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MarkeZine Day 2025 Autumn

ビジヲタ必見!「すべらない事業」の作り方

人気サンダル「クロックス」の仕掛け人に聞いた、商品ブランディングのコツ

Q クロックスをどのようにして世の中へ浸透させていったのでしょうか?

 まず、流通の立ち上げておいて、卸売は手っ取り早く売上が上がります。しかし、私は直営から始めることを重視しました。

 どんな商品、ブランドにもアップダウンは必ずあり、落ち込んだ時にすぐそっぽを向くのは問屋であり、小売です。彼らは売れるときに売れるものを扱うのであり、落ち込めばあっさり手を引きます。しかし、メーカーが卸売から始め、直販をし始めた時には「卸しているくせにどうして直販するのか?」とクレームになります。そこで、直営の実績を作ってから卸売を行うと順番を決めました。

 とは言っても、お店を出す資金もなく、いざ出店してもあまりにも認知がないのでお店にお客さんが入ってこないでしょうし、入ってこなければ商品も薦められません。ということで考えた苦肉の策が、初めから店舗を持つのではなく、まずワゴン販売を行うことでした。

Q ワゴン販売とは意外ですが、具体的にはどのように行ったのでしょうか?

 第一号ワゴンは港北にあるショッピングセンターの1階でした。ただし、何か催し物があると「2階に行ってくれ」「閉めてくれ」とかなり好きな様に動かされていましたね。

 続いての第二号店は、サンシャインシティ地下1階でした。サンシャインでは通路を通るお客様の交通量が多く、新しい物へ飛びついてくれる客層が多かったです。時間帯によっては、高校生から主婦、カップル、社会人と幅広い層が訪れてくれたので、とてもアナログ的でありますが「正」の字で顧客をセグメント別に調査をしました。

 具体的には、

  • 男女、年齢別に興味があって立ち止まった人数
  • 話を聞いてくれた人数
  • 購入にまでいたった人数

 などです。

 その結果、最も話を聞いてくれて、しかも購入の確立が高いのが30代の女性であることが分かりました。さらに、話を聞いた30代は購入率が実に50%を超えていました。そして、一度購入してくれたお客様のうち30%以上がリピートしてくれました。

 面白いことに、購入してくれたお客様が他のお客様をどんどん連れてくる傾向がありました。いわゆる口コミ効果ですね。お店で、できるだけお客様と積極的に話をして靴の良さとこだわりを伝えることに集中すると、その話がお客様からお客様へと伝わっていきました。

向かって右が森平氏
向かって右が森平氏

Q なぜ30代にクロックスは人気が出たのでしょうか?

 なぜ30代に人気なのか、というとそこには女性の特有の心理があります。

 10代後半から20代の女性は「ファッションとは耐えるもの」と、自分の体形に合わないものを無理にまとってみたり、外反母趾になってもハイヒールを履き続ける方もいます。

 しかし、30代になり子供ができると体への無理が不快になり、動きやすくて体によく、普段着に合って可愛い履物が、今までの物に代わって重宝されるわけです。それがまさにクロックスであり、30代の女性を魅了する商品であったわけです。

 さらに言うと、井戸端会議が1番多いのもこの30代女性です。幼児の集まるところには何かと送り迎えが発生するため、30代女性の井戸端会議は無意識のうちに常に行われており、グラスルーツ(草の根)PRとしては恰好の場になります。

 子供用の靴が発売されると「どこで買ったの? かわいい!」となる。そして「雑誌Veryで見かけたわよ、特集が載っていたわ」とファッションとしても恥ずかしくないサンダルであることが証明されます。

 自慢して話すことに対して、カリスマモデルが雑誌で履いていたことが援護射撃してくれるのです。

Q プロモーション戦略はどのように行いましたか?

 まず、掲載される雑誌はセレブ系雑誌に絞りました。セレブ系の雑誌は本当のセレブも読みますが、セレブに追いつけない人たちも憧れて読みます。ピンポイントでセレブ系雑誌に載せることで、それを見た出版社が違うターゲット層を狙った雑誌でも特集を組んでくるようになるんですね。

 逆に「レンジで明日のお弁当を簡単に作る方法」の様な特集を組む、いわゆる庶民的な雑誌には出さないことを決めていました。

 それは、たかが4千円のサンダルであっても、いつでも憧れる商品の位置をキープするためです。売上だけを考えるのなら、発行部数が多くて一般層が読む雑誌にどんどん載せればいいと思いますが、これが後で命取りになります。一度落ちたイメージは這い上がれません。だからこそ出す雑誌は厳選しました。どこでも露出が多ければいい訳ではありません。

 良い資質を持った商品で、他社と差別化が大きい商品は口コミ戦略が効きます。メーカー側が良いことを言うのは当然のことですが、それだと今の消費者はあまり耳を傾けません。

 しかし、第三者からの情報で、さらにそれが信頼する人からの情報だと、とても信憑性のある情報として受け入れられます。そこに購買意欲を掻き立てる魅力が生まれるのです。

 言うは易し行うは難しですが、コツは第三者にとにかく心から商品に惚れ込ませることです。それには情熱で、心でその商品の良さを第三者にマンツーマンで伝えることです。

Q クロックス事業をすべらせないために心がけたことは何ですか?

(1)「気持ちで動くのが人」がモットー

 人はお金以外に動く理由があります。消費者も、販売店も、協力業者も、社員も、アルバイトも、すべて気持ちで動いてもらえるように心がけていました。人は、気持ちで動くと普通では考えられないような、とてつもないことを起こしてしまうものです。

(2)社員に考えさせる

 「問題です! どうしたらいいですか?!」「社長はどうするつもりですか?」と、問題が起きたときにまるで他人事のように聞いてくる社員が以前いました。社長がすべてを考えて答えを出すのは簡単ですが、それでは社員が育ちません。会社全体の基盤を強くして、社長がいなくても動ける会社ににすることも大事です。

 だから、「3つの選択を出し、それぞれのメリットとデメリットを考え、その中で自分はどれがいいか教えて」と言っていました。その上で、その中から選ぶか、私がさらにアドバイスをして方向を決める。そんなことの繰り返しを常に社員にはしていましたね。

(3)他社がやらないことを常にやる

 ブランドを広める方法、流通づくり、取引条件、すべてにおいて人のやらない方法で徹底的にやることです。

(4)自分が常に動く、社員とマンツーマンで話し込む

 毎日夜中までマンツーマンで代わる代わるメンタル的な話をとことんすることです。

(5)直接的・間接的にでもかかわるすべてを大事にする

 ブランドを大事にする、商品を大事にする、販売店を大事にする、消費者を大事にする、社員を大事にする、社員全員とその家族の幸せを願うことです。

(6)即戦力の人しか雇わない

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Q あれだけ成功したクロックスをお辞めになった理由を教えてください

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この記事の著者

矢作 嘉男(株式会社ハチワン)(ヤハギ ヨシオ(カブシキガイシャ ハチワン))

株式会社ハチワン代表取締役。New Jersey City University卒。
中国人観光客向けクーポンサイトなどインバウンド媒体を運営。
2011年、中国のインターネットプロモーション事業を行う北京博洛密網絡科技有限公司と提携し、中国向けプロモーション事業を開始。本当に成果の出る中国市場向けインターネットマーケティングのみをを提供し、インバウンド向けから中国現地進出向けまで数多くの実績を持つ。
プロモーションのご相談:info@813.co.jp

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2010/01/29 13:00 https://markezine.jp/article/detail/9468

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