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「知られているが選ばれない」をどう打破する?本間ゴルフが過去の栄光を捨てて挑むブランド再定義

 創業65年以上の歴史を持つ「本間ゴルフ」。ゴルフ好きならモグラが顔を出しているロゴを一度は見かけたことがあるのではないだろうか。圧倒的な技術力を誇り、ゴルフメーカーとして一時代を築いてきた同社だが、「古臭い」「昔ながらの」ブランドといったイメージが生まれてしまっているのも事実だ。2023年12月社長に就任した小川 典利大氏はこの状況を打破するためのリブランディングを決意した。本稿では小川氏と、パートナーである読売広告社のエグゼクティブクリエイティブディレクター外山 毅氏に取材。リブランディング施策の全貌や、クリエイティブ・プロダクトに込められた想い、その現在地を探る。

過去の栄光で終わらせない、本間ゴルフがリブランディングに挑む理由

MarkeZine編集部(以下、MZ):小川様はアディダスジャパン副社長、デサントジャパン社長を歴任し、2023年12月に本間ゴルフの社長に就任されています。スポーツ用品業界の知見をお持ちですが、本間ゴルフに感じたポテンシャルや課題はどのようなものでしたか。

小川:まず、感じていたポテンシャルは2つ。過去に一度栄光を築いた伝統的なブランドであることと、日本のメーカーならではの高い技術力があることです。過去であろうと、素晴らしい技術力で一時代を創ったことは紛れもない事実。そこに大きな可能性が眠っていると考えていました。

株式会社本間ゴルフ 代表取締役社長 兼 最高経営責任者 小川 典利大氏
株式会社本間ゴルフ 代表取締役社長 兼 最高経営責任者 小川 典利大氏

 一方で、歴史があるからこそ「古臭い」「昔ながらの」ブランドというイメージがついてしまっていることは課題です。ユーザーはもちろん、取引先の販売店や内部の社員自身も、本間ゴルフの「古い」ブランドイメージにとらわれたままだったため、内側からの抜本的な改革が必要な状況でした。

MZ:老舗企業ならではのジレンマですね。短期間で売上に寄与しやすい「広告」ではなく、ブランドそのものを長期間かけて再構築する「リブランディング」に挑まれる背景もそこにあるのでしょうか。

小川:はい。大量生産・大量消費のサイクルから脱却し、価格にとらわれずに本来の価値で選ばれるブランドになるべきだと考えました。本間ゴルフは競合ブランドが次々と登場するなかで価格競争に巻き込まれ、「商品の本来持っている価値」と「実際の販売のされ方」に大きな乖離が生じる状況に陥ってしまっていました。

 短期の売上だけを見れば大々的に広告を打てばいいのかもしれませんが、それでは根本的な解決につながりません。本間ゴルフのものづくりへのこだわりを知ってもらい、もう一度「選ばれる」ブランドになるためには、ブランドの根幹を定義し直すリブランディングが不可欠だったのです。

MZ:そのパートナーとして、読売広告社を選ばれた理由を教えてください。

小川:簡単に言えば、「外山さんがいたから」です。様々な広告代理店と関わってきましたが、外山さんの発想や考え方には個人的にとても共感、賛同できました。

手作りにこだわる酒田工場の職人(匠)に圧倒、「なぜそこまで?」から深掘り

MZ:外山様はどのような提案をされたのでしょうか。

外山:「匠の繊細な技術によるクラフト(手作り)は、ゴルファーに究極の安心を与えるためにあるのではないか」とプレゼンで伝えさせていただきました。

読売広告社 エグゼクティブクリエイティブディレクター 外山 毅氏
株式会社読売広告社 エグゼクティブクリエイティブディレクター 外山 毅氏

 プロジェクトの始まる前に本間ゴルフの生産拠点である酒田工場(山形県)へうかがいました。そこで職人が一つひとつ製品を手作りしている姿に圧倒されたんです。同時に、「なぜ、機械化・自動化が進む現代で、ここまで手作りにこだわるのか?」と不思議に思い、深掘りして考えていきました。

 ゴルフは心理戦のスポーツです。私の経験談ですが、微細な変化に動揺して、その日は永遠にうまく打てなくなってしまったこともあります。そんなゴルファーにゴルフメーカーができることは、握った瞬間(モーメント)に「究極の安心」を与える製品を作ること。そのために本間ゴルフの匠によるクラフトはあるのだと考えました。そこからブランドコンセプト「Craft a moment.」が生まれたのです。

