プロモーションにiPhoneを考慮すべきでない理由
唐突な話で申し訳ないが、多くの人が注目しているモバイルデバイスといえば、やはり「iPhone」なのではないだろうか。ソフトバンクモバイルによる割引キャンペーンや、6月29日に発売の新製品「iPhone 3G S」によって、再び注目度が高まっている。
だがメディアやプロモーションという観点からすると、iPhoneの存在は、現段階ではあまり考慮すべき存在ではない。これには2つの理由がある。1つは、iPhoneが注目されているとはいえ、そもそも普及していないということ。日本での販売台数は発表されていないので詳細は不明だが、各種報道が伝えているところによると、100万台出荷されているかどうかといった状況のようである。
一方、電子情報技術産業協会(JEITA)の2008年度(2008年4月~2009年3月)の移動電話出荷台数を見ると、約3586万台となっている。仮にこの期間でiPhoneが100万台出荷されていたとしても、その数は2%程度ということになる。携帯電話の出荷台数が大幅に減少する中、iPhoneが躍進しているといわれているが、その数はまだ決して大きなものではないということが理解できるだろう。
もう1つは、iPhoneが“PC寄り”のデバイスであるということ。そもそもiPhoneは、実際に使ってみるとPCが必要であったり、PCの知識を持っていることが利用の前提となっていたりする部分が多い。それゆえ現段階でのユーザー層はPCを積極的に利用する層と重なると考えられ、幅広いユーザー層をカバーできている訳ではない。
無論、iPhoneをマーケティングやプロモーションに有効活用できるケースがない訳ではないのだが(これについては後の連載で触れていく)、iPhoneがモバイルのマジョリティではない現状において、iPhoneに目を奪われてしまうと、“携帯電話”というより大きなポテンシャルを持つメディアを見逃すことになる。
PC寄りの意識を改め、モバイルユーザーの視点に立とう
なぜ、iPhoneの話題から始めたのかというと、モバイルサイトに取り組む上では、「モバイルサイト利用者の目線に立つ」ということが最も重要なのだが、「PCの視点」がそれを妨げてしまうケースが少なからず見られるからだ。
これまで説明してきた通り、普段PCサイトに触れている人と、モバイルサイトに触れている人との間には、そのユーザー層から利用形態まで、大きな違いがある。それゆえPCサイトの利用に積極的な人が、PCサイトと同様の認識でサイト運営を手がけてしまうと、モバイルサイトユーザーの“ツボ”を外してそっぽを向かれてしまう可能性が高い。
だが、普段PCにのみ触れている人であればあるほど「PCの方が優れている」という意識を持ちがちであり、デバイスの性能的な理由、さらにユーザーがPCと大きく異なることから、モバイルサイト、ひいては利用者自体を見下す傾向が少なからず存在するからだ。前者でいうなら「画面が狭い」「文字が入力しづらい」といった理由がよく挙げられるし、後者でいえば、ケータイ小説の人気が引き金となってネット上で広まり、2007年のネット流行語大賞で2位となったワード「スイーツ(笑)」(テレビや雑誌などの流行に影響されやすい若い女性を指す蔑称)などが、そうした傾向を象徴している。
だが逆に、モバイルの視点からPCを見た場合、「常に持ち運んで使えない」「ある程度知識がないとネット接続も難しい」といった弱点があり、そうした要因に縛られてユーザーが都市部に集中したままであるなど、裾野が広がりにくいという問題を抱えているといえる。例えばテレビ通販番組において、PCを購入するとインターネット接続のために“専門家”を無料で自宅に派遣するサービスを提供するというケースが見られるが、こうした事象は普段PCに接していない人々にとって、PCでインターネットをするのは複雑であるということを物語っているといえよう。
メディアをマーケティング活動に有効活用する上では、それぞれに優劣を付けるのではなく、互いのメリットを生かし、デメリットをカバーす方法を考える方が建設的である。そのためには一方の視点にこだわってしまうのではなく、双方を理解する姿勢が重要なはずだ。それゆえ、普段モバイルサイトに接していない人ほど、PCの視点にとらわれず、モバイルサイトのユーザーや環境を積極的に理解する必要があるといえよう。