ブランド認知の3割をAIが形成する時代が到来する
顧客は日頃何を見て、何を感じて、ブランドを選んでいるのか。SNSや生成AIの普及により情報量が急増する一方、人間が処理できる情報量は限られているため、顧客は膨大なデータの中から必要な情報を選別している状況にある。
「特にAIの存在は無視できない。データによると、半数以上の人が情報収集やリサーチを目的に生成AIを活用している」と髙橋氏は説明。さらに注目すべき点は、生成AIユーザーの約4割が購買判断の際にAIを活用していることである。つまり、「情報収集から購買決定に至る一連の流れがAIを介して行われる時代へと進みつつある」のだ。
ガートナーの予測によると、2026年までにAIがブランド認知の3割を形成するとされているデータを踏まえ、「今後は、企業やブランドがAIにどう語られるかが、ブランド認知やブランド形成に大きく寄与する要素になってくると考えられる。セッションでは、生成AI時代の顧客に“選ばれる理由”について共有したい」と髙橋氏は語る。
“選ばれる理由”は、購買データの外側にある
今日では顧客理解やブランド理解のために、多くの企業が実施しているデータ分析。データ分析と聞いて多くの人が最初にイメージするのは、内部データ(売上・POSデータや広告配信・キャンペーン効果データなど)ではないだろうか。これらは顧客や売上に直結する“リアルな行動データ”とされている。
一方で、近年のデータ量増加と影響力の増加とともにニーズが高まっているのが、外部データ(SNS投稿やニュース記事、レビューサイトなど)であり、顧客の声を“リアルタイムに反映するデータ”とされている。

「生活者のニーズや価値観が変化していく中で、今後は内部データと外部データを掛け合わせながら、ブランドがどのように語られているかを見ていく必要がある。それをいかに施策に落とし込んでいくかが、今後のブランド戦略の主軸となっていくだろう」(髙橋氏)
実際、ここ数年で多くの企業が、「ブランドヘルスの可視化(対競合での立ち位置)
」「インフルエンサーやKOLの発掘」「新規ターゲット層の発掘、ファン理解の向上(Whoの分析)」といった目的で外部データの活用に着手している。
しかしながら、データ分析は決して簡単ではない。「統合的なデータ分析環境が整備されていない(ツールや指標の分断化)」「膨大なデータから有益なインサイトを導き出せていない」「分析結果が社内での意思決定や具体的なアクションに繋げられていない」といった課題は、多くの企業が共通して抱えている悩みである。
このような課題解決を支援しているのが、世界有数のメディアモニタリング企業であり、ブランド・消費者理解の向上やデータに基づいた意思決定を支援するMeltwaterだ。
【事例:食品メーカーA】インサイト発掘で新規顧客層を獲得
セッションでは、Meltwaterが支援した事例として、健康飲料Aを展開する大手総合食品メーカーAがSNSデータを活用してインサイトを発掘し、新たな顧客層を獲得した取り組みが紹介された。
【課題】ブランド認知は非常に高いものの、購買層の固定化により売上が伸び悩んでいた。特に若年層へのリーチができていないことが主要な課題であった。社内では、健康志向の消費者以外に訴求すべきターゲット層について議論されていた。
Meltwaterの協力のもと、SNSデータの分析から「健康飲料A × 美容」「美白効果」といった投稿が増加している傾向が明らかになった。美容系インフルエンサーによるハッシュタグ付き投稿など、健康飲料の枠を超えて"美容目的での摂取"という新たな文脈で語られ始めている兆しをつかんだのだ。

