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ゴルフダイジェスト・オンラインも注目するマーケティングの全社最適~事業部間シナジー最大化の必要性

 1人のユーザーに対して複数の事業部がサービスを提供している企業なら、どこも「シナジーを生みたい」と考えていることだろう。ゴルフポータル最大手のゴルフダイジェスト・オンラインも御多分に漏れず。だが各サービスが個別最適を優先し過ぎるとユーザー離れを招きかねない。同社のマーケティング責任者である中澤伸也氏は、全社最適を図りつつ、戦略的な意志決定が行えるような取り組みの必要性を感じている。

ゴルフダイジェスト・オンラインの責任者も感じていた、全社最適の必要性

 個別最適だけではいずれ成長の限界に直面してしまう。そこから抜け出すためには、全社最適を志向する「統合マーケティング・マネジメント」が必要だ――。

 SAS Institute Japan株式会社はそう考え、統合的にマーケティングをマネジメントする仕組みの必要性を唱えている。そんなSASのメッセージに対して、企業のマーケティング責任者は実際のところ、どのように感じているのだろうか。

 株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン(以下、GDO)の中澤伸也氏は、以前から統合マーケティング・マネジメントの仕組みを導入したいと考えていたマーケティング責任者の1人。中澤氏は顧客と直接対面する家電量販店の店員という仕事からキャリアをスタートし、当時は日本最大級の規模だった同社ECサイトの立ち上げに携わり、データマイニングやCRMの業務を任された後、経営管理の業務経験までを積んだ。

株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン
マーケティング部 部長 中澤 伸也 氏
株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン マーケティング部 部長 中澤 伸也 氏

 その後、データマイニングのチームを新設するためにGDOに参画。ログ解析や顧客解析、GDOの情報システム全体の再構築を進め、今ではマーケティング部の部長という要職を任されている。中澤氏はなぜ統合マーケティング・マネジメントの必要性を感じるようになったのか。GDOのビジネスモデルに触れながら説明していきたい。

1人の顧客に3事業のサービスを提供するからこそ起きてしまった問題

 GDOは日本最大級のゴルフポータルサイト。GDOブランドの下、ゴルフ業界のニュースやスコアアップに役立つレッスン動画などを配信して広告モデルで収益を得るメディアビジネス、ゴルフ用品をEC販売するリテールビジネス、ゴルフ場の予約サービスを提供するゴルフ場ビジネスという3つの事業を走らせている。

 「普通、事業部が別なら、顧客も別になることが多いのですが、当社の事情は特殊。1人のお客様に複数の事業部がサービスを提供しています。そうなると、どんな問題が起きるのでしょうか。事業部制を敷くと、事業部単位で収益責任を持ちますから、各事業部が予算達成を最優先で考えます。会社としては1人のお客様に最適なサービスを組み合わせて提供することで、シナジーを生み出し、効率化も図っていきたいところです。一方で各事業部は、予算を達成しないといけません。この構造的な課題により、常に歪みが発生する可能性を抱えています」(中澤氏。以下、同)

 中澤氏の言う歪みが顕著に表われてしまったのは、会員向けに配信するメール。今でこそ「何曜日はこの事業部以外は送れない」と運用ルールを定めたが、事業部ごとに自由に配信できる体制だったころには、1日に何通ものメールを送りつけてしまっていた。ユーザーにとっては、GDOの内部事情など関係ない。GDOとして各事業部の動きに統制が取れていないと、ユーザーを困惑させることになり、ロイヤリティを低下させることになってしまう。

 「そこに問題意識を持っています。本来、1人のお客様に提供する複数のサービスを上手くコントロールできれば、大きなシナジーを生み出せるはず。顧客単価やライフタイムバリューを大いに高められるポテンシャルはあるのに、発揮しきれていません。共通のモノサシで複数の事業の施策を評価する仕組みや、全体を俯瞰する方法論を確立できていないところが課題になっています」

歪みが生まれても、それ以上に事業部制には利点が多い

 事業部制だから歪みが生じているとしても、事業部制を変えるわけにもいかない。事業部間で共通している業務は一見すると多いようにも思われるが、商品を仕入れる業務を切り取ってみても、ECの事業では商品を見極めるバイヤーの役割が求められるのに対して、ゴルフ場予約の事業ではゴルフ場の運営者から信頼を得るために足繁く通うフィールド営業の動きが必要になる。

 また業務自体は同じでも、必要なノウハウはまったく別物になることもある。例えばECとゴルフ場予約とでは収益構造が異なる。リスティングやアフィリエイトの広告を運用するにしても、コンバージョン獲得に掛けられる集客/販促費の単価が大きく違ってくるため、同じように予算配分するわけにはいかない。キャンペーンを企画するにしても別の発想が必要になる。

 GDOでは事業部制になってからも、しばらくは集客/販促の機能を集約していた。だが、そうした理由から事業部ごとに分割した方が効率的と判断し、事業部ごとに集客/販促の機能を持たせるようにしたのだと中澤氏は語っている。

