TikTok Shopが作る偶然の出会いに可能性を感じた
━━今回、IZULCAと兵庫県豊岡市がTikTok Shopの活用に至った背景を教えてください。
榎原 TikTok Shopには、ディスカバリーEコマースと呼ばれるユーザーがコンテンツを通じて偶然興味のある商品を発見でき、即座に購入ができる特長があります。この特長と地方の特産品の相性が良いと考えました。地方には品質の高いものが数多くある一方、まだ全国的に知られていないケースが多いためです。
IZULCAでは、TikTok Shopの地方自治体との事例を作るべく様々な自治体・企業とお話をする中で但馬米穀の木村社長とご縁があり、私たちの事業構想をお話ししたところ、兵庫県豊岡市での取り組みに発展しました。
豊岡市は自然豊かで地域産品に恵まれているにもかかわらず、東京や大阪などの都市部から離れているため、その魅力がなかなか全国に伝えきれていないという課題がありました。
木村 豊岡市のような地方にある中小企業にとって、ECサイトを開設したり、大規模な催事に出展したりするには、コストや労力の面で大きな負担があります。特に少量しか生産できない特産品は、なかなか発信の機会が得られません。
しかし、TikTok Shopであれば、出店やショップの運営に固定でコストがかからない点がチャレンジしやすいと思い、IZULCA様と取り組むことに決めました。
━━TikTok Shopに出店して運営するのには、どのようなコストがかかるのでしょうか。
王 TikTok Shopでは、出店時の初期費用や月額費用は発生せず、商品が売れた際に販売手数料7%(決済手数料込み)が必要となる仕組みです。
もちろん、TikTok上で商品を知ってもらうための動画制作などにコストはかかりますが、その動画自体が広告宣伝にもなり、今回のケースであれば豊岡市の地域文化や魅力を伝えることにもつながります。ショップの利用自体にコストがかからないのは、TikTok Shopの大きな魅力の一つです。
「地域密着」を追求したLIVE配信
━━今回の取り組みは、豊岡市の官民共創制度を活用されたとのことですが、取り組みの全体像と、LIVE配信の構成・内容で工夫した点を教えてください。
榎原 但馬米穀様と弊社で、豊岡市が用意していた官民共創制度に応募し、採択されたことで実施に至りました。豊岡市から地元の生産者や事業者へ公募が行われ、TikTok Shopと相性の良さそうな7事業者9品目を選定し、販売しました。
LIVE配信は2日間で各3時間ずつ、豊岡市の現地から実施しました。単にスタジオで行うのではなく、地域密着を追求したユニークなロケーション設定が今回の大きな工夫点です。初日は、ちょうど収穫時期を迎えたお米の田園風景をバックに実施し、2日目は城崎温泉街からの中継ロケをしているような雰囲気で配信を行いました。
王 屋内で実施されるLIVE配信が多い中、豊岡市の自然豊かな風景や、温泉街のリアルな雰囲気をそのまま伝える屋外配信は、視聴者にとっても新鮮な体験になったはずです。
また、LIVE中には豊岡市長や市のマスコットキャラクターもご出演いただき、行政とのオフィシャル感のある配信を演出できた点も、信頼性向上に寄与したと考えます。
木村 LIVE配信では、私たち生産者や事業者が直接出演し、MCの方とQ&A形式で商品を紹介しました。テレビショッピングと違い、視聴者からの質問やコメントがリアルタイムでたくさん入ってきます。その質問に的確かつわかりやすく、そして情熱を持って答えることで、双方向のコミュニケーションが生まれます。これが購買意欲につながると感じました。
榎原 ユーザーメリットの創出も意識しました。TikTok Shopからもクーポンを発行いただき、お得感のある価格で商品を提供できました。また、LIVE配信の最中に、予想以上の売れ行きで想定していた販売数が完売したため、その場で木村社長に販売の追加をその場で交渉しました。このライブ感こそが、視聴者を惹きつける大きな要因になったと思います。
LIVE配信の視聴&売上最大化に効く広告の活用法
━━今回はLIVE配信の効果を倍増させるためにTikTok広告も活用されていますが、活用した広告ソリューションや、成果を高めるための工夫について教えてください。
兼田 今回活用したのは、TikTok ShopにおけるGMV(流通総額)の拡大を実現する広告ソリューション「GMV Max」です。これは、ROI(投資対効果)とGMVを最大化するよう、オーガニックトラフィックと広告トラフィックを最適化するのが特長です。良質なコンテンツをより多くのユーザーに届け、最終的に売上という成果に結びつける役割を担っています。
榎原 広告の成果を高めるため、LIVE配信の前に緻密なクリエイティブ戦略を実行しました。豊岡市全体の紹介動画、各商品の特長を紹介する動画、そしてLIVE配信の予告動画など、合計14本の事前動画を制作し、GMV Maxも活用しながらトラフィックを最適化しました。
王 IZULCA様が様々なクリエイティブを用意したことが功を奏し、事前動画は合計152万回再生を達成し、LIVE当日へのアテンションを最大限に高めることができました。また、単に多くのユーザーに見てもらうだけでなく、これらの動画を見たユーザー層を分析し、LIVE当日に誘導する広告戦略も並行して実施しました。
GMV Maxでは、LIVE配信の視聴状況に応じてAIが自動で広告配分をコントロールします。そのため、LIVEの序盤から終盤まで、常に高いトラフィックを維持することができます。
LIVE全体の盛り上がりを途切れさせず、安定的に高い視聴と売上につなげるためには、GMV Maxの活用は欠かせません。