食品メーカーAは発見したインサイトを、広告運用へ適用。従来の健康関心層から美容関心層を中心とした配信セグメントを新たに設定し、美容関連のメッセージを押し出した広告クリエイティブを展開した。また、UGCの創出においてインフルエンサーを起用したキャンペーンを実施し、20代から30代の若年層へのリーチを拡大に成功した。
顧客ニーズの変化を捉える“SNS分析フレームワーク”の構築
Meltwaterが支援に入る以前、先ほどの事例の食品メーカーAのSNS担当者は、日々SNSで自社商品がどのように語られているかをチェックしているものの、膨大なデータの中から傾向の変化やニーズを掴みきれないという課題を抱えていた。「分析環境が未整備で、参照データも一部のSNSに限られており、他チャネルの重要なインサイトを見逃していた。またインプレッションやリーチといった数値の意味の良し悪しが判断できず、情報に溺れてしまっている状況だった」と髙橋氏は当時を振り返る。
このような状況を解決する肝になったのが、「“顧客起点でのマーケティング”の実践」と髙橋氏は示す。Meltwaterが構築した「SNS分析フレームワーク」に沿って進めることで、顧客ニーズの変化を捉え、そこで見つけたインサイトを具体的な施策に展開することができるようになった。
SNS分析フレームワーク
第1段階:集める(データ基盤整備)
従来はXのみ・サンプルデータで分析を行っていたが、Instagram、YouTubeなど他チャネルの貴重なインサイトを見逃す恐れがあった。そこで、SNSチャネルを横断し、対象ブランドを全ブランドに拡大することで、情報収集の網羅性を向上させた。
第2段階:揃える(共通言語の構築)
データの意味付けが不明確であったため、指標の統一化を実施(例:いいね=共感、QP=意見付き拡散)。各指標の定義を明確化することで、ブランド担当者やマーケティング担当者が共通言語として活用できるように。
第3段階:解く(データの読み解き)
データの読み解きにはスキルや時間が必要であるという課題に対し、統一フォーマットで分析精度を向上させるようにしたほか、AI分析で即座にインサイトやトレンドを抽出できるようにした。
第4段階:繋げる
分析結果を具体的なアクションに繋げられるようにするべく、各ブランド担当者へのインサイトレポートのリアルタイム共有や、施策への反映と改善サイクルの高速化を可能にした。
【事例:食品メーカーB】SNSデータを基にしたリブランディング
続いて、大手食品メーカーBのリブランディングに関する事例が紹介された。
【課題】「小腹を満たす」というコンセプトで商品Bを展開していたが、実際の消費シーンや目的に関して、明確な根拠に基づいた理解ができていなかった。
現状を把握する目的で、ユーザーの属性分析調査を実施。従来の肌感覚に頼った推測ではなく、AIを活用したソーシャルリスニングによってユーザー群を抽出し、クラスタリング分析を行った。その結果、健康志向、筋トレ、ボディメイクといった運動後の摂取を目的とした層が相当数存在することが判明した。ブランドが気づいていなかった、ユーザーにとっての商品価値が明らかになったのだ。

このインサイトを鑑み、従来の「小腹を満たす」という商品メッセージから、健康志向食品としての機能訴求へとシフトすることを決定。プロテイン含有量などの具体的な栄養成分を前面に押し出したメッセージングに変更し、健康志向層へのリーチを拡大した結果、購入率およびリピート率の向上につながったという。
AI上でブランドがどのように語られているか
以前からソーシャルリスニングの重要性は認識されていたが、前述の事例のように、AIを活用することで、分析のPDCAをより早く回していくことが可能になる。さらには、生活者の多くが情報収集やリサーチを目的に生成AIを活用していることから、「AI上でどのようにブランドが語られているか」を認識することが、顧客理解において欠かせない。
そこで注目したいのが、Meltwaterが展開する「GenAI Lens」である。GenAI Lensは、ChatGPT、Gemini、Perplexity、Claude、Grok、DeepSeekなどの主要なAIアシスタント/LLMにおいて、自社のブランドや製品、競合がどのように言及されているかを収集・分析する。LLMの回答内容を取得し、それがどこから情報を取得しているかも可視化できる。

【主な活用例】
・生成AIツールにおけるブランド・製品のモニタリング
・ブランド認知や炎上リスクの早期検知や管理
・PR戦略やメディアアプローチの最適化
・競合分析やインテリジェンス収集
・AEO(Answer Engine Optimization)/GEO(Generative Engine Optimization)対策
・特定ブランド・業界・テーマのカスタムモニタリング
最後に、髙橋氏は今日の講演のポイントを三つにまとめ、セッションを締めくくった。
「一つ目は、選ばれる理由は社内データだけでは見えてこないということ。外部データに注目することで、お客様のリアルな悩みや声を把握できる。二つ目は、ソーシャルリスニングでインサイトを可視化すること。SNSや口コミから、選ばれる理由や選定要因を発掘していく。三つ目は、生成AIと外部データの組み合わせで打ち手を加速できること。効率的にインサイトを導き出し、それをアクションにつなげるためのAI活用が、今後のブランド戦略の鍵となる。Meltwaterでは学びやインサイトが得られる情報を伝えていきたい」(髙橋氏)

