ビッグデータがビジネスにもたらす変化とは
7月23日、六本木アカデミーヒルズで開催されたオグルヴィ・アンド・メイザー・ジャパン主催のセミナーに登壇するのは、『データ・サイエンティストに学ぶ「分析力」』の共著者のひとりであるディミトリ・マークス氏と、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授で、世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Agenda Council Education & SkillsのVice Chairを務める石倉洋子氏。
ビッグデータに新しいビジネスの可能性を見いだそうとする期待がこれまでになく高まっている今こそ、ビッグデータがビジネスにどのような変化をもたらすのか、あらためて考える必要がある。石倉氏は「データ:新しい競争優位性の鍵?」と題して現在のビッグデータを取り巻く状況と課題をまとめた。
ビッグデータの3つのV
ビッグ・データとは何かを考えるとき、「既存の技術では管理や処理ができないほど大量のデータ群」というのが一般的な定義だが、石倉氏は、ビッグデータの特徴を3つの「V」であらためて整理する。
・Volume(量が桁違いに多い、構造が違う)
・Variety(多様なソース、ウェブデータ、通話履歴、テキスト、位置情報、画像、動画など)
・Velocity(リアルタイムで絶え間なく)+Varacity(正確さ)
さらに、もうひとつのV「Value(どう活かすか)」がカギになる。技術の進歩で、これまで分析対象になりえなかったデータを、大量に素早く処理できるようになったのは事実だが、分析した結果をどうアクションに結びつけるのか、そこからどのような価値を生み出すのかを考えなくてはならない。
では、いったいどうやってValueを引き出すのか。「意思決定の大きなサポートになるというのがポイント」と石倉氏は言う。今までは社内外にどのようなデータがあるのか把握していなかったため、新しい洞察に結びつくことがなかった。しかし「雨のふる日はチョコレートフレーバーのドーナツがたくさん売れる」といった、従来では考えつかなかったような知見、新しい商品に関するアイディアが生まれるかもしれない。
しかし、ビッグデータがもたらすインパクトはさらに別のところにあると石倉氏は指摘する。「企業戦略への意味合い、競争ルール自体が変わってくる。スピード感、ターゲットも変わる。データをどのくらい持っていて、どう使うかが新しい競争優位性に結びつく」。ビッグデータへの取り組みが始まったいま、ビジネスのルール自体が変わったのだ。「ビッグデータは一過性の流行ではない」と石倉氏が語る理由がここにある。
人材の確保、組織のオープン化、ビッグデータ活用の課題
しかし、ビッグデータ分析を実践するにあたっては課題もある。まず、どこにどんなデータがあるのかを洗い出す必要がある。スキルのある人材の確保と育成も重要だ。データ・サイエンティストは統計、数学、プログラミングだけでなく、市場、顧客、マーケティングも熟知していなければならない。こうした人材は世界的に不足している。
企業組織にも課題がある。ビッグデータ分析に、IT部門とマーケティング部門の対話は欠かせない。「社内組織をオープン化するだけでなく、外部の人と恊働することも必要。ここは日本企業の大きな課題。部門間の断絶は大きいので、チームとして育成していくのが現実的」。
さらに、プライバシーの問題では、個人情報の活用と消費者のメリット、この2つのバランスをとることが重要になる。セキュリティも世界的な課題であり、次々と新しい問題が出て解決にいたらないが、ここは常に追い求める必要があると語った。
最後に石倉氏は「ビッグデータをうまく使うには課題がある。しかしレースは始まったばかり。今からすぐに始めることでリーダーシップがとれるだろう」と、会場を埋めたマーケターに向けてメッセージをおくった。