一人の女性担当者が生み、育てる〝謎ロー〟という部活動
モバイルサイトのコンテンツとして異彩を放つ〝部活動〟がある。「謎のローソン部」である。ローソンの公式モバイルサイトの中に、部室がある。
覗いてみると、たとえば「部活しませんか?」、日記「コーヒーにミルク。以上!」、今日のホニャララ「ん、ときめくラーメン?」「この食べ物を見ると思い出す、みんなのエピソード!」、ワンクリ投票「鈴木さんからのお願い!」などという項目が並ぶ。知らない人にとっては訳がわからない。それでも、興味を引かれる何かがある。
この部活動は、二〇〇二年八月に生まれた。きっかけは、「本当に読んでもらえるメールとはどのようなものか」という問題意識だった。その結果、「必ず開くのは友達からのメール。ならば、それに少しでも近づけるような場を作りたい」と考えたそうだ。
そこから生まれたのが〝部活動〟というコンセプト。いかなるインセンティブもない。それでいて意見を言うなどの活動が求められる。 特に、ユーザーに対してアピールはしないが、春には部員募集を行なう。先輩部員として、部員から勧誘のコメントを募集する。しかし、そのコメントは、モバイルサイト内にひっそりとある部室に掲載されるだけだ。だから、この部室に迷い込んで、部員になろうと思うのは、その多くがローソンへのロイヤルティが高いユーザーである。
それでも、部員の数は約二万人。退部は少なく、年々微増しているという。年齢分布では二〇歳代?三〇歳代がメインだが、下は九歳から上は六〇歳以上の人もいる。学生や主婦もいれば、大学教授や医者もいる。男女比は約半々。まさに謎の部員たちだ。
「ここにいれば、ローソンについて、ローソンの社員も知らないようなウンチクを知ることができる」、「さまざまな疑問に答えます」というのが「謎のローソン部」のスタンスだ。そのかわり、「本音を言ってもらう」。
あるいは「ローソンの各部署からのお題を投げかけて、意見をもらう」。そうした部活動の中から、新商品が生まれ、あるいは既存の商品が改良され、売上を伸ばすなどの実績を積み重ねてきている。
部の創設以来の〝部長〟が、現在は商品・物流本部商品統括部に在籍する高橋千宏氏だ。高橋氏は、部員からは愛着を込めて「ち☆ひろ」さんと呼ばれており、「謎のローソン部」は〝謎ロー〟と呼ばれる。高橋氏は、コンビニ好きが高じてローソンに入社したというツワモノだ。商品部で開発を担当していたが、突如としてモバイルサイト立ち上げの命を受け、「謎のローソン部」を立ち上げるに至った。
今では、この部活動、ヒット商品を生むコミュニティに成長しているが、高橋氏は「見えるような成果は少ないけど、見えない成果の蓄積はたくさんあると思っています」と自己採点はやや辛い。
もっとも、見えない成果がさまざまな気づき、ささやかな改良、ファンの醸成、ブランディングであるとするならば、それは非常に大きな成果だと言えよう。それが、モバイルというものの醸す絶妙な距離感と部活という吸引力の相乗効果、さらに、それこそ寝食忘れて部員目線で奮闘する一人の担当者の存在で可能になっているのだ。
これに対して、同社 コミュニケーションステーションの木村和雄シニアマネジャーは「〇二年から立ち上げて、いまだに彼女に担当をお願いしている。それなりのコストもかけて、継続している。皆が、何かができる、何かを生み出していると認めている証拠です」と言う。ローソンのモバイル・マーケティングの特長は、この部活に尽きるとも言い切る。この部活をどう活用できるか、まだ手探りだと言うが、だからいいのだろうと思わせられる。しっかりとした目的意識を持って企業が前に出てしまえば、こうしたコンセプトの活動は霧散してしまう。ロイヤルティを生む、絶妙な距離感が壊れてしまうのだ。
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