低料金にすることで潜在的なリサーチニーズを掘り起こす
「ネットリサーチをもっと身近にしたかった」。セルフ型アンケートサービス「Fastask」を企画した動機について、株式会社ジャストシステム 事業企画部の石川英輝シニアマネージャー(写真左)はそう話している。
Fastaskでは、アンケート調査票の作成、アンケート用HTMLページの制作、アンケート結果の集計といった作業を利用企業側で行う。セルフサービス形式にすることで利用料金を抑え、より短期間で調査結果を得られるようにした。
Fastaskの利用料金は、1問1サンプルにつき10円。例えば設問数10問で500サンプルを集めたいのなら10問×500サンプル×10円=5万円となる(※1回の利用当たりの最低料金は1万円)。
どれくらい安いのか、ある大手ネットリサーチ会社の料金表と比べてみた。設問数・サンプル数によってバラつきはあるが、Fastaskは少なくとも大手の半額程度で利用できてしまう。価格差の大きいところでは、なんと10分の1ほどの料金になっている。
ジャストシステムは、セルフ型アンケートサービスへのニーズを事前に調査。ネットリサーチを実施したところ、「費用が3分の1以下になれば、ネットリサーチの実施回数を増やす」と答えた人は78.5%。そのうち「倍近い回数」「倍以上の回数」にまで増やすとした人は合計で36.3%にも上っていた。
「ネットリサーチに対するニーズは、まだ全体の一部しか顕在化していません。Fastaskは既存のネットリサーチからのリプレイスを狙うサービスではなく、リサーチに対する潜在的なニーズを掘り起こすためのものなのです」(石川氏)
想像以上に費用・手間・時間が掛かったネットリサーチ。もっと身近にできないか
セルフ型アンケートサービス”というアイデアが生まれたのは、実は石川氏自身の経験が基になっている。
石川氏は以前、クラウド型のストレージサービス「InternetDisk ASP」などの事業企画を担当。業務上、ネットリサーチを活用する機会があったが、想像以上に費用・手間・時間が掛かってしまっていた。やり方次第では、もっと使い勝手の良いサービスができるのではないか。そう感じたのがFastask考案のきっかけだったという。
「ネットリサーチという新しい手法が広まったことで、確かに従来の調査方法よりも圧倒的にコストを抑え、短期間で調査ができるようになりました。
ただ一方で、ネットと言いながら、実際にネットを利用しているのはモニタが回答する部分だけ。クラウド型サービスを手掛けている立場からは、『インターネットが持つポテンシャルをほとんど使っていないに等しい。もっと改善できるところがあるのではないか』と感じたことも事実です。それなりの規模で調査しようとすれば、50~70万円程度は掛かっていたネットリサーチですが、スキーム全体を「セルフ×クラウド」という発想で見直すことで、もっと身近にできるのではないかと考えたのです」(石川氏)
アナログな部分のシステム化とセルフ式にすることで低価格化を実現
石川氏はクラウド型のWebサービスに携わっていた経験を踏まえ、既存のネットリサーチを分析。人手を介するアナログなところが多数残されているのではないかと考えた。アナログな部分を徹底的にシステム化し、利用企業側によるセルフサービスの部分をあえて残す。そうして低価格化を図ったのがFastaskなのだ。
例えばアンケート調査票の設問。利用企業側の担当者がノウハウを知っていれば、専門家に頼らなくても、設問を自分で作成できる。(前述の事前調査では、何らかの形で設問作成のノウハウを持っている企業は71.8%に上るという結果が出ている)
あるいはアンケートに答えてもらうためのWebページ。案件ごとに個別に作り込まなくてもよいのではないか。実際、しっかりとしたテンプレートさえ用意しておけば、十分なレベルの回答ページをCMSで簡単に作成することができるはずだ。
アンケート結果を集計・分析する工程にしても、利用企業側でやれる話。逆に利用企業側に任せることで、集計データをより速く届けることができるようになる。
