試行錯誤を経た三度目の挑戦
──最初に「味のもト~ク」の概要を教えてください。
岡村:味のもト~クは、当社のオウンドメディア「AJINOMOTO PARK」の中に設置されたコミュニティです。ユーザーの皆さま(味とも)が食事の写真をシェアする「ごはん日記」のほか、開発担当者との交流や独自の企画が楽しめるブランド別の「広場・ラウンジ」などで構成されています。
岡村:私たちが所属しているコミュニケーションデザイン部では「出会う、つながる、はぐくむ」というテーマで、ファンづくりのプロセスを考えています。多くのマーケティング施策は「出会い」の創出に寄与しますが、コミュニティはその先の「つながる」と「はぐくむ」を担うものです。味の素社がどのような思いで商品をつくっている会社なのか、開発者一人ひとりの情熱や人柄を伝えることで「商品を売る人・買う人」という関係ではない、信頼や共感に基づくつながりの構築を目指しています。
──コミュニティ運営は今回が三度目の挑戦だとうかがいましたが、過去にはどのような試行錯誤があったのでしょうか?
張:味の素社は早くからコミュニティを運営していました。私たちが担当するよりも前の話ですが、初めはAJINOMOTO PARKの中にフルスクラッチでコミュニティ機能を構築していたそうです。こちらは時代の流れもあり、一度クローズしたと聞いています。
張:クローズ後は複数の企業コミュニティが集まる外部プラットフォームへの参画を通して、生活者の皆さんとつながり、理解し、ファン化を目指す取り組みを進めてきました。その中で、冒頭の「出会う、つながる、はぐくむ」を考えたときに「味の素社が好きだと思ってくださるお客さまともう一度直接つながり、次の100年を一緒に作っていきたい」と思い至り、2023年に自社単独でのファンコミュニティ(現在の味のもト~ク)を開設しました。
活性化と事業貢献のジレンマに悩んだ
──過去のチャレンジと今回の味のもト~クの違いはどのような点にありますか?
張:第一に、投稿やオンライン/オフラインイベントなどの活動を純粋に楽しんでいただくことで、一人でも多くの方に「味の素社ファン」になっていただく過程に主眼を置いている点です。第二の違いは、商品担当者や特定のブランドについて、担当者やファン同士で継続的に交流できる点が、より強化されているところだと思います。
生活者からのハッとする声(=事業に資するインサイト)や、商品開発に役立つ鋭い意見を吸い上げようとしすぎると、投稿のハードルが上がって場の活性化が進みません。むしろ挨拶や雑談などのライトな投稿を楽しく習慣化していただきながら、この場に来ることを楽しんでもらえるか。商品の知られざる魅力や苦労話をお伝えしつつ、味の素社の活動に共感してもらえるか。それらを追い求めた先に、コミュニティの活性化と事業貢献に資する情報交換があると考えています。
──パートナーとしてコミューンを選んだ決め手が知りたいです。
張:コミュニティ運営のノウハウやコンサルティングの重要性を実感していたため、伴走型の支援を求めて「社内外でコミュニティを盛り上げるチーム」を作るところから味のもト~クはスタートしました。現在はコミューンさんに加え、事務局の運営を最前線で担う他の協力会社さんのご尽力が結集している状況です。おかげさまで登録者数が増えても温かい雰囲気を保ったまま、投稿数が堅調に増加しています。
プラットフォームの選定にあたっては、想定していたコミュニティの規模に対応できる包容力があり、コミュニティ運用の支援実績が豊富な複数社を比較検討しました。オールインワン型コミュニケーションプラットフォーム「Commune」の機能性やAJINOMOTO PARKとの連携のしやすさに加え、多くのコミュニティの運営に携わってきた豊富な実績とノウハウに基づく提案とコンサルティングが魅力的だったため、コミューンさんとご一緒するに至りました。
──味のもト~クの取り組みにおいて、コミューンが果たしている役割を教えてください。
赤生:味の素社さんが表現されたい世界観を実現するご支援、これに尽きます。具体的には、レポーティングを通じてユーザーさんの日々の動きを分析・共有したり、コミュニティの課題を明確にしてネクストアクションをご提案したりしています。加えて、機能の改善要望をいただいたら開発部門に共有し、エンドユーザーさんがさらに楽しめるようにアップデートする動きも私の役割です。
張:赤生さんとは約一年のお付き合いですが、お打ち合わせをするたびにご提案の内容がどんどんリッチになっています。他社の先行事例やコミュニティ担当者が悩みやすいポイントと解決案のほか「次のフェーズへ移行するために優先すべきこと」など、戦略的なアイデアも数多くいただけるため、頼もしさを感じます。
「ほんだし」「Cook Do」の事例から得たもの
──味のもト~クの中で、特に反応が良かったコンテンツを紹介いただけますか?
