「第一想起を取る」という目標設定は、実は解像度が低いのかもしれない。生活者はただ単に「カフェに行きたい」とは考えず、「友人とお茶をしたい」「外で朝食を食べたい」といった具体的な場面を起点にブランドを思い出しているからだ。MarkeZine Day 2026 Autumnに、suswork代表取締役の田岡凌氏が登壇。この「場面」にあたるカテゴリーエントリーポイント(CEP)の考え方を独自調査の実データとともに解説し、想起を伸ばすための成長戦略パターンを紹介した。
ポイント1|想起は「ブランド」ではなく「場面」から始まる
「あなたのブランドは、どんな場面で人の頭に浮かんでいますか」。田岡氏はセッションの冒頭、会場にこう問いかけた。
どんなに良い商品も、何らかの場面・タイミングで頭に浮かばなければ購入されにくい。マーケティングでは想起率そのものを追うだけでなく、「(自社の商品・サービスが)頭に浮かぶ場面」をつくる必要がある。
たとえば、カフェブランドのマーケティング担当者は「カフェで第一想起を取るためにどうするか」と考えているかもしれない。しかし、生活者が漠然と「カフェに行きたい」と思うことはそうない。「カフェに行きたい」と思う瞬間にも、文脈があるはずだ。
「家族でショッピングをした時にちょっと一休みしたい。商談の合間に1人で集中してPC作業をしたい。外で朝食を食べたい。それぞれの文脈で思い浮かべるカフェブランドは違うのではないでしょうか。マーケターは第一想起のみを重視しがちですが、実際には必ず何らかの文脈のなかでブランドやカテゴリーを想起しており、この文脈ごとの想起が大切です」(田岡氏)
カテゴリーの利用や購入を考え出すきっかけ、シーン、気分といった「想起の手がかり」、これがCEPである。田岡氏はCEPの要点を次の3つに整理した。
- カテゴリーには複数のCEPがある
- CEPごとに、ブランドが想起を争っている
- CEPの発掘と拡大が、カテゴリーの成長につながる
なかでも田岡氏が強調するのが、大きいブランドほど多くのCEPで想起されやすい、一方でCEPごとに想起されるブランドの順位や強さは異なるという事実だ。100カテゴリー以上で調査をしてきたが、ほぼすべてのカテゴリーでこの事実が当てはまったという。
この前提に立てば、問うべきことも変わる。自社はどのCEPで思い浮かべられているのか。競合はどのCEPで想起されているのか。カテゴリーエントリーポイントの理解なしに、ブランディングは語れない。
ポイント2|想起にも「チャネル」がある。取るCEPを決めなければ、想起は積み上げづらい
田岡氏は、毎週1つのカテゴリーを決めて自社調査を重ね、成長しているブランドがどのCEPを獲得してきたのか、その戦略パターンを分析してきた。セッションでは、その調査データの一部が公開された。
田岡氏はここで、『ブランディングの科学[新市場開拓篇]エビデンスに基づいたブランド成長の新法則』の一節を取り上げた。同書では、CEPはメンタルアベイラビリティを構築するための「認知上のチャネル」として機能するとされている。田岡氏はこれを引用して、CEPを「想起のチャネル」として捉える考え方として紹介した。商品を売る時、マーケターは「コンビニの棚にどれだけ並んでいるか」「スーパーでどれだけ売れているか」を気にする。販売チャネルごとに、売れ方は違うからだ。想起もこれと同じで、生活者がブランドを思い出す経路は1つではない。CEPごとに別々の入口がある。
「想起にもチャネルがあると考えるとわかりやすいです。どのようなカテゴリーエントリーポイントで想起をつくっていくかを議論せずに、想起を積み上げていくのは効率的でないと思っています」(田岡氏)
販売チャネルを無視して流通戦略を語れないように、CEPを無視して想起戦略を語ることはできない。「どのCEPに注目するか」を決めないまま「想起を上げよう」と号令をかけても、施策は積み上がっていかないというわけだ。
では、CEPごとに想起されるブランドは、実際にどれほど違うのか。田岡氏がまず示したのは、カフェのCEPごとの想起ブランドだ。
「カフェの最も大きなCEPは、コーヒーを飲みたい時、あるいはカフェメニューを食べたい時だと思われる方が多いかもしれません。ですが実際には、『友人とお茶をしたい時』が最も大きいことが調査からわかりました」(田岡氏)
次に大きいのが「ショッピングで一休みしたい時」だった。そしてCEPごとに、想起されるブランドは明確に分かれている。「本格的なコーヒーを飲みたい時」はスターバックス、「外で朝食を食べたい時」はコメダ珈琲店。「カフェメニューを楽しみたい時」と、最大CEPである「友人とお茶をしたい時」では、両ブランドが接戦だった。
ブランドごとに思い浮かぶキーワードを尋ねると、スターバックスからは「フラペチーノ」、コメダ珈琲店からは「シロノワール」が挙がった。実際に「カフェメニューを楽しみたい時」ではスターバックスもコメダ珈琲店もどちらも想起されている。
逆に、どのCEPでも想起をほとんど獲得できていないブランドも存在する。田岡氏は、自社がそうだとしたら「非常にもったいない」と指摘した。
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落合 真彩(オチアイ マアヤ)
教育系企業を経て、2016年よりフリーランスのライターに。Webメディアから紙書籍まで媒体問わず、マーケティング、広報、テクノロジー、経営者インタビューなど、ビジネス領域を中心に幅広く執筆。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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