生活者の暮らしや思想が複雑化・多様化する現代、生活者の「本音」に基づいてマーケティング戦略を策定し、施策に落とし込むことの重要性が増している。従来のインタビュー調査や購買シグナルの活用が再考されるなか、博報堂は、Amazonが提供する生活者の多様なシグナルをマーケティング戦略に循環させるソリューション「Jitsulog Chat(ジツログ・チャット)」を開発した。本記事では、博報堂とAmazonの両社に「Jitsulog Chat」の開発背景や実際の活用事例を取材。 生活者の行動全般に及ぶ豊富なシグナルと生活者発想の観点に基づき設計された「AIペルソナ」との対話を介して「ファネルを遡り、拡大する」新たなマーケティング戦略の描き方について聞いた。
「シグナル×生活者発想」でマーケ戦略の描き方を変える
──今回、博報堂とAmazonの協業により「Jitsulog Chat」の開発に至った背景についてお聞かせください。
山﨑(博報堂):様々な企業のマーケティング活動をご支援するなかで、従来の購買シグナル活用は、広告出稿後に「実際に買われたか」を検証するコンバージョン計測など、主にマーケティングファネルの下層におけるメジャメントデータとして活用される傾向がありました。
得られた成果を次回の戦略へ還元しようとしても「なぜ買ってくれたのか」「次にどのような購買動機を創出すべきか」という定性的な理由や背景が見えず、次回施策の戦略立案に活かしにくいという課題を抱えていたのです。
この課題感は、以前より様々なソリューション開発をご一緒してきたAmazonとも共通するものだったのです。
中村(アマゾンジャパン):Amazon Adsには、生活者の購買・行動に基づく豊富なシグナルが蓄積されています。これらは「Amazon Marketing Cloud(AMC)」というプライバシーに配慮したデータクリーンルーム環境を通じて提供され、これまで広告の最適化や計測に活用いただいてきました。
私どもとしても、こうしたシグナルを単なる広告効果の最適化にとどめず、より上流の戦略立案やプランニングの段階から活用していただきたいと強く考えていました。
Amazon Marketing Cloud(AMC):Amazonが提供する、プライバシーに配慮したクラウドベースのクリーンルーム分析環境。広告主やパートナー企業が、Amazonの保有するシグナルを活用して分析・計測を行うことができる。
──成果の「検証」で止まってしまい、次の「戦略」へ循環しないという壁があったのですね。
山﨑:おっしゃるとおりです。そこで開発したのが「Jitsulog Chat」です。
博報堂が培ってきた生活者発想の観点と、Amazonの購買シグナルから設計する「AIペルソナ」とのチャットを介して、購買シグナルを上流の戦略策定へと循環させるサイクルを描くためのソリューションです。博報堂が掲げる次世代型メディアビジネスモデル「AaaS(Advertising as a Service)」のラインアップとして位置づけ、提供を開始しました。
いつでも何度でも。繰り返し生活者の「本音」を引き出せる
──従来の定性・定量アンケート調査と比較して、「Jitsulog Chat」にはどのような特徴があるのでしょうか。
山﨑:生身の生活者の声を聞く上で、従来の定量アンケート調査も有効な手段であることは間違いありません。しかし、世の中に出てきたばかりの新興ブランドやニッチな市場の製品の場合、調査対象となるユーザーを集めること自体が非常に困難という課題があります。
その点、Amazonの豊富なユーザー基盤を活用すれば、細かな条件で絞り込んでもプランニングに十分耐え得る母数が確保できます。
成重(博報堂):加えて従来のアンケート調査やインタビューでは、結果を見て新たな仮説が浮かんでも、時間や予算の都合から、再度立ち戻って聴取することは困難です。
しかし「Jitsulog Chat」では、シグナルに基づき多角的な特徴を掴んで生成された「AIペルソナ」に対し、いつでも何度でもチャットで対話が可能です。過去に作成したペルソナを対象に、新製品について対話することもできるため、インサイト抽出ワークをより柔軟に行えるようになりました。