ブランドブックに記載されているブランドコンセプト

まずは本間ゴルフを知っている人々の認識を変える

MZ:リブランディングにあたり、具体的にどのような施策を実施されたのか教えてください。

外山:インナーブランディングを軸に、社内外へアプローチしていきました。1年ほどかけて、小川社長や社員のみなさんと対話を重ねながらブランドフィロソフィーを整理し、社内向けのブランドブックを制作。さらに、変化を象徴する製品として、「TW777」(ギア)のリリースに合わせブランドムービーやビジュアルも制作しました。

制定されたMVV
制定されたMVV

MZ:インナーブランディングにも様々な手法があると思いますが、なぜブランドブック制作だったのでしょうか。

小川:言語化し、常に目に入るところに置いてもらって、しつこく伝えることが大切だと考えたからです。もともと私が社長に就任してから、会社が目指すビジョンや目標、それに対する進捗は、事あるごとに社員に伝え続けてきました。

 ただ、本間ゴルフはビジネスサイドの人間からクリエイター気質の職人まで、多様な考え方をもつメンバーが働く会社です。だからこそ、様々な方向性で伝えなければブランドフィロソフィーは浸透していきません。日々の私からのメッセージやブランドブックの言葉に加え、外山さんからもスピーチをしてもらうなどして、インナーコミュニケーションを深めていきました。

MZ:ブランドブックには、ユーザー像も定められていますね。どのような人を想定しているか、詳しくうかがえますか。

小川:本間ゴルフのユーザーは自分自身の基準を持ち、人生とゴルフを愛するゴルファーです。私たちはこの方たちを「Gear Owner」と表現することに定めました。

Gear Ownerの定義
Gear Ownerの定義

 さらに具体的に言うと、今からまったく新しいユーザーを狙うのではなく、まずは「本間ゴルフは古臭いブランドだ」と認識している既存のゴルファーの印象をアップデートしていくことで、Gear Ownerを増やしたいと考えています。価格ではなく自分基準で、本当に品質の良いものを選びたい人に、まず手に取ってもらいたいですね。そのうえで、本間ゴルフを知らない層や若年層にもステップバイステップで届けていきたいと考えています。

4つのクレドを部署別・具体的な言葉で整理

MZ:ブランドブックは本間ゴルフのみなさんにとって、どのような存在になっているのでしょうか。

小川:ブランドブックは「我々の価値はどこにあるのか」を立ち返って確認する場所となっています。特に、今回定めた4つのクレド「軸はブラさない。」「セオリーは捨てる。」「世界に目を向けよう。」「ゴルファーであれ。」 は、各部署に落とし込みながら作っていった部分でした。どの部署であっても、このブランドブックに沿って行動すれば、「本間ゴルフの真髄」を見失うことなく歩めるはずです。

部署ごとのクレド
部署ごとのクレド

「伝統」ではなく「血統」の理由とは?

MZ:今回ブランドを再定義するにあたって、あえて「変えたところ」と、逆に「変えなかったところ」があれば教えてください。

小川:変えてはならないのは「技術とプライド」、変えなければならないのは「成功した過去にすがること」です。本間ゴルフは脈々と受け継がれてきた技術を活かして、柔軟に変化しながら高品質な製品を生み出すブランドであるべきでしょう。「TW777」のキャッチコピーである「血統、昇華。」に、その想いを込めました。

「TW777」のキービジュアルとキャッチコピー
「TW777」のキービジュアルとキャッチコピー(TW777スペシャルサイト「HONMA GOLF」より)

外山:老舗企業では「伝統」という言葉をよく使いがちですが、本間ゴルフ様は「血統」です。ここが重要なポイントです。

MarkeZine編集部(以下、MZ):なぜ、「血統」なのでしょうか?