 「集客/販促の予算は、各事業部の計画に基づかないと決められませんし、各種キャンペーンと連動させることも多かったのです。事業部との連携を高めるために各事業部で集客/販促の機能を持つようにした結果、縦のラインにおける意思決定・連携は飛躍的に向上し、リスティングやアフィリエイトをより迅速かつ効率的に運用できるようになりました」

“縦”の効率性を優先した結果、薄れてしまった“横”の連携

 だが、集客/販促機能を完全に事業部へ組み込んだことで、組織内でも個別最適の悪い面が目立つようになったと中澤氏は感じている。

 「事業部間の“横”の情報共有のために企画書の共有を進めようとしても、企画書は本来、事業部責任者の承認を取り、仕入れ担当者に必要な商品手配を依頼し、制作担当者にクリエイティブのコンセプトを伝えるために使われます。自然と事業部の“縦”のラインを考えて企画書を作るようになり、“縦”で使いやすいよう独自に進化してしまいます。だから“横”で同じ形式で統一するのが難しく、数字でKPIを共有するのが精いっぱいでした

 それでも中澤氏が強権を発動すれば、企画書のフォーマット統一など、業務運用ルールを定めて強制することもできたかもしれない。だが、それでは余計な手間ばかりが増えてしまい、生産性が落ちてしまう。

 フォーマットを統一することで、情報を共有することで、目に見えるメリットがあるのなら、それでも社員には納得してもらえるかもしれないが、「目に見えるメリットはアウトプットしにくい。頭の中で『“横”の共有を進めることで得られるアウトプット』はイメージできていたのに、その環境を構築するのが至難で着手できていなかった」と中澤氏は自省している。

“横”の共有を進めることで、戦略的なマーケティングが可能になる

 中澤氏は「“横”の共有を進めることで得られるアウトプット」について、次のように語っている。

 「共有化することによって、いつ、どんなキャンペーンが、どの顧客に対して動いているか、できればガントチャートの形式で可視化したいと考えていました。システム化や自動化を進めることで、自動的にデータを吸い上げられるようになり、キャンペーンの情報を時系列に置き換えたガントチャートができるはず。それができればメリットは大きく、どれくらいの金額がどのタイミングで動くか、見えるようになります。

 そして、目的ごとに掛かっているコストを、横串で把握できるようになるはず。新規顧客を獲得する目的と、既存顧客のリピート改善の目的でそれぞれいくら掛かっているのか、時系列で集計できることが可視化する最大のメリットでしょう

 GDOのように大規模な会員を集めているサービスの場合、統計的なブレが少なくなることから、過去のデータを使って会員1人当たりの売上、リピート率・退会率をかなり正確に予測できるようになる。すると、近い未来の売上予測が高い精度でできるようになり、「新規で最低でもこれだけ会員を獲得しておかないと、中長期的に売上が落ち込んでいく」といった見通しが立てられるようになる。

 「より全社戦略的な視点から、マーケティングを考えられるようになるのが大きい。事業部ではどうしても自分の部門のことが中心になってしまいますから、戦略的な視点が抜け落ちがちです。例えば、新規顧客の獲得ROIに応じて、戦略的視点から部門間を跨ぐ形で広告宣伝費の配分を柔軟に変更するといった判断ができるようになります。そうした戦略的なプランニングをしていくためにも、情報が統合されている必要性を感じているのです」

「SAS Marketing Operations Management」への評価

 そんな考えを前々から持っていた中澤氏は、SASが統合マーケティング・マネジメントを実現するために開発した製品群「SAS Marketing Operations Management」をどう評価しているのだろうか。

 「まず、すぐに使えるなと感じたのは、プロモーションを立てるための一連の活動がテンプレート化されているところです。ノウハウの共有化がかなり進むだろうと非常に期待しています。さらに“横”で企画を共有することができますから、いつどのタイミングでキャンペーンが走るのか、“横”のチームで共有できるようになります。キャンペーンの整合性が取れるようになり、すぐにでも最適化ができるようになるでしょう。

 使えそうな機能の3つ目は、共通のフォーマットでコストやKPIを入力していくところです。どのタイミングでいくらの費用が発生して、成果としてどれだけの売上が立ったのかが分かるようになります。全社的なコストやプロモーションの投資対効果(ROI)を経営陣が把握しやすくなるのは魅力ですね」

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この記事の著者

中嶋 嘉祐(ナカジマ ヨシヒロ)

ベンチャー2社で事業責任者として上場に向けて貢献するも、ライブドアショック・リーマンショックで未遂に終わる。現在はフリーの事業立ち上げ屋。副業はライター。現在は、MONOistキャリアフォーラム、MONOist転職の編集業務などを手掛けている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2012/09/28 13:08 https://markezine.jp/article/detail/15498