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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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マーケティング・プロフェッショナルズ

「これからの流通・小売のマーケティングは、お客様との関係性マネジメントが主軸になる」 ─ 合同会社西友 富永朋信氏


社内、パートナー、最終消費者に向けての、言語化スキルをもっと上げたい

 青葉 ――「KYでいこう!」キャンペーンを皮切りに成功を収められた後、最近の西友を拝見していると、消費者が米国流の売り場に慣れていなかったり、幾つか課題がありそうですが、現在、富永さんが統括されているマーケティング本部の体制と取り組む課題について、ぜひ教えていただけますか。

 マーケティング本部は総勢30名で、大きく4つの役割を担っています。「1.調査実施および、そのナレッジ・トレンドを店舗へ供給すること」、「2.広告宣伝」、「3.PBのブランドマネジメント」、「4.店舗のメディア化(インストアコミュニケーション)」です。

 青葉――取り組む課題が多岐に渡っていますが、そのマーケティングを統括する難しさにどう取り組んでおられますか?

 概念的な話になりますが、「言語化」が大事だと思っています。どういう店を目指したいか、このクリエイティブがどうよくてどう悪いか、達成したい目標は何か。それらをクリアに言語化できるかどうかが、すべての業務の成否に関わります。現状と問題点、処方箋の設計図をしっかり描けなければ、広告会社にも適したプランやクリエイティブを上げてもらえません。

 また、最終的には消費者へのコミュニケーションに落とし込むので、その際の“認知コストを最小限にする”ことを常に考えています。例えば、西友赤羽店の屋上に「SEIYU」という看板がありますが、これは(ここに西友があるよという)役割が明確で、すぐに認知ができる、良いコミュニケーションの一例です。

 一方、スーパーの店内に入ると色々なメッセージが書き込まれた垂れ幕をみかけることがあると思います。店内には価格や商品情報など伝えたいことがあり過ぎて、何を伝えたいのかクリアになっておらず、受け手もすぐに理解できない悪い例と言えます。

 なぜこういった事態になるのかというと、それぞれのタッチポイントの役割とフォーマットが整理できていないからです。逆にそれらを定義・遵守していけば、明確なコミュニケーションを実現することが可能と言えます。

 青葉 ――富永さんが立ち上げから取り組まれた新PB「みなさまのお墨付き」や「きほんのき」は、まさに名は体を表すで、認知コストが低い、良いコミュニケーションだと言えますね。

 ありがとうございます。ブランドが体現するプロミスが、そのまま商品名に表れるように設計してあります。またその裏付けとなる、具体的なファクト(消費者テストで70%以上の方が「非常に良い」もしくは「良い」と評価した製品のみを商品化する)によって差別化を図っています。

「相手の靴は舐めたのか?」かつての上司から言われた衝撃のひとこと

 青葉 ――これまでお話を伺っていて富永さんは、20代、30代の頃から着々と自分の道を研鑽されてきたのだなとお見受けしますが、若かりし頃の失敗談などがあれば教えてください。

合同会社西友(ウォルマート) 富永 朋信氏

 若いころは、悔しい思いもたくさん経験しています。印象深い経験は2つあって、1つはコカ・コーラ時代に携わっていた他社との共同プロジェクトの際の経験です。複数社で進めた大きなプロジェクトで、企業風土の違いもあって、先方企業の上長になかなか私たちの考えを理解してもらえませんでした。

 そんな折、直属の上司に進捗を聞かれ、「理解してもらえなくて…」とぼやきをひとしきり聞いてもらった後に、「ところで富永さん、その人の靴は舐めたのですか?」と言われて、はっとさせられました。自分は、正論を語るのも論理的思考力も誰にも負けないという自負があったので、これはすごく衝撃的な言葉でした。

 私は自分勝手な価値観を相手に押し付けていただけで、ビジネスを成功させるためにあらゆる手を使ってがむしゃらに取り組んでいなかったのです。「靴を舐めたの?」は過剰な比喩ですが、それこそ相手の懐に飛び込んで理解をしてもらうためには、「靴を舐める」ぐらいの気持ちが必要なのです。このタイミングで言ってくれて、この上ないプレゼントだったと感謝しています。

 またこのプロジェクトで、ゲームクリエイターの故・飯野賢治さんと仕事をご一緒する機会もあったのですが、創造性や発想力がまったく敵わなくてペシャンコにされました(笑)。若い時は実績もないのにつまらないプライドを持っていたりしますが、私にとってはこの経験がそんなプライドを捨て、新たな気付きを与えてくれた貴重な経験であったと言えます。

 それから失敗談ではないのですが、私自身、自分の好きなことを掘り下げられたことも、ラッキーだったと思います。マーケティングには心理学や経済学、行動経済学や認知心理学などいろいろな学問が背景にあり、それらの表層に横軸を通しているのがマーケティングです。

 私は行動経済学に興味を持って、それをけっこう突き詰めたので、横軸を渡りながらも各所にも深く入っていけるようになった。そういう掘り下げ方を若い人にもしてほしいなと思います。マーケティングは、広義にとらえると「人」のことを指しています。人がどう感じるか、人を動かすにはどうすればよいのかということを考えるわけですが、これはマーケティングに限らずすべての仕事に通じるものがあります。

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西友は2.5枚目の番頭さん。お客様との「関係性マネジメント」を重視

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この記事の著者

青葉 哲郎(アオバ テツオ)

サイコス株式会社 代表取締役
東京都出身。明治大学政治経済学部卒業。1994年4月 ジャスコ (現イオン)入社。1995年マイクロソフト入社。トップセールスを経て、最年少ブランドマネージャに就任。MSN事業開発など担当。2001年インテリジェンス入社。マーケティング部を設立し『はたらくを楽しもう。』で同社を転職ブランド1位に。2008年リクルートエージェント入社。『転職に人間力を。』で新ブランドを立ち上げ、コスト減と広告効果の最適化...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2013/04/18 12:32 https://markezine.jp/article/detail/17307

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