顧客からの信頼を得るために、失敗事例も正直に伝える
体験の場で本音を引き出すコクヨがもう一つ重視するのが、「失敗事例を包み隠さず話す」ことだ。自社オフィスで試みたものの、うまくいかなかった取り組みを率直に共有するという。
「オフィスに卓球台を置いてコミュニケーション活性化を試みました。しかし、コロナの流行中だったこともあり、感染リスクを気にしながら出社してきた社員が、わざわざ卓球をする雰囲気にはならなかった。結局、ほとんど使われなかったんです。そういう失敗も含めて、顧客と同じ課題に取り組んだ経緯として正直に伝えています」(小川氏)
成功事例だけを並べると「コクヨだからできる」で終わってしまう。失敗も話すことで、「そのコクヨが提案してくれるなら乗ってみるか」という信頼が生まれる。関口氏も「先に失敗して、それを正直に伝えることがお客様に刺さる」と深く頷いた。

関口氏はさらに、顧客との関係性そのものを再定義すべきだと説く。
「ツールがあるから価値が生まれるのではなく、顧客がそれを使いこなして初めて価値が生まれる。だからこそ、共に価値を生み出すパートナーとして顧客を捉えるべきなんです」(関口氏)
失敗を正直に語ることも、顧客を価値の創造者として捉えることも、根底にあるのは顧客への誠実さだ。サービス提供者と顧客という一方的な関係を超え、対等なパートナーとして向き合うことが、顧客の本音を引き出す鍵となる。
「オープンなコミュニケーションを通じて、顧客と一緒に課題の解像度を上げることがポイントですね」(富家氏)
BtoBのN1分析は「職能横断」が重要
顧客を立体的に捉え、対等に向き合う姿勢が信頼を生む。では、その信頼をもとに本音を組織的に引き出すには、どんな仕組みが必要だろうか。
関口氏がパナソニック コネクトで実践するのが「N1分析」だ、1社・1人の顧客に徹底的に向き合い、インタビューを通じて言葉の背景にある本音を掘り起こしていく。富家氏が「どうN=1を選び、分析を進めるべきか」と問うと、受注した既存顧客はもちろん、失注した顧客の声を聞くことが重要だと関口氏は強調した。加えて、BtoBにおけるN1分析には独自のポイントがある。それが「職能連携」だ。
「BtoBビジネスでは営業、マーケティング、カスタマーサポートと、顧客接点を持つ職能が多岐にわたります。それぞれの部門が持つ情報を統合しなければ、誤った判断を招く恐れがあります。だからこそ、N1インタビューの結果は職能横断でレビューする必要があります」(関口氏)

パナソニック コネクトでは、インタビュー1時間に対して分析に5〜10時間をかけることもあるという。なぜそこまでするのか。「お客様の本音や発言の背景、顧客企業内の力関係、周囲の部署からどんなことを言われているか。そういったことを深く洞察するには、今はこの仕組みしかないと思っている」と関口氏は言う。
またN1分析は1社で終わらない。複数社に繰り返すことで仮説を検証し、必要に応じてABテストやアンケートによる定量調査も組み合わせていく。そこから便益と独自性を導き出し、コミュニケーションアイデアとプロダクトアイデアを同時に議論する。
「商品企画とマーケティングコミュニケーションを別々に考えると、またサイロ化してしまいます。お客様の声を元に、両方のアイデアを同時に議論することが重要なんです」(関口氏)
関口氏はN1分析の注意点として「1社を深掘りしたからといって、市場全体を把握できたとは言えない」と語る。1社の深掘りと市場全体の理解を往復しながら、継続的に顧客理解の精度を高めていく必要がある。