本村:「ほんだし」の原料であるかつお節の製造工程を運営メンバーで取材したレポートが非常に好評でした。発売55周年のタイミングに合わせて、普段何気なく使われているほんだしができるまでの過程やこだわり、職人の熱量などをお伝えしました。品質のこだわりに対する驚きに加え「作り手の顔が浮かび、より愛着を持って使うようになった」など、態度変容につながるうれしいコメントも数多く寄せられました。
本村:また「Cook Do」の開発担当者が同商品を使ったアレンジレシピを披露した投稿や、商品改訂に込めた思いを語った投稿にも、大きな反響がありました。商品開発の中でこだわった部分をお伝えした上で各メニューとの相性を説明したり、お客様のニーズに応えた改訂内容を紹介したりしたことで、納得や共感の声が数多く寄せられました。
黒田:商品のこだわりという「機能的価値」が、作り手の口から語られることで「情緒的価値」へと変換されている好例ですね。
赤生:味のもト~クの特徴は、コメントの多さにあります。メーカーとユーザーが直接つながる機会はそれほど多くないと言われていますが、味のもト~クには運営メンバーの皆さまが必ずいらっしゃるため、ユーザーは自分の声が届く実感を持てるのです。「本村さんが見てくれた!」「開発担当者から返信が来た!」という交流の積み重ねが、味の素社の商品を選ぶ際の強い動機になっているのではないでしょうか。
──ユーザーの熱量を高めるために意識していることはありますか?
本村:私は味ともさんの投稿へコメントをする際、共感するだけでなく素敵だと思う点を具体的に書いたり、アレンジレシピを提案したりすることが多いです。味ともさんの思いを引き出しながら、私たち自身も会話を楽しむことで、投稿モチベーションを高められるのではないかと考えています。
張:「組織としてだけでなく一人の人間として、味ともさんとの温かいコミュニケーションを心がけよう」という話は本村とよくしています。機械的な返信ではないからこそ、運営メンバーからの返信や開発担当者からのリアクションを喜んでいただけると思います。使う人の目線に立つと、自身の投稿に返信があった際のわかりやすさはCommuneの特徴ですね。活発な投稿を促す大きな要素になっていると思います。
多忙なブランド担当者を巻き込むには?
──味の素社のように大きな組織の場合、各事業部との連携は一筋縄ではいかないイメージがあります。
岡村:社内のメンバーは非常に協力的で助かっていますが、やはり事業部の担当者はとても忙しい人が多いため「どうすれば参加したくなるか」は常に考えています。コミュニティに参加することで、新しい視点や手応えを得られるようにするなど、価値を実感してもらえる場づくりを目指しています。
張:まずは地道なアプローチから始めました。最初はCook Doの開発担当者に声をかけ、次はほんだしのチーム……というように、我々の活動に共感してくれる個別のチームを直接訪ね、共感してくれるメンバーを一人ずつ増やすチャレンジを続けています。各商品・ブランドの広場を立ち上げた後は、投稿が盛り上がるにつれお客様のビビッドな反応を感じられるようになります。
本村:コミュニティでの反響を受けて開発担当者が元気になり、やりがいを感じてくれたときは、コミュニティ担当者にとって非常にうれしい瞬間です。コミュニティに対する彼らの熱量や思いが高まると、他部門との取り組みもより良い形で進めやすくなります。
黒田:味の素社さんのように、担当者の内発的な動機に火を灯す方法は、コミュニティらしいアプローチであると言えます。部署ごとの論理が存在する中で強引に進めると、担当者の納得感が醸成されにくく協力を仰ぎにくくなるためです。
評価や成果といったビジネス的な納得感を掲げて動かすよりも、まずは現場の内発的なエネルギーを丁寧に増幅させることが重要です。それは「ユーザーの反応がうれしい」「ユーザーとの会話が楽しい」「自分の仕事が報われたと感じる」といったポジティブな実感と言い換えても良いでしょう。それらに触発されることで、担当者自身が「もっと良くしたい」「周りも巻き込みたい」と動き出し、結果としてブランドの成果や担当者の評価にもつながるのです。
