投稿型で対等に、コメント表示でユーザーがのめり込む
そう、言うまでもないが、ニコ動には独特の空気がある。「踊ってみた」「歌ってみた」といった言葉のセンスはもちろん、もはやあまりにも浸透しすぎて当たり前になったが、「動画にコメントを流す」というのは画期的だった。
「動画とコメントが同じ時間軸で動いていくわけですから、すごくいいタイミングで進行して、飲めりこんでいく。その仕組みを直感的に作ったんですよね。なぜおもしろいのかわからないけど、説明抜きにしておもしろいからどんどん広がっていく。
日本人の作るサービスって、なぜおもしろいのか解説がつくものが多いんですが、だいたいおもしろくないですよね。先ほどのマーケティングの話と同じで、『こういうふうに受け取って下さい』とつきつけられると、反発がわく。本当におもしろいものっていうのは、解説がなくても伝わるし、染み込みやすい。アップル製品に説明書がなくても、心地良いと感じるのと似ているかもしれません。
コメント表示もプログラム上で意識をしていて、たとえば、少ない時はゆっくり、多い時は速く流れるようにしている。動きそのものが人の流れというか。人の集まる濃度と共通してくるので、盛り上がれば盛り上がるほど熱やスピードが加速していくんです」

もちろんニコ動で生中継し、たくさんのコメントが寄せられた
ネットの特徴は双方向性。繰り返し言われてきた言葉だが、ニコ動ほど濃いコミュニケーションが行われている場は、なかなか見当たらない。
「投稿型なのもすごく大きいですね。投稿する側と見る側、立場が対等でどちらが上というわけでもない。投稿する側はたくさんの人に見てもらいたいし、見る側はおもしろい人がいないか探しているから、距離感が近い。ニコ動の投稿者は『アーティスト』として認識されていると思うんですが、やっぱりユーザーの1人なんです。
つまらないコンテンツには、『つまらない』とコメントがつきます。僕らが生放送をやっても言われますし。言われた側も、『じゃ、もうちょっとマシな話をします』となって、コンテンツがよくなっていく。参加させて、距離感を近くして、体感させていく。これが、人が集まる仕組みだと思います。こういう仕組みは、ユーザーは理解していないはずです。『おもしろいから』ただそれだけ。そういう感覚で足を運んでもらうのが、すごく大事なんじゃないかと思います」
約10万人を動員した、ニコ動の超巨大フェス「ニコニコ超会議」
音楽業界におけるニコ動の影響力を世に知らしめたのは、2012年4月に開催されたリアルイベント「ニコニコ超会議」だ。その動員人数は約10万人。人気夏フェスと同規模である。
「ニコ動のユーザーが、さらにニコ動を体感するための場所です。普段ネットでやっておもしろいと感じていることを、現場でもやってみっかという。ニコ動をおもしろいと思っている人じゃないと、なぜこんなに人が集まるのか、盛り上がるのか、理解できないと思います。

ネットで日々、擬似的に多くのイベントが開催されていますが、ほかのユーザーと直接会うというのは、緊張感が生まれます。人と話さないといけないし、自分の姿をさらさなければならない。その緊張感が高揚感につながる。まさに、お祭りですよね。
ネットを日常とすると、『超会議』は非日常。でも、普段のノウハウで楽しめるので、日頃の自分の成果が出せる。一緒にいるのは、顔は知らないけど認知している人たちだから、安心してはじけられる。
もちろん、お祭りだから毎日あるわけではなくて、普段はネットでいつものニコ動を楽しもう。自分がやるべきことをちゃんとやって、次のお祭りに備えようとなるわけです」