成長への課題は母数と情報の整理

まだまだ発展途上の分野ではあるが、今後、新たなプラットフォームとして、モバイルARのアプリケーションが隆盛する可能性は十分にある。しかし、企業がマーケティングツールとして利用する際には、ユーザーの母数が重要になってくる。
セカイカメラでもこの点は重視しているものの、「十数年前まで携帯電話を利用するのが特異だったように、道端で携帯端末を掲げてカメラでのぞくといったモバイルARの利用も一般化していく可能性は十分にある」と佐藤氏は予想する。だが、単にそうした状況を待つのではなく、まずはAndroid携帯への対応を進めており、中長期的にはさらに対応デバイスを広げ、ユーザー層を増やし、さまざまな用途に対応できるようにする考えだ。
「エアタグをポストするだけの単機能アプリケーションであれば通常の携帯電話用にも作れますし、ニンテンドーDSiなら手前にも奥にもカメラがあってモニタも2つ。GPS機能はないですがWi-Fiは付いているので、いろいろなことができるんじゃないか、とか。そういった形でさまざまな広がりができると面白いと思いますね」
また、一方で情報の整理に関わる問題もある。前述の通り、「検索」などを行わずとも、カメラを覗けばその場所に関わる情報が拡張現実上に展開されるのが、モバイルARのメリットだ。しかし、その情報が増えすぎるとノイズになってしまう。
セカイカメラでも、ユーザー数が増えるに連れ、エアタグの数が増え過ぎるという問題も浮上してきている。「街の通りをセカイカメラで見て、エアタグが散乱しているのを見るのは、それはそれで楽しいんですが、ずっとこのままだと飽きられてしまう。エアタグの内容に重み付けをするなど、ユーザーが興味を持っているものに素早く辿り着けるようにする仕掛けが必要だと思っています」と成長に伴い、課題も増えてきている様子をうかがわせる。

現状は「10%くらい」。暑くなるまでに「度肝を抜いて半分くらい」に
先日、初めてアラビア語でのメールが届くなど、世界的にもセカイカメラへの注目度は高まっている。世界各国から活用に関する問い合わせに加え、人材採用への応募、取材依頼や講演依頼といったメールが連日山のように届くという。
2009年末に400万ドルの増資を行うなど、セカイカメラは既に世界展開を見据えた開発が行われているが、このような試みは日本では稀有だ。佐藤氏は「むしろ日本のベンチャーには海外を目指して欲しいし、そうすることで課題が見え、より良いものを創造できる」と指摘する。特にネットビジネスはボーダレスなのが特徴で、日本特有の強み「ジャパン・アドバンテージ」を活かして圧倒的に大きな海外の市場に挑戦すべき、という意見だ。
現時点でセカイカメラが実現できているのは、描いているビジョンの「10%くらい」。例えば、アニメ「電脳コイル」のようにARでペットを飼えるようにしたり、自分のアバターが他人のアバターとコミュニケーションできるようにする、といったアイデアもあるという。現状は企業やブランド、商業施設向けのサービスを行っているが、中長期的にはユーザーにより楽しんでもらえる各種機能や、それらの利用に対する課金モデルのビジネスプランも温めているようだ。
ドコモの「直感検索ナビ」やauの「実空間透視ケータイ」など、スマートフォン以外の携帯端末によるARサービスの開発も進んでおり、今後はモバイルARがより身近な存在になってくると予測される。そうした中でより良いサービスを提供し、さらにユーザーを増やすべく、セカイカメラも改良を続けていくという。
最後に今後のロードマップを聞いたところ、「2010年の『暑くなるよりも前に度肝を抜くバージョンアップ』を考えています。それで、目指す姿の半分くらいまではいけると思います。ver2.0ではコミュニケーション機能を拡張したので、次はエンターテインメント関連の機能強化。よりリッチな体験ができるように開発を進めていきます」と、佐藤氏は意気込みを語った。

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