日本は「おもてなし国」「技術立国」のどちらのイメージをプッシュすべきか?
日本には、世界に誇るべきであると少なくとも私たち日本人が感じている“異なる2つのキャラクター”があります。それは「おもてなし国」と「技術立国」です。
よくよく考えてみたら、「おもてなし国」というカントリーイメージは相当に温かいですが、それとは正反対に「技術立国」のイメージはクール、つまり有能さにともなう冷たいイメージです。両者はとても両立できそうにありません。ここで生起するのが、どちらのイメージをプッシュしたほうがよいかという課題です。
立命館大学の石井隆太先生と3名の共著者による論文「カントリーステレオタイプにおける温かさと有能さ ― 訪日意図の国際比較分析 ―(英文原文;和訳付録※PDFダウンロード)」は、単純なカントリーイメージで旅行先の国を評価するほど距離が遠い国からの訪日旅行者を対象にして、どちらのイメージが訪日意図に対して効果的であるかを調査しました。
分析の結果、先進国であるイギリスでは「おもてなし国」としての知覚が訪日意向を高める一方、発展途上国であるメキシコでは「技術立国」としての知覚が訪日意向を高めることが見出されました。この知見は、デスティネーション・マーケティングにおいて、訴求すべきイメージの軸を戦略的に選択する必要性を示しています。
訪日旅行者に対応した多文化サービスに対し、国内旅行者は不満を抱えているのか?
海外からの旅行者の激増に対し、日本の観光業者は、多言語対応や文化的配慮などの面で本当にうまく対応を行っています。その裏で、私たち国内旅行者は自分とは無関係な追加対応を行った旅行業者に対して不満を抱いているのでしょうか?
この問題に解答しようとして、関西大学の千葉貴宏先生の論文「文化横断的サービスが国内旅⾏客の満足度に及ぼす正負の影響(英文原文;和訳付録※PDFダウンロード)」では、国内旅行者をターゲットとした顧客満足度調査が実施されました。
調査の結果、訪日旅行者へのサービス提供の際、自分に対するおもてなしが絶対的に薄くなっていると感じさせた場合には、国内旅行者は確実に著しい不満を感じることが見出されました。
けれども、絶対水準が下がっておらず、ただ訪日旅行者への対応のせいで相対的におもてなしが薄く感じるという程度であるならば、確かにその不均衡により満足度を低下させる傾向を持つものの、それと同時にサービス提供者の有能さやプロフェッショナリズムを目の当たりにして、むしろ満足度を上昇させる傾向をも併せ持つ二重媒介効果が示されました。観光業者が国内旅行者の満足度を下げない工夫をする上で、含意の大きな研究ではないかと思います。

日本のインバウンド観光の展望~結びに変えて~
今回の『マーケティングジャーナル』の特集は、私の知り得る限り世界初となる「日本のインバウンド観光」でした。
私は5組の国内外の研究者に依頼して、(1)オンライン口コミ情報に基づく訪日旅行者の意思決定(2)訪日旅行者の日本滞在中の価格知覚の変化(3)メタファー広告による観光地イメージの形成(4)「おもてなし国」vs.「技術立国」という日本のカントリーステレオタイプが訪日意図に及ぼす影響、そして(5)日本の観光業による多文化サービス化が国内旅行者の満足度に与える影響という、相互に関連しつつも異なる側面を扱った論文を寄稿してもらいました。
そして、これらの論文の中に報告された研究成果は、観光研究の理論的発展に寄与するとともに、(1)口コミ戦略(2)広告戦略(3)価格戦略(4)国別デスティネーション・マーケティング(5)国内旅行者と訪日旅行者への投資バランスという、幅広い実務領域に対して示唆を与えるような貴重な成果と言えるでしょう。本特集号がインバウンド観光研究の発展に寄与し、観光産業の未来を切り開く一助となることを願っています。
