Case Study: 米StarbucksによるEmbracing ― My Starbucks Idea
米スターバックスが取り組んでいるプライベートソーシャルコミュニティ「My Starbucks Idea」は、顧客がスターバックスの製品、顧客体験に関するアイデアを提案できるプラットフォームとして機能している(図表6)。

顧客から提供されたアイデアの進捗状況は、「under review(検討中)」「reviewed(検討済)」「coming soon(公開予定)」「launched(公開済)」といったカテゴリに分類されており、顧客の声をスターバックスのビジネスに取り入れる、そのプロセス自体をオープンにすることで、透明性を確保している(図表7)。

また、Twitter上でもオフィシャルアカウント「My Starbucks Idea」を展開しており、既に多くのフォロワーを獲得している(図表8)。
フォロー数は1万を超えている

アメリカにおけるソーシャルメディアマーケティングでは、「Fish where the fish are(魚がいるところで釣りをする)」、つまり、顧客が既にいる場所に企業が進んで出ていき、関係性の構築やブランド体験を提供するという考え方がトレンドとなっている。その具体的な施策として、スターバックスのようにプライベートソーシャルコミュニティとソーシャルメディアへの参加を複合的に行うことが、エンゲージメントの基本戦略になっている。
My Starbucks Ideaから見る、Embracingの意義
ここで、Embracingの意義について考えてみたい。Embracingには大きく分けて”直接”と“間接”の2つの目的がある。
直接的な目的は、顧客の声を知恵と捉え積極的に取り込むことにより、商品開発やサービス改善といった、ビジネスプロセス全体のイノベーションにつなげて行くことである。「クラウドソーシング」とも呼ばれるこのアプローチは、企業が顧客とのコラボレーションを積極的に行っていこうというスタンスに基づいて実践される。
一方で、Embracingの“間接的”な目的として考えられるのは、顧客ロイヤルティの醸成である。顧客が企業・商品のイノベーションに自発的に関わっていこうという心理状態は、顧客がオーナーシップを抱いている、つまりその企業・商品のことを、自分のことのように考える状態であると言える。このようなロイヤルカスタマーのオーナーシップをより育てていくことが、顧客によるブランド支援の促進につながっていくのである。
従って、Embracingは、エンゲージメント戦略の中でもとりわけ難易度の高い戦略であると言える。顧客の声に耳を傾けるだけではなく、顧客と対話を繰り返しながら、顧客の声を自社のビジネスプロセス全体に積極的に取り入れていく姿勢が前提となる。その姿勢も、見せかけだけだと顧客に見破られてしまうので、顧客中心主義(カスタマーセントリック)の文化を企業内で浸透させていくことも重要である。それと同時に、「自社の商品やサービスでは完全ではないので、顧客とともに、より良いものに発展させていくことで、お互いが幸せになることを目指す」という謙虚な姿勢と企業哲学も重要になってくる。