「レジに並ぶ」という考えが昔話になる時代
スマートデバイスが消費者の環境を大きく変えようとしている。消費者にとって決済の手段が現金だった時代には、現金を安全に管理する「キャッシュレジスター」が必須であった。しかし、モバイル端末に決済機能が付与され、必ずしも現金が必須では無い時代が訪れようとしている。
スマートデバイスによりインターネットが消費者に身近になったことでリアル店舗にも変化がおきている。オンライン環境が整いネットショップのアマゾン等が勢力を拡大する中で「物を選ぶ、物を安く買う」機能は突き詰めればリアル店舗は、ネットショップに叶わない。小売店の多くはアマゾンが取扱製品を増やすことを警戒している。Apple Storeは店舗をファンの集うコミュニティの中心に据え「その店だからこそできる体験」を提供し世界最高のパフォーマンスを達成することに成功した。
Apple Storeの成功を例にとるならば、リアル店舗は「物を買う場所」では無く「対話を楽しむ、買い物を楽しむ、相談できる」場所であることが顧客に新たな価値を店舗に与えていると考えることができる。アマゾンでどこよりも安いiPhoneを探すことはできるかもしれないが、自分の購入したiPhoneの操作につまずいた時や、買い替えの相談にのってもらいたい時にアマゾンは頼れるパートナーでは無いだろう。
店舗が物を買う場所で無いとしたならば「物を探す、レジに並ぶ」という今までの常識に最適化されて作られた店舗設計は、大きく変わる必要があるだろう。いかに自然に「会話を楽しむか」ということに最適化した場合、現金のやりとりというのはそういった空間には馴染まないものなのかもしれない。
技術革新が決済の方法を大きく変えようとしている。その変化に気づいた先行プレイヤーはリアル店舗の価値を変えようとしている。キャッシュレジスターとセットのPOS市場は縮小するが、非接触決済技術を活用したスマートデバイス等で構成する、空間に溶け込む新たなPOS市場にはニーズが生まれる。IBMのPOS事業売却の裏にはそういった前者の部分から後者へとシフトする狙いがあるのではないだろうか。