西友は2.5枚目の番頭さん。お客様との「関係性マネジメント」を重視
青葉 ――今後、ご自身が取り組みたいことはどんなことですか。
2つありまして、1つは流通・小売り、特にスーパーマーケットのブランド価値構造を体系化したいと考えています。従来のマーケティングは、消費財オリエンテッドであるがゆえに、スーパーのマーケティングにはそぐわないと感じています。

スーパーマーケットのブランドビルディングでは、消費財のように理想のユーザーを想定し、そこに対してバリュー・プロポジション(提供価値)を決めていては、でき上がってくるブランド規定やそれに基づくサービスが他社と均質化し、本来の目的である差別化と逆行してしまいます。スーパーにはいろいろな方が来店しますから、それを無理やり一人に統合すると、とても曖昧で紋切り型のユーザー想定になってしまうからです。
また、ブランドビルディングを考えるときには、自社のブランドの構造だけでなく、「お客様との関係性マネジメント」を中心に据えた考え方やマーケティング施策が必要であると思います。
ちなみに、我々は、消費者にとっての西友を、「2.5枚目の番頭さん」と表現しています。ハンサムすぎずファニーすぎず、押し付けがましくなく、でも何かあったら助けてくれる。このワンワードからの類推で、お客様とどういう関係を築くのか、どういったコミュニケーションをすべきなのかが芋づる式に見えてくるのです。
繰り返しになりますが、ブランド業務においてはブランド自体の話に終始しがちで、消費者との関係を有機的に捉えるブランドをつくるという発想になりにくいのですが、企業も広告会社もそこをもっと考えるべきだと思います。
それから今後取り組みたいもうひとつのテーマは、新しいメディアやツールとの付き合い方を模索することです。例えば、テレビの登場によって、ラジオの立ち位置や役割が変わったように、LINEやFacebookなどの新しいメディアやツールの登場により、既存のWebツールやテレビをはじめとするマスメディアの立ち位置や役割が変わってきます。しかし、現在はそれらに今までと同じ役割を求めている状況だと思います。
メディア全体を捉えて戦略を考えていくマクロなアプローチと、LINEで何ができるかといったミクロなアプローチの両方が大事だと思います。新しいメディアを活用する際は、成功事例がありませんから、「まずは走ってみて、失敗したら考え直してやる」くらいの気概で進みたいところです。
青葉 ――富永さんのように、アカデミックな知識とそれを実行する再現性は、これまでご登場いただいたプロフェッショナルの方々にも共通します。最後になりますが、富永さんご自身が考える「マーケティング・プロフェッショナル」とはどんな人でしょうか?
「納得できるまで問題を突き詰め、結晶化して、正解だと思えるアイデアにたどり着くまで考え抜ける人」ではないでしょうか。正解は天からは降ってこないので、何を考えていいのか分からなかったら、検索したり図書館で関係ない本を開いたり異業種の友達と話したりして、問題の糸口をつかむ修行をするといいと思います。私もいつも書店で新刊を見つけては、知らないことがあれば読み漁るという習慣を社会人になってからずっと続けています。
そして問題の本質に近づけたなら、今度は色々なアングルから考えて、処方箋を探り出していきます。そこにたどり着くまでに粘り強く考え抜くことを薦めたいですね。皆がそうすれば、磨かれたアイデアがたくさん生まれて、きっともっといい世の中になると信じています(文・高島知子)。
西友は“Saving people money so they can live better.”のミッションのもと、お客様に低価格で価値ある買い物の機会を提供し、より豊かな生活に寄与することを目指して、日本国内に372店舗展開しています。その基軸となるのが、EDLP(Every Day Low Price=毎日低価格)の実現です。親会社ウォルマートの店舗運営や、システム、物流、人材育成に至るまで、あらゆるノウハウを日本に導入しており、マーケティング分野でその役割を担っているのが富永さんです。
「KYでいこう!」の一連のキャンペーン以降、「バスプラ」などユニークな広告コミュニケーションを展開。昨年はウォルマート傘下でPB開発に長けた英国アズダの手法を参考にし、より時代にマッチした、他にない個性的な日本語名のPB「みなさまのお墨付き」「きほんのき」の立ち上げを行い、売上げにも貢献されています。
実は富永さんとはマイクロソフト時代からのお付き合いで、10数年ぶりの再会となりました。学生時代にウォルマートを勉強し、イオンに入社した私にとっては、大変興味深い対談となりました。今後の西友にますます期待したいと思います。