中村:Amazonはストアでの購買だけでなく、Prime Videoのコンテンツ視聴など多岐にわたるシグナルを有しています。こうした購買にとどまらない多面的な生活行動シグナルがバックボーンになっています。
山﨑:そうした豊富なシグナルがあるからこそ、生成されるペルソナの解像度は非常に高く、購買前後の意識や関心の動きまで立体的に捉えられます。「Jitsulog Chat」との対話では、建前を含まないリアルな本音や、プランナーの仮説を超えた購買動機のタネが次々と見つかります。こうした高度な分析環境を現場のプランナーが手元で直感的に使いこなせるよう、今回のプロダクト開発では、UIやシステム連携の工夫を重ねてきました。
競合比較や購買しない理由まで、「現場の手元」で即座に検証
──高度な分析を現場のマーケターやプランナーの日常業務に溶け込ませるために、どのような工夫がなされたのでしょうか。
山﨑:AMCなどのデータ分析環境は専門エンジニアのスキルが必要であり、プランナーが依頼してから結果を得るまでにタイムラグや工数が発生していました。
しかし、マーケティングの上流でインサイトを深めるには、思考を途切れさせず何度も対話を重ねるプロセスが不可欠です。そこで、専門知識がないユーザーでも自然言語のやり取りだけでペルソナとチャットができるインターフェースにこだわりました。
中村:システム面では、博報堂が特許を取得した独自技術とAmazonの基盤をシームレスにつなぐAPI連携を強化しました。従来はセグメント構築やペルソナ生成の過程に手作業が残っていましたが、Amazon側のオーディエンスAPI等を組み込むことでツール上での完全自動化を実現したのです。これにより、現場の利便性を高めました。
山﨑:開発にあたっては、実際の製品仕様書や提案資料などの機密情報を安全に読み込ませられる環境を構築し、検証を重ねました。LLMのプロンプト設計においても、条件を拾いすぎて人物像がブレたり冗長になったりしないよう工夫し、リアリティのある生活者像を対象に、その動機付けや背景を探れるようチューニングを行いました。
自社製品の購入者だけでなく、豊富な購買シグナルを基に競合ブランドの購入意向を持つペルソナを生成して自社製品と比較させたり、ポジショニングの差異や購入に至らなかった理由を探ったりといった検証も可能です。
「Jitsulog Chat」で導き出した新たな訴求メッセージを、生身の生活者を対象としたインタビュー調査で検証したところ、既存の仮説を凌いで上位に食い込み、AIペルソナの妥当性が実証されました。この対話検証は、実際の事例でも大きな成果につながっています。

ROAS1.86倍を実現。ペルソナが明かした生活者の「本音」
──具体的な活用事例と成果について教えていただけますか。
成重:大手電機メーカー様のウェアラブル機器での事例をご紹介します。当該製品は短いサイクルで新製品が登場するため、その都度、時間と費用をかけて調査を実施し、戦略を立てることが困難でした。そこで、高速でメッセージングを最適化するPDCAサイクルを回すために「Jitsulog Chat」を導入しました。
──ペルソナとの対話からどのようなインサイトが発見されたのでしょうか。
成重:たとえば、比較的に「健康」への関心が高いAIペルソナと対話を進める中で、「睡眠ログに期待をして購入したのに、バッテリーが持たないため夜間は充電しなくてはならず、睡眠計測を諦めている」という本音が明らかになりました。
この気づきからコミュニケーションメッセージを開発し、Amazonのスポンサードプロダクト広告などのテキストクリエイティブに反映しました。
──具体的な成果数値はいかがでしたか。
成重:「Jitsulog Chat」で導き出したクリエイティブは、既存案に比較して平均CTRが約1.46倍、ROASも1.86倍に向上しました。その後も複数回のサイクルで施策を行っていますが、軒並み高いスコアを維持しています。
山﨑:効率化にとどまらず、クリエイティブの質も高められる点が実証されました。さらにこの成果は、ファネル下層の最適化だけにとどまらず、潜在層へ向けた「ファネルの拡大」という次の展開への確信をもたらしてくれました。
メディア閲覧から購買まで。ファネルを遡り拡張させる豊富なシグナル
──「ファネルの拡大」とは、どのような視点でしょうか。
