データ・サイエンティストが生み出すビジネスチャンス
続いて『データ・サイエンティストに学ぶ「分析力」』の著者、ディミトリ・マークス氏が登壇。"Sexy Little Numbers"という原題は「すでに手元にある魅力的なデータ」を意味している。ビッグデータの時代に、あえて「リトルデータ」に言及しているのは、企業がデータ分析を活用できる体制を整え、目の前にあるデータを甘く見ず、足元をしっかり固めて、そのうえでビッグデータへ立ち向かっていけというメッセージでもある。

ディミトリ・マークス、ポール・ブラウン著、馬渕邦美 監修、小林啓倫 訳(日経BP社)
「データは今でこそ世界中でホットな話題となっているが、2~3年前、わたしはたった1人オフィスのかたすみにいた。データアナリストは自分だけ。誰も私がやっていることに興味も持っていなかったし、話したいと思ってくれる人もいなかった。その状況が大きく変わった。データについて恐怖心を持つひとが多いが、この本では『データはこんな疑問に答えられますよ』『意思決定にはこんなデータが役に立ちますよ』ということをわかりやすく解説している」と語る。

ダイレクトマーケティングを専門とするオグルヴィ・ワン・ニューヨークのマネージング・ディレクターであるマークス氏は、米国における特徴的なデータ活用の事例を紹介した。
米国小売最大手のために作成したセグメンテーションスキーム
「ちょっと複雑な図ですが」と言いながら紹介したのは、米国の小売最大手のために作成したセグメンテーションスキーム。「同社は7500万世帯のデータベースをもっていながら、それを活用していなかった。我々の任務は、これらのリッチなデータをパワフルなターゲティングツールに変えること」。

この図は大きく3つのレイヤーに分かれている。一番上のレイヤーは「LTV(Life Time Value)」。すべての世帯がこれからどのくらい購買するのかを予測し、High、Medium、Lowの3つに分ける。同じレイヤーの下の部分「Behavior」では、世帯ごとのLTVを決める購買行動を分析。High、Medium、Lowごとに購買頻度、購入価格帯、割引の有効性などが割り振られる。これによって、どの世帯にどのようにアプローチすべきかを知ることができる。
2番目のレイヤーの上の部分は「Drive Period」。「小売はカレンダーにしたがって動いている。スプリングシーズン、父の日、入学シーズン、ホリデーシーズンなど、米国の小売業者はここで大部分の売上を立てている。それぞれのシーズンごとに世帯は違う行動を示すことがわかっており、シーズンごとにセグメンテーションスキームがある」。このレイヤーの下半分「Product Interest」では、全取扱商品に対する興味関心を分析したモデルを構築。そして、最後のレイヤーは「Attitude」。これは伝統的なセグメンテーションのやり方で、消費者の行動傾向を9つのセグメンテーションで示している。
マークス氏は「それぞれのレイヤーを通じて、この世帯はこのくらいの価値があり、どんな商品に興味を持つのかが明らかになった。ここから正しい小売のコミュニケーションが可能になる。パーソナライズが機能し、結果につなげることができる」と語り、セグメンテーションフレームワークを使うことで、ROIが2倍、購入の見込みが11倍、メールによるブランドとのエンゲージメントの確率が3倍になったと補足した。