500万弱の売上を達成、想定の4倍売れた商品も
━━今回の取り組みによって得られた具体的な販売実績や、事業面で得られた成果について教えてください。
榎原 9月23日、24日の2日間のLIVE配信を通じて、最終的な売上は500万円弱を達成しました。出品した9品目は全て1個以上売れましたが、特に主力であったお米の売れ行きが好調でした。
お米は当初の予想を大きく上回り、予定していた在庫の4倍以上を出荷することになりました。最終的に、売上全体の約9割がお米によるものです。その背景には、当時の市場動向によりお米への関心が高まっていたことに加えて、産地直送ならではの信頼感、さらにLIVE配信中に在庫がなくなり追加発注を行う場面が生まれたことで、リアルタイムならではの盛り上がりが購買意欲を後押しした点が挙げられます。
木村 LIVE配信の累計視聴者数も10万人に上り、一時的な同時接続数も3,000人以上を記録しました。私自身、個人的なお付き合いのある遠方の知人から「TikTokでLIVE配信していたね」と連絡が来るなど、その拡散力の大きさに驚きました。
私たちの地域はBtoB取引が多く、一般消費者へのBtoC販売や、ダイレクトな顧客との接点が非常に少ないという課題がありました。今回のTikTok Shop活用で、BtoCの販路に活路を見いだせたことは、大きな事業効果です。また、行政と一緒に取り組んでいるという安心感は、購入を迷う新規顧客の背中を押してくれたと思います。
榎原 また、ショップ側に固定費がかからないため、仮に売上が立たなくても大きなリスクを負いません。そして、LIVE配信を通じて、ダイレクトにお客様から商品に対する質問やコメントを受け付けられるため、市場のリアルな声を収集し、今後の商品開発や販売戦略に活かせるという点も、非常に大きな成果だと感じています。
実践から得た成功の秘訣と学び
━━今回の取り組みを通じて得られた学びや知見、そしてTikTok Shopの活用を検討しているEC担当者へのアドバイスをお願いします。
王 今回の事例は、消費者と企業、双方にとって新しいショッピングモデルを提示できたと考えています。成功の鍵は、徹底した事前準備と周到な連携にあります。今回のLIVE配信が成功したのも、2カ月前からIZULCA様と弊社で詳細な企画やリハーサルを重ねてきた結果です。
そして、EC担当者に注意していただきたいポイントとしては、一気に注文が急増したときの対応です。BtoB企業様にとっては、小口多量のBtoC注文の急増に、これまでの発送体制では対応しきれないという問題が発生する可能性があります。販売機会を逃さず、お客様の期待に応えるためにも、発送対応まで含めた万全な体制構築が重要です。
榎原 地方創生というテーマで見たとき、TikTok Shopは非常に有用なツールだと確信しました。しかし、TikTokのユーザーボリュームとプラットフォームの力を最大限に活かすためには、TikTok Shopの担当者の方との連携が不可欠だと、今回の取り組みを通じて感じました。
私たち単独では、GMV Maxの効果的な運用方法やクリエイティブのトレンド、ユーザー層の分析といったノウハウがまだまだ不足しています。事前の準備段階から、情報共有や戦略策定を密に行うことで、今回の成果につながりました。いかに密に連携し、PDCAを回していけるか、スピード感を持った対応ができるかが、今後のTikTok Shop活用のアドバイスになります。
木村 地方のサプライヤーとして最も気を付けたいのは「信用」です。SNSやプラットフォームは良いことも悪いことも瞬く間に拡散されます。TikTok Shopでは「発送まで3日以内」などのルールがあり、私たちはその原則に従い、1件1件の注文を丁寧かつスピーディーに対応することを徹底しました。ここでの信用構築が、今後の販路拡大につながると考えています。
TikTok発の地方創生を拡大していく
━━最後に、今後のTikTok Shopの活用や、地域経済の活性化に向けた展望についてお聞かせください。
榎原 まずは、今回の豊岡市の成功事例を基に、より多くの自治体や地方ビジネスを営む企業様からお声がけをいただいています。この実績を活かし、さまざまなエリアで地方創生の仕掛けを展開していきたいと考えています。地方の優良な特産品とユーザーをつなぎ、地方経済のデジタル化を推進していきます。
木村 今回の成功で、私たち但馬米穀が長年抱えていた、東日本への販路拡大という課題に活路を見いだせました。今後は、今回のようなショッピングLIVEも継続しつつ、、TikTok Shopを主軸としたBtoC販売を安定化させ、全国のお客様に継続的に商品を販売していきたいと考えています。
王 IZULCA様はTikTok Shopの公式認定パートナーとして、今回非常に大きな成果を出されました。TikTok Shopとしては、今後もこのような公式認定パートナー様と手を組みながら、LIVEとショッピング動画、そしてGMV Maxのような広告ソリューションを効果的に融合させていきたいと考えています。
兼田 TikTok Shopに可能性を感じて出店を検討される企業やブランドは今後増えていくと思いますので、そういったお客様に対しGMV Maxをはじめとした広告ソリューションを提案していきたいです。広告があるとないとでは売上などの成果も大きく変わってきますし、コメントなどの反応にも変化があります。今後はコメントなどの反応をもとにクリエイティブの方向性を変えていくなど、さらなる改善につながる施策を広告主様、代理店様と作っていきたいです。

