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マーケティング・プロフェッショナルズ

「顧客理解を深めるために、WEB事業部をCRM部門へ進化させる」─ 良品計画 奥谷孝司氏


Webは“顧客を知る場”としてもっと活用できるはず

 青葉――WEB事業部に着任されてから2年ほど経っています。着任する際にご自身で課題に感じていたことはどのようなことですか?

 奥谷:MBAの修士論文を書く際に、自社の顧客データを参考に論文を書きたいと考えていました。しかし、参考にしたいと思っても店頭ではそれほど多くのデータは取れていません。

 でも、どこかにあるだろうと考えた際にWebにならあるだろうと気付きました。店頭では正直、「何が売れたのか」しかわかりませんが、Webなら「どのお客様が何を買ったのか」が分かります。顧客を理解する場として可能性があると感じ、Webを活用した方がいいのではと当時から感じていました。

 当社はECも長年展開していますが、やはりものを買っていただくメインの場は店舗だという考えがベースにあります。それに、顧客の声を取り入れるためのコミュニティサイト「くらしの良品研究所」を通して「体にフィットするソファ」などのヒット商品も生まれたりして、双方向的な施策にも積極的でした。なので、決してWebを売る場所として使うだけではなかったんですが、マーケティングを学んだ上でWebの世界を見てみると、まだまだできることがあると感じました。ちょうどその頃、ソーシャルメディアの時代が来ていたので、Twitterで店舗のタイムセールを告知したところ、すごく反響があって。そこから、ソーシャルメディアを通した店舗送客などにも取り組むようになりました。

株式会社良品計画 WEB事業部長 奥谷孝司氏

 青葉――最近ではFacebookの活用やソーシャルゲーム「MUJI LIFE」の展開など、オンラインの施策を活発に行われています。大変な業務を抱えているかと思いますが、組織規模や体制についてお伺いさせてください。

 奥谷:WEB事業部には現在、約40人が所属しています。大きく分けて4チームあるのですが、ECのチームとコミュニティ運営のチームがフォワード、オペレーションとシステムの2チームがバックエンドというフォーメーションです。それに加えて、商品撮影や画像管理をする撮影室があります。

 他の小売業に比べれば、当社は割といろいろな部門で内製化をする傾向があるかもしれません。たとえば、システムのチームは、元々はサイトリニューアルを行うときに別部門の情報システム部が通常業務と並行して進めるのが難しくて暫定的に立ち上げ部署ですが、解散せずに、そのまま存続させました。作業を外注するのと内部で行う場合との違いや、投資とリターンの関係についても分かるようになり、加えて、人材育成の面でも効果的だったと思っています。

施策の成果が数値化できるWebの世界はフェア

株式会社サイコス 青葉哲郎氏

 青葉――先ほど、WEB事業部であるにもかかわらず、ECがメインではないというお話が気になりました。現在の事業部ミッションを教えてください。

 奥谷:私たちのミッションは、第一に、店舗への送客です。これは社長からも言われていることですが、当社はネット専業企業ではないので、WEB事業部の役割は元々マーケティングセンターのようなもの。第二に、顧客との対話の場である「くらしの良品研究所」を運営すること。そして最後にくるのがECの売上です。

 今、無印良品の会員組織「MUJI.netメンバー」は約290万人いるのですが、2年以内に1度でも購入した人は4割、半年以内だとさらに4割で全体の16%なんです。ほとんどの方の購買の場は店舗なんですね。だから、ECだけに注力するより、無印良品全体のコミュニケーションを考える方が、ビジネスに貢献する度合いは高いとも言えます。

 ECの売上自体は最優先ではありませんが、ECを通して得られる顧客情報は、CRMに大いに寄与できる。また、同じようにコミュニティのチームが担当している様々なソーシャルメディア施策への参加状況などからは、顧客の声や状況が分かります。これを合わせれば、「ソーシャルCRM」という新たな顧客関係マネジメントが実現できます。

 そのために、日々の取り組みについて細かくPDCAを回しています。そうすれば、リアルタイムで状況を把握したり、それを店舗に素早く反映させたりもできます。

 青葉――それが、例えば店頭での電子クーポンのような形ですでに実現されているわけですね。

 奥谷:はい。クーポン発券機の設置に店長と立ち会って、様子を見たりして。当然、データも取って、定量的にフィードバックしています。

 先ほどお話した店舗がメインだという考え方は、逆に言えばWEB事業部の存在感がそう大きくないということでもあって(笑)、この2年間、店舗とだけでなく宣伝販促室や販売部など横の連携もなるべく図ってきました。例えばソーシャルメディアで商品の良さをうまく伝えられれば、それは宣伝販促の手伝いになるので、施策によっては一緒に進めてきました。

 コストとリターンを考えると、施策の成果がきちんと数値化できるので、Webの世界は非常にフェアだと僕は思うんですね。もちろん、ペイドメディアをゼロにするといった極端な話ではありませんが、その点ではなかなか数値化できない従来のペイドメディアよりもWebの方が費用対効果がずっと高いと思います。こうしたことを他部門の人と一緒に考えていくためにも、分析し目に見えるように定量化することが大事ですよね。

 ただ、常にビジネスは動いていますから、意思決定に完璧な情報がそろうことはありません。それならば、なるべく細かく、かつ高速でPDCAを回して、小さな実験を繰り返していく方がいい。すると速度がついて、修正も早期にでき、成果も出せます。

 これには、40人のスタッフに小さな成功体験を積み重ねてもらう、という意図もあるんです。小さなことなら自発的に取り組みやすいし、失敗を恐れて縮こまることもありません。

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具体と抽象を行き来する視点を持つことが大切

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この記事の著者

青葉 哲郎(アオバ テツオ)

サイコス株式会社 代表取締役
東京都出身。明治大学政治経済学部卒業。1994年4月 ジャスコ (現イオン)入社。1995年マイクロソフト入社。トップセールスを経て、最年少ブランドマネージャに就任。MSN事業開発など担当。2001年インテリジェンス入社。マーケティング部を設立し『はたらくを楽しもう。』で同社を転職ブランド1位に。2008年リクルートエージェント入社。『転職に人間力を。』で新ブランドを立ち上げ、コスト減と広告効果の最適化...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2012/05/17 14:30 https://markezine.jp/article/detail/15222

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