ライブストリーミングをめぐる現状
この「既放送番組等」の制限は、インターネットでのライブストリーミングにも影響を与えている。「NHKも、テレビ放送とインターネットのライブストリーミングを一緒にしたようなページをつくったり、ニコニコ動画(の「ニコ生」)のような試みをやってもいいじゃないかという意見を若い人からもらうこともあります」と松村氏は言う。

しかし、放送法の規定によってNHKがそれを行うことは難しい。ライブストリーミングの場合は、データのエンコーディングの際に生じるわずかなディレイ(遅延)があるだけで、ほぼ同時放送と同じとみなされるからだ。ただし例外もある。
「(放送と)同時に出していいのは、たとえば災害などのときです。テレビのない人に、テレビの内容を同時にインターネットでも提供したほうがいいかもしれない。災害のときには、生命・財産を守るためには『既放送でなくてもかまわない』と放送法で定められています。」
ライブストリーミングが実施できるのは災害などの非常時か、番組自体にライブストリーミングが組み込まれている場合、技術的な実験の場合などに限られる。
インターネット配信も「放送」ととらえる国もある
これに対して、国際放送のライブストリーミングは、NHKが注力することを求められるサービスである。この点について松村氏は「国際放送の場合は、放送と同時にたくさんの人々に情報を提供することで、日本をより理解してもらう、日本の情報を世界にお伝えする。日本にいる外国の方たちに知ってもらうという、まったく違う目的があるのです」と説明する。
さらに笹原氏は次のように補足する。「国際放送自体は、海外で放送免許をとっている地域で放送しているものですが、国によっては、放送と同時のインターネットでの通信は“放送扱い”になっている地域が多い。それは法律の枠組みによって違うのですが、『NHK WORLD TV』で同時配信をやっているのは、それ自体が“放送”だととらえている地域も多い。国内向けのライブストリーミングとは事情が異なってきます。」

NHKは2月上旬に、「NHK WORLD TV」のAndroidアプリをリリースし、国内より先に海外での運用を開始した。これには、スマートフォンの機種の問題もからんでいる。
「世界の大体7割くらいをカバーしているのはHTC。(国際放送のアプリは)HTCとサムスンの機器に対応するようにしています。逆にいうと、日本向けの機種にどこまで対応できるかというのがある。海外が第一の目的、その後国内という展開になっています。」(笹原氏)
NHKオンラインでも、スマートフォンへの対応を進めているが、全体を最適化するのは難しい状況。トップページやニュース、大河ドラマなど、よく見られているページを中心に対応を進めている。さらに、NHKオンラインの中には各地方の放送局のページもあるので、これらも順次スマートフォンに最適化していくという。