人に求められるコンテクストの作成能力
生活者エージェントから引き出したニーズは、商品開発やマーケティング施策の立案に活用することが可能だ。マルチエージェントが機能している組織なら、経営やマーケティングなどの専門家エージェントを呼び出して施策をブラッシュアップできるという。「ブラッシュアップを通じて施策を各社ナイズすれば、生成AI活用企業のアウトプットが似通ってしまう問題も解決される」と山崎氏は補足する。

ブラッシュアップした施策は、再び生活者エージェントに投げかけてバーチャルテストマーケティングを行う。「この施策で商品を買いたくなる?」「この新商品を買ってみたいと思う?」などの質問を10~100万人単位の生活者エージェントに投げかけ、最も確度が高くイノベーティブな施策を展開するのがアクセンチュア流だ。
アクセンチュアと同様、顧客企業のAIエージェント活用を支援するプレイド。同社の牧野氏は「消費者目線でもエージェンティックな体験が当たり前になりつつある」と語る。
東京大学工学部卒業。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了後、2009年から2014年まで日本IBMのソフトウェア開発研究所で分散データベース、並列プログラミング言語、テキスト分析など、大規模データ処理および機械学習の研究開発に従事。2015年プレイドに参画し、KARTEのリアルタイム解析エンジンを担当。2019年より執行役員 CTOに就任。
「これまではキーワードを入力して検索するスタイルが主流でしたが、今後は自然言語で検索したり、提示された選択肢から選んだりするスタイルに変わるはずです」(牧野氏)
このような変化を踏まえ、プレイドではデータからコンテクストを正しく把握できるような仕組みを整えているそうだ。そのためのステップとして、牧野氏は次の三つを挙げる。

第一ステップでは、コンテクストを掴むためのデータを作る。第二ステップではデータからコンテクストを分析し、最後にコンテクストから有効なアクションを抽出して、アクションからまた新たなデータを得てコンテクストの分析へと進む流れだ。このような循環を生み出すためのサービスおよびコンテクストを理解したAIエージェントを、プレイドでは提供している。
AIの活用方法で差別化する時代に
ここでモデレーターを務める坂部氏は「価値創造の本質はどこにあるのか」というテーマでパネリストのクロストークを促す。急速に変化するビジネス環境において、普遍的かつ本質的な価値を問うお題目だ。
プレイドに創業メンバーとして参画。営業、パートナーアライアンスを統括し、Googleから出資を取りまとめ戦略的パートナリングを実行。KARTE Partner Accelerate Program を立ち上げるなどパートナーエコシステムの拡大を推進。現在は、アクセンチュアと各業界における事業変革アジェンダの共創を中心とした戦略的パートナーシップをリード。
山崎氏は「効率化ではなく価値創造にこそ生成AIの本質がある」と回答。需要予測や最適化、クリエイティブの多産などにおいてAIは力を発揮するが、これだけでは生成AIの価値が10~20%程度しか引き出せていないという。
「価値創造の意味するところは、イノベーティブな施策や商品を生み出すことです。人間らしいAIエージェントを構築すれば、それらから人間では生み出せないようなニーズを抽出できます。さらに、バーチャルテストマーケティングの実現によって価値創造における生成AIの存在意義はぐっと深まったように感じます」(山崎氏)
牧野氏も山崎氏に概ね同意し「保有しているデータの種類や質が、その企業の創出する価値に直結する」と回答。他社との同質化を避けたユニークな活動の探索と、それらが届きやすいユーザーの探索、この二つをAIエージェント×コンテクストデータによってショートカットすれば、価値創造はしやすくなるとの考えだ。差別化や競争優位性については、山崎氏が次のような考えを明かす。
「AIをどのような場面でいかに活用するのか。ここに競争優位性が生まれる時代です。たとえばある企業では、顧客ニーズの深掘りにAIエージェントを活用しています。別の企業では、施策のアイデアを大量に抽出する目的でAIエージェントを活用していました。データがなくてもAIエージェントは構築できるため、活用の仕方で濃淡をつけていかなければ、他社と同質化して埋もれてしまうでしょう」(山崎氏)

