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「ブランドが語る時代」の終焉。ユニリーバが舵を切る“Social-First”という革命

“任せるマーケティング”が生む創造性ーー成功と課題

 ブランドが語らず、人が語る。広告の重心はその方向に移りつつある。企業がすべてを設計してきた時代から、クリエイターやユーザーに主導権を委ねる「任せるマーケティング」へ──ユニリーバのSocial-First戦略は、その転換を最も包括的に制度化した例である。

 同様の発想は、近年他ブランドにも広がっている。米コカ・コーラは2023年に「Create Real Magic」キャンペーンを実施し、AIを通じてデジタルアーティストにブランド資産を開放した。アート作品として再解釈されたロゴやビジュアルがSNS上で拡散し、企業が語るのではなく、人々がブランドを語る流れを生んだ。

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出典:Coca-Cola

 しかし、ユニリーバが踏み込んだのは、こうした“共創”を単発のプロジェクトではなく、企業構造そのものの思想として実装した点にある。Social-Firstはキャンペーンの手法ではなく、文化を設計する仕組みへと拡張されている。

 この構造は、創造の偶発性を取り戻す。企業が作る広告は整いすぎているが、クリエイター主導の表現は生活者の言葉に近い。時にブランドが想定しなかった感情や文脈を引き出し、新しい共感の入り口を作る。ユニリーバのマーケティング責任者が語るように、「ブランドは人々の創造性の触媒になるべきだ」という思想が、その背景にある。委ねることはブランドを薄めるのではなく、広げる行為である。

 もちろん、自由にはリスクもある。炎上や誤情報によるブランド毀損の可能性はつきまとう。それでも統制だけでは文化の速度に追いつけない。ユニリーバは厳密なルールではなく、“共有するミッション”を軸に据える。ブランドが目指す価値観を明確にし、あとは現場の創造力に託す。それがSocial-Firstの本質だ。任せることは手放すことではない。企業が一歩引くことで、ブランドは再び人々の生活の中で息をし始める。信頼に基づく共創こそ、次のブランド戦略の核である。

日本への示唆ーー共創型発信への第一歩

 Social-Firstの潮流は、いずれ日本にも波及するだろう。だが現状では、多くの企業がまだ「自社が語る」型の発信にとどまっている。企業アカウントが一方的に情報を流し、広告代理店が整えたキャンペーンを展開するーーこの構造は依然として強固だ。しかし、生活者の情報接触がソーシャル中心に移り、ブランドの信頼が“人の声”で左右される時代にあって、この距離は急速に広がっている。

 ユニリーバのSocial-First戦略が示すのは、単にSNSを活用することではない。生活者の創造性をブランドの一部として取り込む思想である。ブランドは完結したメッセージを発信するのではなく、「問い」を投げかけ、共に語る存在へと変わる。日本の企業にとっても、これは大きなヒントになる。中小企業やスタートアップでも、少人数のクリエイターと協働してブランドを“語らせる”取り組みは十分に可能だ。UGCを軸にしたキャンペーンや、ファンコミュニティを活用した製品開発など、手法は多様に考えられる。

 重要なのは、統制を手放す勇気と、価値観を共有する覚悟である。共創をうたっても、発信の自由がなければ意味がない。ブランドトーンを守るのではなく、生活者の言葉に委ねること。結果として、企業は「自分たちが何者か」をより深く理解することになるだろう。

 Social-Firstは、単なるマーケティング手法ではなく、文化を共に作る姿勢だ。企業が一歩引き、生活者の側に立って共に語るとき、ブランドは“人の中で生きる存在”へと変わる。日本のAI企業やスタートアップが次に挑むべきは、コードの最適化ではなく、共感を生む発信の最適化である。

 その先に、世界とつながる新しいブランドの形が見えてくる。

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この記事の著者

岡 徳之(オカ ノリユキ)

編集者・ライター。東京、シンガポール、オランダの3拠点で編集プロダクション「Livit」を運営。各国のライター、カメラマンと連携し、海外のビジネス・テクノロジー・マーケティング情報を日本の読者に届ける。企業のオウンドメディアの企画・運営にも携わる。

●ウェブサイト「Livit」

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/12/11 09:00 https://markezine.jp/article/detail/50093

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