小川:たとえば、「血統」という言葉がよく使われる競走馬のサラブレッドは、伝統の血筋にその時々での最良の血筋を掛け合わせることで、品種改良を重ねていきますよね。本間ゴルフも同様です。

 ドライバーのヘッド部分が木製だった時代から現代にいたるまで、「どうしたら曲がらずに飛ばせるか」を考え抜き、その時々の技術を掛け合わせてきました。逆に、競合他社に対抗するためだけに作った製品は売れませんでしたね。認知度やマーケティング力の高いライバルに打ち勝つにはやはり、長い歴史があるからこそ継承できる「血統」を重視すべきでしょう。

外山:それを踏まえて、「TW777」にはトレードマークである「モグラ」のロゴを入れたり、ヒット製品の復刻デザインを使ったりといった、「血統」を「昇華」させるための工夫を詰め込んでいます。

MZ:本間ゴルフの想いをブランドブックや「TW777」に落とし込むうえで、読売広告社として意識した観点はありますか。

外山:「脚色しすぎないこと」ですね。小川社長や現場のみなさんの熱量を、できるだけそのまま捉えることを大切にしています。また、各部署からは「いきなりメッセージを発信しても響かないのでは」と懸念する声が挙がっていたからこそ、会議やヒアリングを重ね、丁寧に時間をかけてアウトプットしていきました。

 私や読売広告社が作ったというより、本間ゴルフ様と一緒になって、ワンチームで作り込んでいったプロジェクトという認識です。

エンドユーザーに選ばれるための土壌が整い、次のフェーズへ

MZ:リブランディング後、取引先である販売店の反応はいかがでしょうか。

小川:好感触ですね。そもそも新製品「TW777」は、プロダクトとしての評価が過去製品と比べて非常に高いです。販売店はもちろん、クラブのフィッターといったプロフェッショナルからも評価され、様々なメディアで紹介いただいています。

 メーカーがいくらリブランディングしようと、販売店にとっては、売れる見込みのある商品がなければ意味がありません。クラブフィッターが太鼓判を押す高品質なプロダクトを届けることによって、販売店が推薦したくなる土台を作れたことは大きな成果だと考えています。

 しかし、魅力がエンドユーザーに100%届いているかと問われると、まだまだ道半ばだと思います。今は、勝負の土俵に再び立てた段階。世の中のブランド認知は一朝一夕で変わるものではないでしょう。短期で判断せず5か年計画のイメージで、着実に売上につなげていきたいと考えています。

MZ:まさにこれからが勝負のタイミングですが、どのようなお取り組みをされたいですか?

小川:インナーコミュニケーションの地盤が整いつつある今、これからは社員一人ひとりが「ブランド伝道師」となって、自分の言葉で本間ゴルフの価値を語れるようにしていくフェーズだと考えています。また、販売店からの評価を得た次なるステップとしては、「お客様に選ばれること」が重要です。選択肢に入れてもらうための、エンドユーザー向けコミュニケーションにも取り組んでいきたいと考えています。

MZ:読売広告社から現時点での提案やアイデアはありますか。

外山:インナーコミュニケーションはさらに力を入れていきたいです。読売広告社では、社員のモチベーション強化も支援しています。本間ゴルフ様はものづくりが軸にあるからこそ、それを生み出すメンバーのモチベーションは大きな起爆剤になるはず。ゴルファーにとっての大切な“かけがえのない瞬間”を作っていくために、これからも社内外に向けたブランディング施策を提案させていただきます。

「軸探しのパートナー」が迷いのない歩みを支える

MZ:最後に、ブランドの再構築や変革に悩むマーケターや経営者へメッセージをお願いします。

小川:経営者は誰よりも会社のことを考えているからこそ、悩みに直面する機会も多いと思います。そんなとき、自分の考えが「軸」からブレていないか、第三者に確認することは重要です。

 軸が定まればそこからの行動には迷いがなくなり、きっと結果が付いてくるはずです。逆に軸が定まっていなければ、どんなに歩みを早めても、間違った方向へ進んでしまうかもしれません。読売広告社のような広告代理店を、「軸探しのパートナー」として活用するのもひとつの手ではないでしょうか。会社も経営者自身も、立ち返るべき「軸」をしっかり定めておくことが、ブランド構築の秘訣だと考えています。

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この記事の著者

安光 あずみ(ヤスミツ アズミ)

Web広告代理店で7年間、営業や広告ディレクターを経験し、タイアップ広告の企画やLP・バナー制作等に携わる。2024年に独立し、フリーライターへ転身。企業へのインタビュー記事から、体験レポート、SEO記事まで幅広く執筆。「ぼっちのazumiさん」名義でもnoteなどで発信中。ひとり旅が趣味。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:株式会社本間ゴルフ

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2026/04/08 12:00 https://markezine.jp/article/detail/50331