重要なのは「いつ」評価を実施するか
よく「Webサイトをリニューアルしたので、リニューアル前後のサイトのユーザビリティについて評価したい」という要望を受けます。もちろん、評価を実施すること自体は可能です。評価手法としては、先ほど挙げたヒューリスティック評価法でも、実際のユーザーにタスクを与えて行うユーザビリティテストでも可能です。
ただし、ここでひとつ考えなければいけないことがあります。出てきた評価結果はどうするのか? ということです。膨大な時間とお金をかけてリニューアルを行い、よいサイトができたはずだとWebマスターや制作に関わった人々が考えていたとしても、それに対する評価で問題点が発見された場合、「こういう問題点はあるものの、リニューアルでよいサイトになりましたよ」といえるのでしょうか?

ユーザビリティ評価は「完成品」に対してではなく、「設計案」に対する評価であると考えるべきです。設計途中で評価を行い、それをもとに改善を行う必要があります。そのため、できるだけ設計の早い段階から評価を取り入れていくことが重要であるといえます。
プロトタイプを捨てながらよりよいものを作っていく
では、サイトが出来上がっていない状態で何を評価すればよいのか? というと、ここで登場するのがプロトタイプになります。
プロトタイプとは、試作品のことです。完成品は簡単には捨てられない。それならば、捨てることを前提としたプロトタイプを作成して評価し、それをもとに改善していこうという考え方です。これ関しては、少しWebの話からはそれてしまいますが、こんな例がありますのでご紹介しましょう。
先日、ある外国の絵本作家の展覧会に行ったときのことです。展示会場では、絵本作家へのインタビュー映像が流れていました。絵本が出来上がるまでの間、ストーリーを考えたり、下絵のデッサンを何度も行ったりといろいろなプロセスがあるのですが、そこで「しかけ絵本ができあがるまで」の話がありました。
こどもが絵本を読みながらしかけを楽しむときに、「これでは小さなこどもがスムーズにしかけを動かすことができない」というように、何度も絵本の「しかけ」部分を制作している会社とやり取りをして、見本(プロトタイプ)を作り直してもらい、動きの部分がクリアした上で、実際の絵を上に乗せていくという話をしていました。
印象的だったのは、「しかけ」のプロトタイプが真っ白い本だったということです。もちろん、あらかじめ全体のストーリー(コンセプト)であったり、各場面の構成であったりはある程度決まっているわけですが、しかけの動きを確認して修正していくのなら、絵本の絵や文字が印刷されていない状態でも十分に可能だということです。
ここで重要なことは、テストをしながら古いプロトタイプは捨てていき、問題点を明確にしていきながらプロトタイプの修正を行っていくということ、そして、ストーリーと要件・機能が決まっていれば、デザインが乗っていないプロトタイプでもテストが可能であるということです。
