株価高騰や賃上げの影響は?生活者は景気をどう見ているか
野村総合研究所は、1997年から3年おきに「生活者1万人アンケート調査」を実施しており、最新調査の2024年を含めた27年間分の生活者のデータを蓄積している。
同調査は、調査員が調査対象者宅へ訪問し紙のアンケートを取る「訪問留置法」で実施している点が特徴だ。セッションでは、野村総合研究所の松下氏がこの調査データを元に、生活者のインサイトを掘り下げていった。
この27年間の消費トレンドおよび直近の変化を見ると、消費者の意識に興味深い傾向が見て取れる。まず生活者の景気認識だが、2024年は株価が最高値を更新し、企業の賃上げなど景気の良いニュースが流れていたものの、生活者の実感は異なっていたようだ。今年から来年にかけての家計収入見通しでは「よくなる」と答えた人は過去最高水準となった一方、「どちらともいえない」が依然として6割程度を占めており、薄日が差した程度の改善に留まっている。
「株価上昇や賃上げがあっても、増税や円安、物価高に加えて、日本の人口減少や高齢化といった構造的不安が見えている状況では、景気の見通しはなかなかよくならないと考える人が多いことがわかります」(松下氏)
シニアプリンシパル 松下東子氏
続いて、日本人の不安について見ると「自分の健康」は1997年から一貫して1位であり、「親の健康」は徐々に増加傾向にある。背景には、人口の高齢化や非婚化、少子化により一人暮らしや一人っ子が増加していることが考えられる。さらに非正規雇用の増加により福利厚生が薄くなっており、親の健康悪化が就業継続の危機に直結するなど、生活を楽観視できない人の割合が増えている。
一方で年金など社会保障制度破綻への不安は1997年と比べて減少傾向にある。これは年金がもらえないという前提で老後の生活設計を考える人が増えたことと、年金通知の充実や老後生活設計サービスの普及により、情報提供が進んだポジティブな面もあると考えられる。
この変化は自分で備える投資意識の高まりにも表れている。2021年以降、投資をする人の割合が急激に増加しており、20代では倍以上になっている。
コロナ禍で在宅時間が増え生活設計を見直す機会ができたこと、金融知識を学ぶ時間ができたこと、長期低金利下での物価上昇により預金だけでは追いつかないという感覚が強まったこと、NISAやiDeCoなど投資しやすい制度の整備、ポイント投資など少額から始められる投資商品の登場などが挙げられる。
コロナ禍以降、街や商業施設に人は戻ってきたのか
コロナ禍を経て現在、街や商業施設に人が戻る中、外食や旅行などの余暇活動は回復傾向にあると松下氏。リアルレジャーでは、映画鑑賞や外食グルメ、食べ歩きなど街レジャーがコロナ禍前を上回るスピードで回復している。
さらに、デジタルレジャーも大幅に伸長。パソコンはスマートフォンの普及にともない低下したが、その一方で動画鑑賞はサブスクリプションサービスの拡大を受けて大きく増加している。
また、国内旅行は回復しているものの、円安の影響で海外旅行は過去最低水準まで落ち込んでいる。アウトドアキャンプやドライブは密を避けるレジャーとしてコロナ禍で人気を博したが、現在は落ち着いている状況だ。
