データ活用の未来と「ニューデータ」
最後にマークス氏は、データの量を表す「ビッグデータ」に対して、「ニューデータ」という言葉を紹介。これからは、身近に埋もれているニッチなデータが面白いと語った。こうしたデータを発見し、リサイクルすることで、あらたな価値が生まれるという。

また、上のようなスライドを示し、「データの分析者は会社の地下室にいる一方、経営者は会社の最上階の役員室にいて、直感で戦略を決めている。戦略に関わる判断を左右するデータ分析、これをはやく地下室から会社の上にある会議室へ上げて、コラボレーションすることが必要」と述べ、講演をしめくくった。
業界に求められる透明性、ビッグデータを持つ企業の社会的責任について
続いて、石倉洋子氏、ディミトリ・マークス氏、そして『データ・サイエンティストに学ぶ「分析力」』の監修者でもある、オグルヴィ・ワン・ジャパン代表取締役の馬渕邦美氏がモデレータとなってパネルディスカッションが行われた。

個人情報保護の観点から、プライバシーリスクについての意見を求められると、マークス氏は「この問題については、来日してからよく尋ねられる。感情的になりやすいところだけに、欠点に目が向いてしまうのは残念。企業にどんな情報が伝わっているのかを明らかにして、透明性を確保すべき」と述べた。さらに、「議論はポジティブなものになるべき。個人情報を開示することによって消費者にも利益がある。また、自分も含めて好きな企業にはデータを提供してもいいと思っている人もいる」と、建設的な議論を呼びかけた。
また、クリエイティブとデータの関係については、「クリエイターにとって、データ分析者は悪魔のように思われていたが最近は違う。データから得たインサイトによって、新しいクリエイティブが生まれるきっかけにもなる。多くの女性が“自分は醜いと感じてる”という分析をもとに生まれた、DoveのReal Beautyキャンペーンは、その良い一例だ」と答えた。
質疑応答では、会場から「今後データの社会的な流通をうながすデータアグリゲータのような企業の存在、社会的なしくみづくりや行政の役割、GoogleやYahoo! JAPANのような圧倒的な量のデータを保有しているデータ支配者のような大企業の役割について聞きたい」という質問が投げかけられた。
石倉氏は「大変重要な質問だが、あまりいいアイディアはないというのが正直なところ。データ活用の動きはグローバルなもので、国レベルの行政ができることには限界がある。競合など、新しいかたちで対抗する人が出てくるのを待つほうがいい」と率直に回答した。一方、マークス氏は、「こうした企業の社会的責任は大きい。政府と業界団体が協力して、消費者に自分の情報をコントロールする権限を与えるべき」と、業界の取り組みの重要性についてあらためて強調した。
マークス氏は、「これからの新たな企業戦略は、リトルデータからスタートする。明日からどうすればいいのか、アクションプランを考え、最も緊急の課題を考える。そして、オープンマインドなひとたちと一緒に、データドリブンなカルチャーをつくっていきましょう」と語った。トレンドに惑わされることなく、少しずつ小さな進歩を積み重ねることの大切さをあらためて感じる一言だった。