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MarkeZine Day 2026 Spring

電通グループが掲げる「CX-Connect」から紐解く、顧客とつながり続けるために大切なこと(AD)

サントリーの新ギフトサービス「ノンデネ」体験設計の裏側 共感高める「マイルドCRM」とデータ活用とは

 ブランドのファンを増やし、長期にわたってつながるためには、どのような体験設計が効果的なのか。電通グループが掲げる、顧客とつながり続ける「CX-Connect」の実現を掘り下げていく本連載の第5回では、サントリーの新たなCRM戦略をテーマにインタビューを実施。顧客の共感を深め能動的なコミュニケーションを促す仕組みについて、MarkeZine編集長の安成が、サントリーの馬場氏と本プロジェクトに関わる電通の松林氏、宮本氏、吉田氏に話を聞いた。

購入前から接点を持つ「マイルドCRM」とは?

安成:今回は、サントリーのLINE公式アカウント「おとなサントリー」を軸とする、新しいCRM(顧客関係管理)施策について、体験設計やクリエイティブ開発、データ活用のポイントをうかがっていきます。まず、プロジェクトの背景や課題感を教えてください。

馬場:当社は直販ではなく、小売店や飲食店を介してお客様に商品を提供しているビジネスモデルのため、お客様と直接つながりにくくデータも取得しづらい課題がありました。だからこそ当社では、お酒を楽しむ人たちと直接つながり続けるため、2023年にコミュニケーション本部を新設してCRMに取り組みました。

 CRMと聞くと、「クーポンなどで顧客を囲い込む」イメージが強いかもしれません。もちろんキャンペーン施策も実施していますが、それだけでは競合他社と差別化できないのです。何より当社のファンになっていただくために、“お得”以外の価値をお客様に提供する必要がありました。

サントリー株式会社 コミュニケーション本部戦略推進・CRM部長 馬場直也氏ビールカテゴリーでのブランド担当業務を経て、宣伝部でデジタルコミュニケーション全般に従事。2024年4月より酒類部門のコミュニケーション本部でCRMを管轄する。
サントリー株式会社 コミュニケーション本部戦略推進・CRM部長 馬場直也氏
ビールやRTD(Ready to Drink:そのまますぐ飲めるアルコール飲料)カテゴリーでのブランド担当業務を経て、宣伝部でデジタルコミュニケーション全般に従事。2024年4月より酒類部門のコミュニケーション本部でCRMを管轄する。

安成:課題に対して、dentsu Japanとして何がポイントになると考えたのでしょうか。

松林:差別化をしながら、“ブランドらしい”体験を提供するために、dentsu Japanが推進する「マイルドCRM」の考え方を採用いただきました。マイルドCRMとは、購買よりも前の共感や体験段階から顧客とつながり、プラットフォーマーのデータなどを活用し顧客理解を深め、ブランドに対する共感を高めてファンになってもらう仕組みです。

株式会社電通 第6マーケティング局CXコンサルティング1部長 松林哲也氏クライアントのブランドやサービスが顧客とつながり続け、ストック型のマーケティングを実現できる体験設計を支援。2024年まで電通デジタルに出向し、「CX-Connect」の構想全体を統括した。今回のプロジェクトでは、各施策がマーケティングで果たす役割についての方針の擦り合わせなど、全体構想のリードを担う。
株式会社電通 第6マーケティング局 CXコンサルティング1部長 松林哲也氏
クライアントのブランドやサービスが顧客とつながり続け、ストック型のマーケティングを実現できる体験設計を支援。2024年まで電通デジタルに出向し、「CX-Connect」の構想全体を統括した。今回のプロジェクトでは、各施策がマーケティングで果たす役割についての方針の擦り合わせなど、全体構想の支援を担う。

馬場:サントリーのLINE公式アカウントである“おとなサントリー”は、約2,500万人の友だちを有しています。その規模を活用して、新たなCRM基盤へと進化させました。具体的には、当社のキャラクターとして親しまれている「アンクル」をメッセンジャーに起用。トーク画面で常に表示される「リッチメニュー」の活用も強化して、お客様が幅広いカテゴリーの商品に触れられるような設計のLINE公式アカウントにリニューアルしました。

 ただ、LINEは基本プッシュ型で情報が届くメディアなので、お客様が能動的に使っていただくサービスが必要だと考えていました。

画像出典:https://www.suntory.co.jp/news/article/14786.html
画像出典:https://www.suntory.co.jp/news/article/14786.html

身近な人にお酒を贈れる「ノンデネ」

安成:おとなサントリーでは、新サービス「ノンデネ」を2025年8月に開始しました。サービス内容について、詳しくお聞かせください。

馬場:ノンデネは、日常の人間関係の中で生まれる「想い」「気持ち」をお酒とともに贈れるサービスです。おとなサントリーをより魅力的にするためのサービスとして、開始しました。