山﨑:購買シグナルに基づく分析は、ともすればマーケティング・ファネル下層の獲得効率を高めるメディアPDCAに終始しがちです。しかし、中村さんがおっしゃったとおり、Amazonのプラットフォーム上には日常的なメディア閲覧から購買までを貫く豊富なシグナルが蓄積されています。
購買に至った層の特徴を起点にファネルの上層へと遡ることで、たとえば「次はPrime Videoのどのコンテンツ領域でアプローチして顧客層を拡大すべきか」という上流のメディア・戦略プランニングが可能になります。
成重:製品のポジショニングを定義するSTP分析のような最上流の戦略立案から、デジタル広告の獲得文章の磨き込みまで、信頼できるシグナルを基盤にアプローチできるのは安心感があります。ストラテジックプランナーとして、関われる支援領域が大きく広がりました。
中村:Amazon Adsとしても、これまで広告キャンペーンの効果の計測や運用の最適化が中心だったシグナル活用が、事業成長に直結する戦略立案やクリエイティブ開発へと一本の線でつながったことは素晴らしい成果だと感じています。
山﨑:こうして顧客層の拡大まで見据えられるようになると、単に広告宣伝費の費用対効果を追うだけでなく、「広告投資によっていかに新規顧客を獲得し事業を成長させたか」という経営的な意思決定に応えるツールへと昇華しています。EC店舗でのテストマーケティングやバリューチェーン全体への還元など、より広範な事業判断での活用を期待しています。
生活者理解の範囲を拡張し、戦略から施策まで伴走する
──最後に、「Jitsulog Chat」の今後の展望と両社のパートナーシップについてお聞かせください。
山﨑:博報堂としては、主にデータセットとコミュニケーションタッチポイントという2つの軸で「Jitsulog Chat」の機能を拡張していきたいと考えています。Amazonが保有するシグナルと、オフラインの購買データ等との連携によって生活者理解の範囲を広げるとともに、Prime Videoをはじめとする多彩な広告プロダクトとの接点を深めていく構想です。これにより、今まで捉えきれなかった視点から生活者を分析し、戦略から施策実行まで一貫したマーケティングアプローチを実現してまいります。
成重:私自身、ストラテジックプランナーとしての業務に加え、社内でプラットフォーマーデータの活用を推進する「プラットフォーマーデータハブ」も兼任しています。日々さまざまなブランドの課題に向き合う現場の知見を活かし、プランニングの阻害要因を肌で感じながら開発側と連携していきたいと考えています。膨大なデータを手軽に扱える「Jitsulog Chat」を通じて、質と効率の双方でより高度なプランニングを実現し、お得意先の課題解決に貢献していきます。
中村:Amazonとしては、マーケターの皆様や博報堂さんのようなパートナー企業が、より付加価値の高いサービスを開発・運用できる環境を今後も整えてまいります。既にAI活用によるAmazon AdsプロダクトのUIの利便性向上に加え、パートナー企業や広告主様のAIエージェント経由でAmazonのプロダクトを利用できるMCP(Model Context Protocol)サーバーの提供を開始しています。今回の取り組みを先駆けとし、Amazon Adsプロダクトと独自に保有するシグナルが、マーケティングのプロセスの上流から下流までシームレスに利用できる環境をさらに広げていきたいと考えています。

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MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)
デジタルを中心とした広告/マーケティングの最新動向を発信する専門メディアの編集部です。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
提供:アマゾンジャパン合同会社
【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社
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