この潮流の背景となっているのは、インターネット産業からユーザー企業・消費者までを巻き込む『Web2.0』と呼ばれる環境の変化と、それに前後して起こっているオンライン上のユーザー行動様式の変化である。
本稿では、この変化の潮流を『Webマーケティング2.0』と名付け、その潮流の背景とこれに対応した8項目にわたるWebマーケティングの要素について前編、後編の二回にわたって紹介する。
『Web2.0』という環境変化を振り返る
『Web2.0』という言葉が今やインターネット業界に限らず広い範囲で語られる言葉となりました。もともと『Web2.0』という言葉が米国O'reilly社のCEO Tim O'reillyによって提唱されたのは'04年秋の「Web2.0 Conference」でした。2000年前後に日米ともに体験したネットバブルの崩壊があり、一旦は成長に歯止めがかかるかと思われたインターネットビジネスにあってもユーザーに支持されて成長してきたサービスやビジネスモデルの共通項を導きだして体系化しようとしたのがこの言葉です。
『Web2.0』についての議論は、’04年から’05年前半にかけては、「ロングテール」や「Wisdom of Crowds」(群集の叡智)というキーワードとともに一部のインターネットの技術・マーケティングのエバンジェリスト達の間で交わされるにとどまっていました。しかし、Web2.0 meme mapなどを含んだTim O’reillyの論文「What is Web2.0」が'05年9月30日に発表されて以降、より裾野の広い業界関係者やインターネットユーザーが熱心な議論を始め、一気にブレイクしました。
『Web2.0』における「概念の議論」と「環境の定義」
「概念の議論」としては7つの要素(フォークソノミー、協力者としてのユーザー、ロングテール、参加型サービス、進歩的性善説、リッチなユーザー体験、進歩的分散志向)や6つの戦略キーワード(サービス、参加型アーキテクチャ、スケーラビリティ、所有データ、デバイスフリー、群衆の叡智)といったポイントに分類され、それぞれの領域で議論が深められてきました【図1】。
「環境の定義」としてはブログの普及などに伴ってRSSやXMLという標準化された文書フォーマットによるコンテンツの流通量が増大したことによって、ウェブ世界の構造化が進み、サービス提供とユーザー利用の自由度が格段に向上しつつある、というものです。
もちろん、このような『Web2.0』に関する議論は単にTim O’reilly氏が論文を通じて言葉を提唱したことのみによって発生したものではなく、近年の社会環境の変化とインターネットユーザーのリテラシー向上、そしてインターネット周辺技術の標準化の進展が背景となっています。ブロードバンドインフラの普及、モバイル端末の普及、高リテラシーユーザーの裾野拡大、インターネット標準としてのXML/RSSの普及、それらに後押しされたサービスの誕生といったものです。