 サービスの利用手順は、LINE公式アカウントからメニューにアクセスし、メッセージが入ったスタンプを選んで決済、ドリンクチケットと一緒に相手に送信するだけです。受け取った人は、コンビニで対象商品の中から好きなものを選んで引き換えることができます。

「ノンデネ」コンセプトムービー

馬場:昨今、お中元やお歳暮を贈る人が減っているといわれていますが、当社にとってギフトは贈る側・受け取る側に体験が創出される重要な顧客接点の一つです。そのため、今までも「ザ・プレミアム・モルツ」やウイスキー商品でギフト接点を大切にしてきました。その考え方が、ノンデネのサービス設計につながっています。

 また、ノンデネはLINE公式アカウントからメッセージが届いていない時も、お客様から能動的に使っていただけるサービスです。誰かに気持ちを伝えたい時、本サービスを使ってもらいたいと考えています。

お酒で気持ちを伝える“人間関係の潤滑油”に──「ノンデネ」の体験設計

安成:コロナ禍以降、お酒を楽しむシチュエーションも変化しています。ノンデネは、新しいコミュニケーションを提案するサービスになりそうですね。dentsu Japanとしては、どのような意図で企画したのでしょうか。

宮本:私を含め、コロナ禍に入社したメンバーは、お酒でコミュニケーションを取る経験が少なく、上の世代と温度差を感じていました。「気軽に飲みに誘えなくなった」という話も聞きます。しかし、若い世代でもお酒自体は好きな人も多く、気持ちを伝える手段になり得ます。お酒を1缶から贈れるサービスがあれば、普段は言いづらいメッセージも伝えやすくなるのではないかと考えました。またCRM施策として、“お得”の訴求ではなく、お客様の利用習慣になるフェーズまでたどり着けるかを、まず考えました。

 そこで、ノンデネのコンセプトを単なるギフトサービスではなく、“人間関係の潤滑油”に設計しました。ただお酒を贈るという手段にとどまらず、コミュニケーションを再定義するツールとしての役割を持たせられれば、新しい習慣の創出と文化の醸成につなげられると思っています。

株式会社電通 1CR プランニング局アートディレクター 宮本結以氏アートディレクターとして、今回のプロジェクトではキャラクターやUI、トンマナ設計を担当した。他にも、クリエイティブチームとして、効果的な施策を提案。
株式会社電通 1CR プランニング局 アートディレクター 宮本結以氏
アートディレクターとして、今回のプロジェクトではキャラクターやUI、トンマナ設計を担当した。他にも、クリエイティブチームとして、効果的な施策を提案。

安成:ノンデネでギフトと一緒に贈れるスタンプは200種類以上あります。実際に、どのようなものがよく使われていますか。

馬場:人間関係で直面する様々なシチュエーションに合わせたメッセージスタンプを用意しました。「誕生日おめでとう」といった記念日のスタンプに加え、「何も聞くな、ただ受け取れ。」「一杯ごちそうさせてください」「ほんの気持ちです」という記念日ではなく、日常生活で生まれる気持ちを表現するスタンプもよく使われています。どのスタンプがどの程度使われているかを確認しながら、時期に合ったものを加えていきたいと考えています。

 ノンデネは、様々な気持ちを表現したスタンプの種類が多い点と、受け取った側が店舗で商品を選べる点が、従来よりある他のデジタルギフトサービスと異なります。サービス開始後、SNSでも「ノンデネなら、普段言いにくいことを伝えやすい」といった反響をいただいています。

「複数カテゴリーの商品を買う人」を増やす

安成:LINE公式アカウントのリニューアルについて「幅広いカテゴリーの商品に触れられるような設計にした」というお話がありましたね。しかし消費者の中には商品と企業名が結び付かない方も多く、カテゴリーを横断して企業とブランドを認知してもらうことは大きな課題です。サントリーではどのように取り組んでいますか。

馬場:サントリーの酒類は、ビールやウイスキーからワインまで幅広いカテゴリーを持つことが強みだと考えています。おとなサントリーという場での配信や複数カテゴリー商品を対象としたキャンペーンを通じて「これもサントリーの商品なんだ」と、お客様に気づいてもらうことが重要と考えています。

 データを見ると、購入金額が高い人は色々なカテゴリーの商品を飲んでいる傾向にあります。このようなカテゴリーを横断して購入いただけるお客様をどう増やすか、データを見ながら設計しています。

安成:データを効果的に活用するための仕組みは、どのように設計されましたか。

吉田:クリック数などLINEの中の行動データだけでなく、購買データも一部紐づけて基盤を構築しました。さらに、意識調査のデータも連携しています。IDベースで「このような行動・購買をした人は、どのような意識を持っているか」というデータが把握できる仕組みになっています。

