ブランドも、組織も、変わり続ける存在へ
創造性の問題は、商品や戦略だけにとどまりません。第三論文と第四論文は、いずれも石井淳蔵氏の著書『進化するブランド』(碩学舎)で展開された「進化型ブランド」という新しいブランドの捉え方を手がかりに、クリエイティブの役割や組織の中での創造性について、新たな理解を示した論文です。
京都先端科学大学の森一彦氏による第三論文『社会への行為主体を生み出すブランド機制:Brand Nexus ― 「コト的ブランド観」を手掛かりとしたブランド/クリエイティブの考察 ―』では、ブランドを「モノ」として捉える従来の考え方から、「出来事や体験(コト)を生み出すもの」として捉える考え方への転換が論じられています。
クリエイティブの役割も、単に広告などの制作物にとどまらず、ブランドを軸に顧客や社会課題、事業などを結びつけ、新しい動きや価値を生み出す活動へと広がっていると指摘されます。こうした変化は、世界的な広告賞であるカンヌライオンズの事例を通じて具体的に示されています。
また、京都工芸繊維大学の入江信一郎氏による第四論文『アイデンティティ経営の論理― 『進化するブランド』の理論的展開 ―』は、こうしたブランドの考え方を組織運営にまで拡張するものです。それによって、特別な人材だけに頼るのではなく、多くの社員が日常的に主体性を発揮しながら働ける組織のあり方が探究されます。
その中で示されるのが、「らしさ」を軸に組織を運営する考え方です。ブランドが内側から変化し続ける性質を踏まえ、組織の目的を「らしさの追求」とすることで、メンバー一人ひとりが日々の仕事の中で工夫や改善を重ねていくことが可能になるとし、こうした組織のあり方を「アイデンティティ経営」として提案します。

新たな市場が生み出されたり、環境適応そのものが市場に影響を与えたりするような不確実な状況では、「環境に合わせているつもりの行動」が正解になるわけではありません。だからこそ重要になるのが、自社のアイデンティティやパーパス、いわゆる「自分たちらしさ」を持ち続けることであることも、4本の論文を通じて感じられることでしょう。それを軸に行動することで、環境に振り回されるのではなく、自ら環境を作っていくアプローチも見出されるかもしれません。
今回の特集号は、こうした課題に対して多角的なヒントを提示しています。日々の業務に追われる中でも、一度立ち止まり、本特集を手に取ってみていただけるようでしたら幸いです。
