部門間のデータがつながる 御社の組織はつながっていますか?
田島:あまりデジタルを使われていない企業では、そういった考え方をするのも難しいこともあるのですか。
横山:なかなか難しいです。そもそも日本企業のIT投資は、情報システムや業務システムなど、いわゆるバックエンドに集中しているんです。営業やマーケティングなど、攻めの領域にはなかなか投資されない。人材も分かれていて、ITリテラシーはあるけれどマーケティングリテラシーはない。
もっと、情報システム分野の人を、営業やマーケティング部門に出すような人事政策をしていけばいいと思います。アドテクノロジー系のツールも、本来は営業やマーケティングの人が使うものですが、彼らにはITリテラシーがなかなかないですから。
となるとやはり、テクノロジーがわかっている人たちに、ある程度マーケティング・コミュニケーションを覚えてもらうのを推進したほうが早い気がしています。たとえば、いかにソーシャルに伝播させていくかというクチコミの方程式の原則の1つには、金属の曲面に均一に塗料を吹き付けるためにどうするというような、物理学が入ってきています。とてもじゃないけど、僕らにはキャッチアップできない。でも、地頭のいい理系の人たちに、マーケティング・コミュニケーションを教えると、目をキラキラさせて「おもしろいです」という人も出てくる。そういう人材登用もアリじゃないかな。

――マーケターはどういうコミュニケーションをしたいか、情シスに伝えるスキルを持つことが重要ですよね。
横山:情シスの人たちは、事故起こさない、ミス起こさないという守りの姿勢になりがちです。けれどマーケティング・コミュニケーションは、最初はミスもトラブルも覚悟の上でこちらから仕掛けていきますよね。そのあたりが、なかなか難しい人も多いかな。
でも、アウトソースのツールも多くなってきて、社内でしっかり守るミッションと、外のツールを使って攻める、その折り合いをつける必要が出てきた。マーケターと情シスの間で会話ができなきゃいけないのは当然です。優秀な企業さんは、上から言われなくてもヨコでつながって、部門間で会話をし始めています。
よく書くことですが、Webサイト、ソーシャル、広告CRM、さまざまなツールが出てきて、それぞれがAPIでつながるようになってきた。でも一番肝心なのは、企業内のそれぞれの担当者がつながる組織ができているかどうか。お客様のIDは一緒なのに、部門ごとに担当者が違うという事情で、別の人としてとらえるんですか?と。
――マーケターとして、広告代理店の人は今後どうしていったらいいでしょうか。
横山:従来のマーケティングは、1人の優秀なマーケターが一刀両断で「ここが切り口」といった具合に、自分のアイディアで仮説を提示して実施するモデルでした。最大公約数をどう切るかということなので、1人の優秀なマーケターの頭の中で切ることができたんです。
でもこれからは、ユーザーの行動履歴などさまざまなデータが出てきて、その中からある種の新しい「こういう文脈ってあるんだ」という発見が生まれてくる。すると、1人の頭の中で全部切り取れるようなマーケティングって、なかなか成立しなくなると思うんです。文脈を発見していくモデルになりますから。
オペレーションしながら見つけていくものであって、共同作業になる。データドリブン・マーケティングはそういうものです。それができないと、なかなかビッグデータ時代のマーケティング・サポートをする会社にはなれないんじゃないかな。
アドテクノロジー、マーケティング・テクノロジーとさまざまに出てきていますが、結局は管理画面上でオペレーションせざるをえない。そのオペレーション部分を全然知らずに、何かモノを言うということはできないと思います。広告代理店がコミュニケーションを開発する会社として、そういったオペレーションをするかどうかも含めて、かなり難しいところにきているでしょう。
もちろん、スペシャリストのビッグアイデアは絶対必要なんですが、それだけでは成立しなくなっている。データをどう見るか、どう切り取るのか。目と頭で見ながら、「ここにこういう文脈がありますよね」というのを見つけていかなければならない。そこまで自動化できるのは、コンピュータが人間の頭と同じくらいになると言われている、確か2050年頃のはずなので(笑)。それまでは人間がやっていかなきゃならないでしょう。