Fastaskはそうしたことの積み重ねで原価を圧縮。従来型のネットリサーチと比べて何分の1かの料金で調査を実施できるようにしている。
セルフ式サービスの抱える問題。有意義なアンケートにするため、設問作成のガイドを用意
もちろん、セルフサービス式にすることで生じてしまうデメリットもある。
一例を挙げると、設問の作り方。7割程度の企業担当者がノウハウを持っているとはいえ、持ち合わせているノウハウのレベルはまちまち。中には、「あいまいな表現で質問してしまう」「回答が集まりそうな選択肢が抜けている」「特定の回答に誘導する質問になっている」などの問題を抱える設問が含まれているかもしれない。
「確かに初めて設問を作る時には、間違いに気付かないことがあるかもしれません。ですが、実は“コツ”みたいなものは体系的に整理されているので、これらの“コツ”さえ理解してしまえば、かなりのレベルで正しい調査票を作ることができます。だったら、専門家から教えていただくノウハウをわれわれがかき集めて、『こういうところに気を付けましょう』と促せば慣れていない方でもちゃんと調査票を作ることができるんですよ」(石川氏)
そこでFastaskでは、設問設計時に気を付けてほしい点をまとめたガイドを用意。設問を作成する際に陥りがちなミスを注意したり、よく使われる質問文についてはテンプレートを紹介したりしている。
そして設問が完成した後、モニターに公開する前のところで、Fastaskのリサーチャーによるチェックが入るようにした。モニターから有効な回答が得られるような調査票になっているかどうかを支援し、スムーズに調査に移れるような仕組みになっているのだ。
Fastaskは“スパイラル型のリサーチ”を可能にするかもしれない
冒頭で「潜在的なニーズを掘り起こす」という発言を取り上げたが、Fastaskによってどのような新しいニーズを掘り起こせると考えているのだろうか。そんな質問に対して、石川氏は次のように答えている。
「何らかの仮説を確かめるためにアンケート調査を行うわけですが、結果によって調査前の仮説が崩れることもあります。その結果を受けて、『もうちょっと調べたい』『別の仮説に基づいて調べてみたい』と思う人もいることでしょう。でもこれまでは、そう思った時点で予算がなくなっていますから、あきらめざるを得なかったのが現実だったのではないでしょうか。Fastaskなら、これまでの1回分の予算で複数回リサーチできます。確認しながら、一歩ずつ正しい方向に向かっていくことができるわけです」
畑違いだが、システム開発の手法として、ウォーターフォール型やスパイラル型といった開発手法がある。Webサイト開発などで使われるスパイラル型の開発は、最初から完全なものを目指すのではなく、試しながら徐々に完成度を高めていく。リサーチの世界でもセルフ式という選択肢を用意することで、スパイラル型の調査が可能になるのではないか。石川氏はそう考えているのだ。
ネットリサーチを広めることで、「すべてのビジネスに『裏付け』を」
スパイラル型の調査を可能にするだけではない。これまでネットリサーチを試みたことがなかった層にとっても、Fastaskによってリサーチがより身近なものになる可能性もある。
「セルフ式なら費用が何分の1かになる一方、自分自身で設問を作らないといけません。一定のノウハウを既に持っている人が、どうしてもメインにはなるでしょう。それでも、『ネットリサーチは初めて』という方がトライ&エラーをする際に、この安さは後押しになるはずです。今すぐではないにせよ、『今後、ノウハウを蓄積していきたい』と考えているお客様にも、機会を提供できるようにしていきたいです」(石川氏)
Fastaskのキャッチフレーズは「すべてのビジネスに裏付けを」というもの。ネットリサーチ未経験の企業にも広く使われるようになれば、「これはヒットする」という確信を持って、新たな事業・製品・サービスを世に送り出せる企業が増えてくることだろう。リサーチの文化が根付いていない企業には、Fastaskの登場が大きな転機になるのかもしれない。
リサーチのやり方だけではなく、ビジネスのやり方も変える。Fastaskには、そんな可能性もあると言えるのだろう。