ユーザーインターフェイスにおける手触りとは何か
続いて深津氏はアプリの手触りがなぜ重要なのかを理解するために、「視覚言語」についての説明を始めた。文字を使わなくても、文字と同じような効果を持ち、意味を伝えることができる視覚的な表現を「視覚言語」という。たとえば、iPhoneのアンロックボタンのように「スライドしてください」とわざわざ書かなくても、矢印が横にひゅひゅひゅと動くことで、それを表すことができる。深津氏は「デザインはこの視覚言語に特化した技術で、模様や色や配置で設計者の意図をユーザーに伝えるもの」と説明する。

アプリで視覚言語を使うことによって、どんなメリットがあるのだろうか。「手触りも一部は視覚だったりするが、感触をもってユーザーになにか情報を伝える。それによって、ボタンの文字が長くなるのを回避することができるし、いちいち説明文を表示しなくても操作できるようになる」と深津氏は言う。スマホアプリの画面は小さい。その中で効果的に情報を伝えるために、視覚言語の役割についても知っておく必要がある。
なぜアプリにアニメーションが必要なのか
しかし、「ボタンを押したらパチっと画面が切り替わる、それでいいじゃないですか。アニメーションは演出であって意味はないよね」という人もいる。しかし、実はアニメーションも言語の一種であり、ユーザーを操作するために重要なツールだと深津氏は強調する。
ユーザーに「ここを見て」と知らせる
アニメーションをするということは、特定の場所に注目を集められる。画面上の一部が点滅していたら、ユーザーは一番最初にそこに注目する。わざわざ「ここに注目してください。重要です」と書かなくてもよい。
状態の変化を通知する
画面がぱっと切り替わると、ユーザーはなぜ切り替わったのかが理解できない。あるいは切り替わったのは理解できても、なぜそうなったのかわからない。けれども、アニメーションを使って画面が下から上に移動すると、「いま階層をひとつ深い方へ移動した」ということがわかる。また、右から左、左から右という動きを使うことで、コンテンツが進行した/戻ったということを示すこともできる。
ユーザーに考える時間を与える
人間はあまりに早いことが処理できなかったりする。セーブボタンを押したときに、最近のPCやクラウドでは0.1秒でデータがセーブできる。0.1秒の間に「セーブ中」「セーブ完了」と表示されてもユーザーには伝わらない。むしろユーザーは「これ、本当にセーブできたのかな」と不安になる。そういうとき、実際のセーブが0.1秒で終わったとしても、わざわざ0.3秒くらいかけて「セーブしています」と砂時計をくるくるまわしたり、「セーブ完了しました」という表示を出したあとに、0.5秒くらいかけてふわっと消えるような表現をすることで、ユーザーに「ああ、コンピュータはちゃんと仕事をしてるんだな」とわかってもらえる。
さまざまな例をひきながら、アプリにおける手触りの重要性を説明する深津氏。後半では、アプリの開発現場にいかに手触りを持ちこんで、それを共有しながら作業を進めるか、さらには手触りがもたらすビジネス上の意味にまで踏み込んでいく。そのもようは、また後日お届けする。(後編はこちらからどうぞ)