思いを伝えられるモバイルは、決して冷たいものではない
部員たちのロイヤルティ、ローソンや部に対する信頼は、一人、高橋氏の双肩にかかっていると言っても過言ではない。だが、これはローソンだけの話ではない。多くの企業で、先進の取り組みは、どうしても〝人ありき〟になってしまいがちだ。
モバイル・マーケティングの場合、ツイッターの例を見てもそうだが、時間を問わず、対応に追われる。組織力ではそこは補えない。部員と向き合う真摯な態度には、それだけでなく、キャラクター性も必要だからだ。いわば、高橋氏は、ミニFM局の人気DJのようなものなのだ。
「モバイルって、冷たいもののように思われることもありますけど、でも、モバイルを通じて〝思い〟を伝えられるわけです。それは、冷たいどころか、とっても温かいものだと思います。私はそう感じていますし、部員もそう感じているのだと思います」(高橋氏)
だから、部員のことが気になるし、好きになる。こちらもそうなら、向こうもそうだ。
「売れる新商品を作ることも大切なのですが、私は部員のみなさんに少しでもローソンを好きになってもらいたいな、という思いで謎ローを続けています。だって嫌いな人が失敗したら正直イヤですけど、好きな人が失敗したらがんばって! って思うでしょう(笑)? ローソンへの〝好き〟という想いを少しでも持っていただければ、どんなときでも部員はきっと味方になってくれると思います。だから私も部員のみなさんの声にはできるかぎり応えたい、そう思うんです」と高橋氏は〝謎ロー〟への想いを語る。
地味かもしれないが、これは究極のブランディングだと言えるのではないだろうか。単発のキャンペーンサイトで意見を募っても、そこで本音が聞き出せる確率はとても低い。図書券などの報酬を提供しても、本音が聞けるとは限らない。動機付けの理論ではないが、外発的動機付けよりもむしろ、内発的動機付けに訴えるほうが効果的であることは間違いない。〝謎ロー〟に息づいているのは、まさに、その論理なのだ。
〝謎ロー〟はそういう人たち、「ローソンが好きな人たちに集まってもらう場所」なのだ。部員数二万人という数字はどう判断すべきだろうか。ローソンのヘビーユーザーで、もちろん、活動に対するロイヤルティも高く、積極的に意見を述べてくれる。妙な偏りもない。そうした二万人は、誇れる数字なのではないだろうか。
高橋氏は最後に言った。「全国のお客様と、部員のみなさんとつながるのは、やっぱりモバイルがいい」

〝謎のローソン部〟以外の、ローソンが実施したモバイル・マーケティングの取り組みについても紹介しておこう。
ローソンモバイルサイトには、店頭情報や店舗検索、ポイントカードPontaへの入会申し込みや特典情報の閲覧、Loppiグッズの予約、ネットショッピング、プレゼント、デコローソン(動く絵文字をダウンロードできる)など、モバイルらしい多彩な機能が満載されている。
また、ローソンでは、〝謎ロー〟以外でも、商品開発にブログやモバイルサイトを活用している。 たとえば、〝究極のからあげクン開発プロジェクト〟では、食のブログサイト「プロぐるめ!」を運営する食コレと組んだ。そこで、ローソンの商品開発者とブロガー五人が組んで商品開発を行ない、味やパッケージデザイン、ネーミングなどを決めた。
開発期間は六カ月間で、その進行状況は、プロぐるめ! とローソンの特設サイトに掲載された。あるいは、新ブランドであるオリジナルデザートブランド、「ウチカフェスイーツ」のアピールにブロガーを集めて試食会をするなどもしていて、ローソンはモバイル・コミュニケーションにますます力を入れている。
また、ローソンでは四月よりツイッターの公式アカウントの運用も開始した。「謎のローソン部」でも、ツイッターの利用開始については案内されている。
こちらでは、架空のローソンクルー「あきこちゃん」がキャラクターとして登場し、ハッシュタグを活用して、ユーザーが「あきこちゃん」をフォローして、「@akiko_lawson 占って」とツイート[注1]すると、その日のラッキーカラーやラッキーアイテムを占ってくれる仕組みだ。すでに一万以上のフォロワーがおり、今後は、ツイッターを介したユーザーとの活発なコミュニケーションも期待される。

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