになる。
3つ目が、現実世界の消費者をデジタル上に再現する「Customer Digital Twin」で、SNSや口コミなど様々なデータを基に生活者エージェントを大量に生成し、デジタル上でのバーチャルテストマーケティングや顧客理解などに活用する。そして4つ目が、企業データや競合・市場データを基に経営意思決定に必要なシミュレーションを実行する「Enterprise Digital Twin」となる。
中でもマーケティング領域で威力を発揮するのがCustomer Digital Twinだ。従来は過去データや経験則を寄せ集めて仮説を作り、実行・検証する方法が一般的だった。しかし今後は、顧客の心的ネットワークをモデル化し、施策の反応を事前にシミュレーションすることで、「作って走る」戦略立案ではなく、「成果を測って、最適なものを選ぶ」形へとシフトするという。
横井氏はさらに、SNSの顧客の発話を基に、語と語の関連をたどってネットワークを構築して潜在ニーズを可視化するマインドマップの手法を紹介。ここで生まれたアイデアを、マーケティングやブランディング、特定カテゴリーの専門家エージェントが市場データなどを読み込みながらディスカッションして施策まで昇華させ、できた企画を消費者エージェントに当てて反応を探る一連のプロセスを示し、新たなマーケティング業務のあり方を提示した。
顧客起点の商品開発・マーケティングを一気通貫で実現
こうしたデジタルツインがマーケティングにもたらす最大の価値は、真に顧客起点のニーズに基づく施策や商品・サービス開発を実現できる点だ。
基となるデータは、消費者自身が発したSNSとなるため、消費者の生の声が凝縮されている。この声を基に消費者の顕在・潜在ニーズを特定し、デジタル上で再現された専門家エージェントの知見を活かしてブラッシュアップを行い、バーチャルテストマーケティングや情報の伝搬・拡散シミュレーションまで一気通貫で行うことができる。
「繰り返しますが、人間と違って工数や時間の制約がないAIは、施策出しもブラッシュアップも数百から数千規模で実施できます。それをシミュレーションして成果を確かめることで、過去の成功例や実績に依存することなく、リアルな消費者起点の価値創出につなげられます」(横井氏)