張:味のもト~クの場合、事業部の担当者がKPIを自発的に設定してくれたんです。こちらから声をかけたにもかかわらず「せっかくやるならこれくらいの投稿数を目指したい」という目標値を示してくれました。非常にありがたかったですね。
黒田:重要なポイントです。他のブランドでうまくいっている様子を目の当たりにすると「私たちのブランドでもコミュニティを活用してみたい」というモチベーションが高まります。まずは熱量の高い人を起点に“さざ波”をつくり、徐々に大きな波を生む方法は理想的だと感じました。
SNSでは収集できない「シックデータ」
──SNSでもVoCやUGCは収集できると思いますが、コミュニティを通じて収集する意義があればうかがいたいです。
黒田:SNSは“飛距離”が出るメディアです。広く認知を広めるには有効ですが、ユーザーとコミュニケーションを重ねて深い関係を育むとなると、やはりコミュニティが適しています。また、ファンが集うコミュニティはSNSよりも安心感が高いため、参加者がブランドへの思いや愛を語りやすくなります。

黒田:また、一人ひとりのユーザーの“文脈”をとらえやすい点もコミュニティの特徴です。あるユーザーが過去に抱えていた悩みや、その商品を選んだ理由、さらにはライフステージの変化なども追うことができます。SNSで得られるのがビッグデータだとすれば、コミュニティで得られるのは「シックデータ(分厚いデータ)」でしょうか。だからこそ、得られるインサイトに圧倒的な説得力が宿るのです。
──コミュニティの成果を測るための指標と、現時点で見られている成果や変化を教えてください。
張:最初は「アクティブユーザー数」を見ていましたが、それだけではコミュニティの盛り上がりやユーザーさんの熱量を十分に可視化できないと考え、現在は「熱量の高い投稿の増加率」を重視しています。投稿やリアクションに係数をかけて、熱量の可視化を試みているところです。
立ち上げ当初は我々からブランドの担当者に依頼してコミュニティに参加してもらっていましたが、最近は「コミュニティにうちのブランドの広場を作れないか」という具体的な相談をもらえるようになりました。これは非常に大きな変化だとうれしく思っています。
コミュニティ運営に正解はない
──今後、味のもト~クをどのような場所にしていきたいとお考えですか?
本村:味ともさんが店頭などで味の素社の商品を見たときに、味のもト~クでの投稿や担当者のことをふと思い出して温かい気持ちになる──そんな状態を目指しています。味ともさんにとっても社員にとっても、来訪が楽しみな場所にしたいです。そのために、これからも一つひとつの投稿や返信に心を込めながら、会話を通じて新しい発見や共感が生まれる場所を作っていきます。

張:ゆくゆくは、社内の担当者が「この件は味のもト~クのユーザーさんに相談してみようかな」と当たり前に思えるような関係性を構築したいです。従来のマーケティングリサーチで得られるバイアスを極力排除した客観的なデータと、コミュニティで得られる熱量の高いファンの声や応援メッセージ。その両方に私たち社員が触れることで、マーケティングがより洗練され、お客様にも今以上に深い感動を届けられるようになると信じています。
──最後に、コミュニティの導入を検討している読者に向けてメッセージをお願いします。
岡村:市場環境が変化する中で、商品を売る・買うだけの関係を超えたつながりの大切さを改めて感じています。企業からの一方通行ではなく、お互いに会話をしながら関係性を育てていくことが、これからの企業活動には欠かせません。企業やお客様の数だけ理想のコミュニティがあるため、コミュニティ運営に唯一の正解はないと思います。そのような答えのない問いに、ともに向き合ってくれるコミューンさんのようなパートナーがいることはとても心強いです。
コミュニティ活用についてもっと知りたい方は
書籍では、コミュニティの立ち上げ方が詳しく解説されています。具体的なノウハウを学びたい方は、ぜひお手に取ってご一読ください。

