サントリーが目指した、“若年層とバー文化の新しい接点”の創出
サントリーが展開する「BARグラスとコトバ」は、「気持ちだけで注文できるバー」をコンセプトに掲げた期間限定の新感覚体験イベントだ。第1弾は2024年7~8月、第2弾は2025年5月に開催された。自分に合ったカクテルグラスと“コトバ”を選び、バーテンダーに手渡すと、今の気持ちにぴったりなカクテルを作ってもらえる。

この取り組みは「サントリーの洋酒を継続愛飲してくれる現在および将来の飲み人を増やしていく」という、洋酒飲み人プロジェクトの一環。サントリーでは各ブランドがそれぞれ継続愛飲につなげる一方で、宣伝部が洋酒カテゴリー起点でのコミュニケーションで洋酒の愛飲者を増やすという両輪のアプローチをしている。
バーという非日常な空間は、「敷居が高い」「作法がわからない」といった心理的ハードルがあり、扉を重く捉えられてしまいがちだった。それを直感的に楽しめるイベントに変換し、バーの魅力を潜在層・ライト層にも提示することが本施策の狙いだ。
イベントで来場者はまず、250種類以上におよぶ“コトバ”が書かれたコースターと、「グラスルーム」に並ぶ様々な形状のグラスのなかから、今の感情に合う組み合わせを選び、次の部屋でバーテンダーに手渡す。バーテンダーはその場でカクテルを作って提供。来場者はバーテンダーとのコミュニケーションやカクテルの味を堪能し、最後にはお酒の知識が学べるブックレットを持ち帰ることもできる。
スモールスタートだった第1弾の大反響を受け、第2弾では開催期間や予約枠を拡大。メニューの拡充に加えて、事後展開も見据えた仕掛けも用意された。それが、バーテンダーの在籍するバーが載ったマップ、バーテンダーの名刺、実際のバーで自分の気持ちを自由に書いて渡せる“空の”コースターの配布だ。
同イベントを企画したサントリーの菊池氏は、「イベントだけで終わらせず、どうすれば普段の生活のなかでバーに足を運んでいただけるか、導線を意識して考えました」と、イベント設計を振り返る。
驚異の予約待ち5,000件!愛着を育み、熱量を最大化した3つの成功要因
「BAR グラスとコトバ」がもたらした反響は、サントリーの予想を遥かに上回るものだった。第1弾では、SNSのみの告知にもかかわらず予約総数は1,513件に達し、キャンセル待ちは5,000件を超え、予約率にして340%以上を記録。イベント満足度は95%、参加者のみならず認知層のバー訪問意向までも高める結果となった。
規模拡大のうえ臨んだ第2弾だったが、前回を超える大きな反響に。体験者は第1弾の3倍となり、1,800件以上のUGCを生み出す結果となった。
さらに、第2弾で実施した“空の”コースターによるバーへの送客施策も、驚くべき結果を残している。クーポンや金銭的なインセンティブが一切ないにもかかわらず、サントリーが把握している範囲で総体験数の10%を超える300名以上が街のバーを訪れたのだ。
「私たちが把握できていない方も含めると、相当数の方が街バーへ足を運んでくださったと考えています。実際『バーに行くハードルが下がった』といったお声や、『イベントで出会ったバーテンダーさんのバーに行ってみました』という投稿を多数見て、来場者のみなさまの熱量を実感しました」(菊池氏)
「BAR グラスとコトバ」の成功を支えた3つのKFS(重要成功要因)として、菊池氏は3つのポイントを挙げる。
1つ目は、「感動ポイント」とUGCの連鎖設計。「グラスルーム」のフォトジェニックさ、“コトバ”を選ぶ高揚感、どんなカクテルが出るかわからない期待、目の前で一杯が作られるライブ感など、体験の節目ごとに誰かに話したくなる要素を意図的に散りばめた。それによって、来場者が受け身ではなく、自ら感想や写真を発信する表現者になり、多くのUGCを生み出す結果となっている。
2つ目は、体験の入口を徹底して「右脳」と「好き」から設計したこと。メーカーが語りがちな商品のストーリーや品質訴求を、今回は一切前面に出さなかった。菊池氏は「あくまで重視したのは“好き”という愛着の気持ち。体験の出口でも『サントリーの洋酒を飲みましょう』といった訴求はしませんでした」と語る。
3つ目は、「五感+心」が満たされる体験の実装だ。美しいグラスルームや、味覚を刺激するカクテル、バーテンダーとの対話などを、来場者が五感と心で受け止められる設計となっている。なかには「推し」のアクリルスタンドを持ちこんで涙する人が現れるほど、来場者一人ひとりが何かに想いを馳せるエモーショナルな空間が生まれていた。
「重視したのはサントリー・お客様・バー業界の三方よしです。今回の目的がサントリーの一方的な商品PRではなく、『バー文化への貢献』という文脈だったからこそ、関わる全員の熱量が最大化されるイベントが実現できました」(菊池氏)
ここまでのイベント概要や背景を踏まえ、次のページからはTakramの渡邉氏と菊池氏によるディスカッションの様子を紹介していく。
