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MarkeZine Day 2025 Retail

LABO

「レジに並ぶ」という考えが昔話になる時代がやってくる
IBMのPOS事業売却から考える「小売業の未来」

キャッシュレジスターを取り除き、絆を強化するApple Store

 未来のPOSを想像するために参考になるのが米アップルが運営する「Apple Store」だ。iPhoneの成功でメーカ色の強い同社だが、実は小売業でも優秀な成績を収めている。床面積1平方フィート当たりの売り上げが全米トップの5626ドル(43万8828円)にものぼり、「世界で最も高い販売効率を誇る小売業者」という側面を持ってい

図:他社を圧倒するアップルストア
図:他社を圧倒するアップルストア

 もちろん、アップルの商品が魅力的であり、他の小売業が扱う商品と比べれば単価が高いという理由はあるだろう。それでも、二位の米ティファニーの二倍、三位の米コーチの三倍といった客単価の高い高級ブランド以上の効率を達成している。

 これほどまでに好成績を収めることができる同ストアの秘密は、単なる製品の魅力だけでは無い、他の小売店とは全く違うコンセプトを掲げている点にあるだろう。

 店舗とは物を売る場所ではなく、顧客と絆を深める場所。Apple Storeに訪れた顧客は何時間でも、購入しなくても好きなだけ豊富なサンプルを試すことができる。そんな「アップル好きの集う場所」を提供することを目的としている。単に製品を買うだけであれば、アップルの製品はアマゾン、ウォルマート、ベスト・バイなど、どこでも廉価で買うことができるのだから。

 Apple Storeを生み出したロン・ジョンソン氏は「顧客から支持されれば売り上げはあとからついてくる」と語る。ジョンソン氏の目指した物は、ビル・ゲイツ氏がオーナを務め世界最高の接客と評価される「フォーシーズンホテル」のコンシェルジュサービスをApple Storeで再現するということだった。

 そんな拘りから生まれたApple Storeに一歩足を踏み入れると、一般的な小売店のイメージは全くない。品物が押しこめられた陳列棚も、大声で安売りを叫ぶ店員の姿も無ければ、安売りを告げるPOPも無い。あるのは親しげに話す客と店員、アップルの製品が最も美しく見えるように配備されたディスプレイ、アップルの製品のようにシンプルな内装の数々だ。

 この空間を見渡してみると、あることに気づく。キャッシュレジスターが無いのだ。役所のようなキャッシュレジスターの代わりに、iPhoneをレジスター代わりにすることで会計をすませることを可能にしている。これにはこんなこだわりがある。レジを置くことでついさっきまで親しく話していたファンとの間にテーブル一台分のスペースができてしまう。このテーブル一台分の距離がファンから消費者へと、近づいた距離を引き離してしまう。このファンとの距離を変えずに、ファンのまま会計を済ませる方法として、ファンの対面では無く、隣に立てる会計方法として、このiPhoneを利用した「どこでも会計できるスタイル」を採用しているという。

EDLPを実現するためのキャッシュレジスターの全廃

 現在ロン・ジョンソン氏はアップルを離れ、米国デパートの老舗JCペニーで「デパート改革」を手掛けている。アップルストアで成功したIT革命によってデパートを復活させようとしている。個々の商品に強力なブランド力のあったアップルとは異なり、個々の商品のブランド力ではなく商品の豊富さを売りとするデパートでジョンソン氏がどのような改革に取り組むかが注目されている。

 ジョンソン氏がJCペニーでまず狙うのはIT化によるコスト削減だ。それによって特売主体のスタイルから、EDLP(Every Day Low Price)への体質転換を果たすという。

 安売りを武器とするJCペニーでは慢性的な特売というカンフル剤によって特定の製品の販売に注力していた。年間590回にも及ぶ特売、全商品の72%に対して50%以上の割引率の適用。デフレ時代の象徴とも言えるこの特売スタイルは、多額のプロモーション費用が必要となりそのプロモーション費用は最終的には顧客に跳ね返っていた。

 言い換えれば、顧客がプロモーション費用を負担していることになる。そういった顧客の利益につながらない無駄な投資は極力抑制し、体質改善を進めることで「恒常的に安価に製品を提供する(EDLP)ことが可能な体質」に転換することが、顧客の利益に繋がると、ロン・ジョンソン氏は考えている。  

 EDLPを実現するためのIT化によるコスト削減で効果が期待されているのが、RFIDやセルフチェックアウトを充実させキャッシュレジスターを全廃するという試みだ。ロン・ジョンソン氏は2013年内に以下の改革を行うと各紙のインタビューに答えている。

  • 2013年2月から全商品にRFIDを付与
  • 全店にWiFiを導入
  • モバイルチェックアウト、セルフチェックアウトを完備 
  • 2013年中にキャッシュレジスターを全廃
  • 2013年中に現金決済を全廃  

 これらのIT化が実現すれば、キャッシュコーナの排除や、レジ用の店員の削除といったコスト削減効果だけでなく、店内のどこでも決済が可能になり、買い物かごを置くだけで決済が完了するという利便性が顧客にはメリットとなる。デパートで良くみかけるレジ前の行列がなくなり、今すぐ欲しいものがストレス無く購入できるようになる。他店との差別化に繋がることが期待されている。

 基礎となる土台を作り上げた後、O2OやARを活用した「訪れる価値のある店づくり」へと変化させていくという。

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「レジに並ぶ」という考えが昔話になる時代

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この記事の著者

大元 隆志(オオモト タカシ)

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 クラウドインテグレーションビジネス推進部 エキスパートエンジニア
国士舘大学 経営学部 非常勤講師

通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。現在はCASBソリューションのセールス開発・プリセールスを担当する一方で、国士舘大学 経営学部にて学生向けに企業におけるクラウド、モバイル利活用について講座を担当する。最新のIT動向や技術動向分析が高く評価され、ヤフーニュース、IT Leaders、ITmediaマーケティング等IT系メディアで多くの記事を執筆。所...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2012/09/04 14:00 https://markezine.jp/article/detail/16338

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