電通・電通デジタルが提供する、プライバシーに配慮した形で一人につき一つの統合IDを付与しマーケティングを一気通貫でつなぐ「OneIDマーケティング」。より購買に直接つなげたいというニーズに応じ、「購買市場OneIDマーケティング」というマーケティングアプローチを共同開発し、その第1弾としてAmazonとPoCを進めている。同ソリューションでは、購買オーディエンスだけでなく非購買オーディエンスを含むオンライン市場全体を構造化することで、仮説検証の場とすることが可能だ。本稿では開発背景やPoCでの手ごたえなどをAmazon・電通・電通デジタルの3社に取材。「広告出稿」にとどまらないAmazonを起点としたマーケティングのこれからを探る。
ストア販売と広告活用だけではもったいない、Amazonの豊富な“シグナル”
MarkeZine編集部(以下、MZ):世界最大規模のオンライン販売市場であるAmazonには、膨大なショッピングシグナル(「買った」という行動を示すデータ)やインサイトが蓄積されています。企業はこれらをどのように活用できるのでしょうか。
中村:一般的には、Amazonストアで商品を販売されている企業さまにおいて、自社のお客さまが購買に至るまでのプロセスや、どのようなオーディエンスに属しているのかなどを理解するために活用いただいています。一方、Amazonストアで商品を販売していない企業さまであっても、自社がアプローチしたいオーディエンスの属性や購買行動の特徴を理解する目的で活用いただけます。
Amazonでは、ショッピングや広告配信などに関するさまざまな「シグナル」を、プライバシーに配慮したクラウドベースのクリーンルーム分析環境である「Amazon Marketing Cloud(以下、AMC)」を通じて、広告主や広告会社に提供しています。直近ではPrime Videoのシグナルなども活用できるようになり、分析・検証できる範囲は拡大中です。
MZ:シグナル活用の余地が広がっているのですね。実際に企業のマーケティング支援を進める電通や電通デジタルでは、Amazonのシグナル活用についてどのような課題があると感じていますか?
五十里:実際に現場で抱く課題感は、大きく3つあると考えています。
1つ目は、活用場面が「自社商品の購買分析」や「既存の広告配信の最適化」にとどまりがちということ。もちろん、既存施策を改善する上では非常に有効な手段ですが、「もっと視野を広げて活用できるはず」ともどかしく感じる場面もあります。ブランドを成長させるためには、自社ブランド購入オーディエンスだけでなく、非購入オーディエンスを含む市場全体を見て、「どのような生活者が存在し、自社ブランドの成長余地がどこにあるのか」を探索する必要があるのではないでしょうか。
2つ目は、得られた知見が「Amazon内」のみで活用されがちということ。確かにAmazonは広告媒体としてもショッピングサイトとしても大規模なサービスですが、その中で完結するのはもったいないと考えます。シグナル分析によって見えてきた示唆は、ブランド戦略や商品開発など、企業のマーケティング活動全体にも生かすべきでしょう。
3つ目は、Amazonのシグナル活用に限らずマーケティングPDCAの課題として、分析した対象と実際の広告配信対象の不一致があります。これまでの分析においては、見つけたペルソナがそのまま広告配信セグメントとして使えるわけではなく、類似する属性を探し割り当てる“翻訳”が必要なケースもありました。分析対象と広告配信対象の情報が必ずしもイコールではなくなると、検証結果は不明瞭なものになってしまいます。この構造により、一貫したマーケティングに落とし込むことが難しいという課題もありました。
生成AI時代に活きる「購買市場OneIDマーケティング」の役割とは
MZ:これらの課題を背景に、電通および電通デジタルは新たに「購買市場OneIDマーケティング」という考えに基づくソリューションを共同開発されました。このソリューションの思想や特徴を教えてください。
三谷:元々私たちは「OneIDマーケティング」という考え方を推進してきました。従来のマーケティングでは、分析によって「こういう顧客に可能性がある」と発見しても、実際に施策を行う際には、その顧客像を広告媒体上の属性などに置き換える必要がありました。つまり、分析した対象と実際にアプローチする対象との間に、一種の“翻訳”が入っていたわけです。
そうすると、施策の結果が良かった、あるいは悪かったとしても、「そもそもの仮説が正しかったのか」「翻訳した先のターゲティングが適切だったのか」が切り分けにくい。結果として、分析で得た仮説をそのまま市場で検証することが難しいという課題がありました。
OneIDマーケティングは、この“翻訳”をできるだけなくしていく考え方です。プライバシーに十分配慮しながら、データクリーンルームなどの環境で確定IDを活用することで、分析した顧客像と、実際に施策・検証する顧客像をつなぐ。それによって、分析で立てた仮説をそのまま実際の施策で確かめ、その結果を次の意思決定につなげられる、統合的なマーケティング手法を指します。
そして、この取り組みを推進する中で、クライアントから「“購買”という事業成果から逆算したOneIDマーケティングを実現したい」というご要望をいただきました。そのニーズをもとに「購買市場OneIDマーケティング」を構想。取り組みの第1弾として、世界最大規模のオンライン販売市場であるAmazonさまと共に、PoCを進めさせていただいている段階です。先ほど五十里がお話ししたとおり、非購入オーディエンスも含む市場を広く捉えることで、いま買っている人を起点とした最適化だけでなく、次の成長機会はどこにあるのか、という探索軸の問いにも仮説を広げられる点に期待を寄せています。
MZ:生成AI時代において、「購買市場OneIDマーケティング」はどのような価値があるとお考えですか?
