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[レポート/前編]富士通が取り組むデザイン思考とは テキストブック作成の背景とそのプロセスを語る


 2021年10月に富士通がデザイン思考についてまとめたPDFのテキストブック『Transformation by Design デジタルトランスフォーメーションに挑戦するデザイン戦略とサービスプランニング』を一般公開したことが、インターネット上のデザイン業界で大きな話題となった。本テキストブックには、富士通のデザインセンターが5年間かけてミラノ工科大学と共同研究をし、世界のアカデミックな研究などを参考にした知識やノウハウが体系的かつ網羅的にまとめられている。noteではこのプロジェクトを題材に、テキストブック制作の背景やデザイン思考の導入などについて語るオンラインイベントを開催。note CXO 深津貴之氏をモデレーターに、このプロジェクトを牽引した富士通のデザインセンター長 宇田哲也氏、制作ディレクターをつとめた同社グローバルマーケティング本部 コミュニティディレクターの高嶋大介氏の2名がゲストスピーカーとして迎えられた。

「transformationのために活用したい」 富士通のデザイン思考への思い

深津(note) まず、富士通さんにおけるデザイン思考の定義を教えてください。

宇田(富士通) 非常に専門的で難しそうだと感じている方も多いと思うのですが、デザイナーがデザインを描く時のその頭の中を、デザインを生業としていない方でもわかりやすく使える、トレースできる形にまとめ上げたものをデザイン思考と呼んでいます。

 その中には、手順、プロセス、ツール、マインドセットなどが含まれていますが、富士通でもっとも重視しているのはマインドの部分。ツールやプロセスは二番手三番手で、どういった心構えで目の前の問題に対峙するかを非常に大切にしています。

深津(note) たしかにデザインのコアを掘っていくと、そもそもこれって何のために作っているのだろう、これはどのように世の中を変えるんだろうといった問いを多く繰り返すことになりますよね。また実際のプロセスでも、デッサンであれば近づいてマテリアルを見たり、一歩引いて全体感をみたり、整えると壊すを繰り返したり、さまざまな取り組みを行います。ですがそういったことはデザイン分野だけでなくて、実際の経営やプロダクト開発、サービス開発、ビジネスなどでも役に立つ。それが、デザイン思考の大きな考えかたなのではないかと思います。

note株式会社 CXO 深津貴之氏

宇田(富士通) デザイン思考の具体的な適用先という意味では、新規事業開発や問題解決などに役立てることが一般的でしたが、富士通では、それを「transformation」、つまり企業や人、組織の変革に活用しようとしているところです。

 たとえばヒューマンリソースに使われているプログラムを人間起点に作り変えるなど、事業活動だけではなく、企業の活動すべてにデザインを割り当てること。そこに新しい富士通として進めているデザイン経営の根幹があります。

深津(note) 「人間起点」とは、どういったイメージでしょうか。

宇田(富士通) これまでさまざまなシステムやプログラムが企業向けに提供されてきましたが、従業員のことをあまり意識せずに開発されたシステムや教育プログラムも多くあったと思います。その結果、従業員を幸せにできたかというとそうでもないといった問題点が、徐々に顕在化してきました。

 そのおおもとをたどってみると、プログラム提供側が受ける側の心に立って開発できていないだけでなく、受ける人たちのマインドも準備ができていなかったりする。そういった部分が、デザインの力によって歩み寄ることができるようになりつつあります。

富士通が抱えていたデザインにまつわる課題

深津(note) こういったテキストブックをつくり、かつそれを世の中に公開することは非常に珍しいと思うのですが、どのような経緯でこのプロジェクトはスタートしたのですか?

宇田(富士通) これまでも富士通は、問題解決や事業創出にデザインの力を多く用いてきました。ですが今、僕らを取り巻く環境は大きく変化しています。たとえばある製造業をいとなむ企業さんであれば、製品だけではなく素材までもケアをすることや、その製品が寿命を迎えたあとのリサイクルについても考えることが、SDGsの文脈で求められるようになっています。SDGsだけでなく、カーボンニュートラルやフードロスなどさまざまな観点を意識しなければならない今、その企業や周りのステークホルダーだけの力では課題を解決しにくくなってきました。横断的なアイディアを多角的に吸収し、その中でベストを生み出すためのアプローチがいっそう求められるようになってきたんです。

 そういった変化の中で、多くの人に対してデザインをあてはめていこうとしたときに、デザインの理解にばらつきがあることを課題に感じました。

 そのときにも社内でテキストブックをつくり社内で活用したのですが、あまりに変化が激しい今の時代、僕らがただ社内でこのアセットを持っているだけでは、世界のスピードに追いつけなくなってしまいます。プロジェクトが起こるたびにこれを繰り返していたのでは時間のロスも発生します。

 こういったことは日本全体で、またデザイン業界だけでなく世界でも共有する資産にすべきなのではないか。そしてそういった認識が世の中の前提となるのが、理想の状態だと考えたんです。

富士通株式会社 デザインセンター長 宇田哲也氏

 もうひとつ、以前僕がエンジニアとして働いていたとき、アメリカのシリコンバレーの企業の方に、「日本はいろいろな企業の人が同じ問題を解いていますね」と言われました。

 アメリカだと大陸が広いので、問題が発生しそれを解決しなければならないとき、物理的な人の移動も発生しやすい。そのため、人の流動ととも問題と解決策をシェアすることができるんですよね。つまりシリコンバレーで誰かが解いている課題はすでにみんなにシェアされているので、そこで向き合っている課題は、世界の誰もタッチしていないものなんです。だからこそシリコンバレーは、世界でもっともイノベーティブであるというポジションを築いています。

 一方日本はというと、さまざまな会社が同じような課題と同じように向き合っている。もちろん守るべきルールもあると思いますが、ナレッジのシェアが進まないままでは、日本は世界と戦えないのではないかという危機感もありました。それも、無料でテキストブックを公開した理由のひとつです。

 おおもとをたどれば、テキストブックをつくる予定はありませんでした。プロジェクトではありませんでした。

 我々のチームが海外にたくさんのショールームをもっており、そこでお客さまの課題を一緒に話し合うための共創ファシリテーターの拠点をおいていました。

高嶋(富士通) そこでデザイン思考の力を活用していたのですが、そういった拠点でお客さまの課題と向き合っている富士通のメンバーでもその理解や認識にばらつきがあったため、富士通としてのブランドの品質を整える必要があると考えました。ただ、当時は体系化したプログラムもなく、社内で用いられているデザインにも属人的な部分があって……。

 富士通がヒューマンセントリックエクスペリエンスデザイン(Human Centric Experience Design)を掲げながらデザイン思考をまとめていく過程で、その実践教育プログラムをつくることに。その中で読み直しや学び直しができるよう、プログラムだけでなくテキストブックの形としてもまとめることになりました。

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この記事の著者

中村 直香(ナカムラ ナオカ)

編集部。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2026/04/03 09:13 https://markezine.jp/article/detail/50596

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