吉田:そして「ブランドに共感する体験をしてもらう」「様々なカテゴリーを横断してブランドを好きになってもらう」という目標から逆算して、データ設計を考えました。たとえば、ビールに関する配信ばかりに反応する人を増やしても、これらの目標を達成できません。複数のカテゴリーの商品の情報に触れているかという指標が重要になります。また、常設メニューに能動的に触れる層がどの程度いるかという点も重視しました。

株式会社電通 データマーケティング局シニア・プランナー 吉田 裕希氏電通のデータマーケティング局で、CRMプランナーとしてクライアントの課題をデータで解決する支援を行う。本プロジェクトでは、目標を達成するための重要指標の設計や分析業務を担当。
株式会社電通 データマーケティング局 シニア・プランナー 吉田裕希氏
電通のデータマーケティング局で、CRMプランナーとしてクライアントの課題をデータで解決する支援を行う。本プロジェクトでは、目標を達成するための重要指標の設計や分析業務を担当。

吉田:このように、カテゴリーを横断するお客様を増やすために必要なデータの捉え方とは何か、一つひとつ判断していきました。そして、意識調査のデータも踏まえ「こういう方々がロイヤルカスタマーになりやすい」という仮説を探っていきました。

お客様に「能動的に使ってもらう」場を作るために

安成:今後、CRM施策にどのように取り組んでいきたいと考えていますか。

馬場:おとなサントリーを「お客様に能動的に使ってもらう場にする」ことを目指し、ギフト以外にもサービスを提案していきたいと考えています。12月からはAIを活用した対話型サービス「忘年会まかせろAI」をリリース予定です。メッセンジャーのアンクルがエリア・お店の雰囲気・ジャンルなどの会話を通じて「ザ・プレミアム・モルツ」をおいしく飲める忘年会候補のお店を教えてくれたり(※東京都限定)、今年のトピックを伝えるとその忘年会にふさわしい乾杯挨拶を考えてくれたりするサービスになります。

馬場:また、お客様の属性やブランドとの関係性に応じてコミュニケーションを変える取り組みもさらに加速していきたいと思います。

宮本:「ブランドのファンになる」ということをシビアに捉えると、企業側からコミュニケーションを押し付ける施策は本質的ではないと思います。馬場さんもおっしゃるように、お客様に能動的にアクセスいただくことが重要です。今後も、クリエイティブの力で共感を得て、能動的な行動につなげられる施策実現に取り組んでいきたいです。

吉田:「この人はこの属性だからこの商品を届ける」という最適化ではなく、セレンディピティ(偶然の出会い)といった体験を大切にしたいと考えています。アクションしたくなる、思わず触れたくなる、何もない時でも来たくなる。様々なルートでそのような関係をお客様と築いていきたいですね。幅広い視点でデータを見ながら、引き続きサントリー様を支援してまいります。

データとクリエイティブでより良い顧客体験を

安成:今回の取り組みは、dentsu Japanが掲げる「CX-Connect」の構想を体現する事例の一つです。今後の展望をお聞かせください。

松林:CRM施策は「データをリッチにすること」を重視しがちですが、それだけで本当に良い体験を提供できるといえるのでしょうか。

 サントリー様は、多様な施策によってブランドとお客様の接点を作り、その体験がデータとしてつながり、次の体験を生む循環を実現しています。クリエイティブの可能性を信じ、さらなる顧客理解を目指しながら体験を創造しているからです。

 いかに体験から顧客を理解して、次のアクションにつなげていくか。今後もそれを重視して、私たちもグループ一丸で支援に取り組んでいきます。世の中の変化に応じてどのような体験を提供できるか、企業のパートナーとしてともに考えていきたいと思います。

馬場:データはマーケティング活動の基盤であり、ここをないがしろにしてはいけません。一方で、データだけを見ていれば良いわけでもありません。データを土台にして、いかに偶然の出会いを生むか、いかにクリエイティブで“サントリーらしい体験”を提供できるかに注力していきたいですね。

 今回のプロジェクトは、dentsu Japanの各社と一つのチームとなって推進しているからこそ、実現できた取り組みだと実感しています。

安成:本日は貴重なお話をありがとうございました。

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この記事の著者

加納 由希絵(カノウ ユキエ)

フリーランスのライター、校正者。

地方紙の経済記者、ビジネス系ニュースサイトの記者・編集者を経て独立。主な領域はビジネス系。特に関心があるのは地域ビジネス、まちづくりなど。著書に『奇跡は段ボールの中に ~岐阜・柳ケ瀬で生まれたゆるキャラ「やなな」の物語~』(中部経済新聞社×ZENSHIN)がある。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:株式会社電通コーポレートワン

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2025/12/03 10:30 https://markezine.jp/article/detail/50008