三谷:生成AIが普及するほど、OneIDマーケティングの価値はむしろ大きくなると考えています。マーケティングでは、「誰に(Target)・どんな文脈で(Context)・何を伝えるか(Message)」という仮説を考えることが重要です。これまではマーケターがデータを読み解きながら、ペルソナやコミュニケーション仮説を作ってきましたが、人力だと現実的に仮説の数には限界がありました。生成AIによって、ここは大きく変わります。AIは多様な顧客像や文脈、メッセージの組み合わせを探索し、人間だけでは考え切れなかった数の仮説の候補を生み出すことができます。
一方で、AIが生み出した仮説が本当に市場で有効かどうかは、実際に試してみなければ分かりません。そこで重要になるのがOneIDです。AIで仮説を広げ、OneIDで実際の市場に問い、その結果から有望な仮説を絞り込む。そして、その学びを次のAIによる探索に戻していく。 この「探索→検証→学習」のサイクルを、OneIDによって同じ顧客像のままつなぎ、継続的に回していく、という考え方です。
今回のAmazonさまとの取り組みは、このサイクルを購買という事業成果に近い領域まで広げるものです。Amazon上で得られる行動インサイトから、これまで見えていなかった潜在顧客像や成長仮説を探索し、広告施策で実際に確かめる。そして購買行動を含む結果を、次の探索に生かす。
これによって、AIによる「探索」と、市場での「検証」、そこから得られる「学習」をOneIDでつなぎ、まだ見つかっていない成長機会を継続的に発見していく。そこに、生成AI時代における「購買市場OneIDマーケティング」の価値があると考えています。
MZ:「広告」を「検証」として活用するのですね。
三谷:そうですね。その意味では、Amazonを単なる「広告媒体」ではなく、生活者の行動や購買を捉えられる一つの「市場」として見ることが重要だと考えています。
広告媒体として見ると、どうしても「今ある施策をどう最適化するか」という視点になりがちです。市場として見ることで、購買頻度やブランドとの関わり方が異なるオーディエンス群を構造として捉え、「次の成長機会はどこにあるのか」という問いにつながります。ここに、Amazon上のさまざまな行動インサイトを掛け合わせることで、新たな顧客像や成長の可能性を発見できますし、仮説を広告施策で実際に確かめ、購買まで含めて結果を見ることもできます。Amazonさまとの取り組みでは、そうした「探索と検証の場」としての可能性に注目しています。
中村:Amazon Adsには何千にもわたるオーディエンスセグメントが用意されています。デモグラフィックな情報のみならず、「ペットを飼っている」「直近引っ越しをした」など、ライフステージや生活スタイルが想像できるようなセグメントもあるため、それらを生かした検証はペルソナの深い理解に役立つことでしょう。
五十里:いきなり広告を打つのではなく、一歩手前から俯瞰して見てほしいと思います。Amazon上のインサイトを用いて市場を広く捉えた上で、自社ブランドはどこへ向かうべきか。ゴールさえ正しく設定できれば、認知拡大でも、新規獲得でも、リピートでも、Amazon Adsを活用していかようにも施策を展開していくことが可能です。
MZ:ペルソナを作って終わりではなく、検証、分析、打ち手の実施まで、Amazon Ads上で一貫して行えることが強みと言えそうですね。
三谷:はい。我々は「分析して終わり」にしないことを大切にしています。「ペルソナをきれいに描いただけ」でも、「検証結果を眺めるだけ」でも、事業成長にはつながりません。打ち手をセットで考えることは必須です。
なお、その際に注意すべきは「オーディエンスを多面的に見る」こと。たとえば、ゲーム好きのシグナルが多いからといって、「ゲーム訴求をしよう」という打ち手を立てるのは得策ではありません。それは既知の特徴を言い換えているにすぎないからです。「ゲーム好き」オーディエンスの一人は、ペットオーナーかもしれないし、外車に乗っているかもしれないし、ライフステージの変化があったかもしれません。また、朝起きた時と夜寝る前では異なるニーズがあるのかもしれません。文脈によってさまざまに変わるオーディエンスの“顔”を、Amazonのシグナルは多面的に捉えることが可能です。
そして、ここで重要なのは、一度検証して終わりではないということです。「どんな顧客に、どんな文脈で、どんなベネフィットが響いたのか」、あるいは「何が響かなかったのか」も含めて、検証結果を知見として蓄積し、次のAIによる仮説探索に生かしていく。サイクルを回すほど、次の探索や意思決定に使える知見が蓄積されていきます。この一連の流れを私たちは「資産化」と呼んでいます。
この記事は参考になりましたか?
- この記事の著者
-
安光 あずみ(ヤスミツ アズミ)
Web広告代理店で7年間、営業や広告ディレクターを経験し、タイアップ広告の企画やLP・バナー制作等に携わる。2024年に独立し、フリーライターへ転身。企業へのインタビュー記事から、体験レポート、SEO記事まで幅広く執筆。「ぼっちのazumiさん」名義でもnoteなどで発信中。ひとり旅が趣味。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
提供:株式会社電通デジタル
【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア
