「カニバリ」の懸念はない、より強いブランド提供が可能に
実店舗を手掛ける企業がECを始まる上で避けては通れないのが「カニバリ」。カニバリゼーションの略称で、自社の製品・ブランドが自社の他の製品・ブランドやチャネルとシェア争いをする「共食い」現象を指す。
店舗が主体の企業にとって、ECというチャネルが実店舗の顧客を奪ってしまうのではないか――こうした懸念は多くの企業が抱き、実際にEC参入に二の足を踏んだり、オンラインと実店舗の連動が上手くいかないケースは少なくない。
「(カニバリの)懸念は全くなかったし、今もない」と断言する遠藤氏。それはなぜだろうか。「お客さま自身がECという新たなチャネルの立ち上げを希望していた」(同)からだ。
この言葉に尽きるのだろう。顧客重視を掲げるギャップの方針は、実店舗のスタッフにも浸透していた。「ストアを運営しているスタッフも理解していたし、逆に新しいタッチポイントが増えるいいタイミングだと考えていた」(同)。
これまでECのモールに出店したりしていないため、ECチャネルで商品が購入できなかった「Gap」などのファッション商材。消費者は商品を購入するには、店舗に足を運ばなければならなかった。地方の人の中には店舗に向かうことが難しいケースもあり、いつでもどこでもギャップに触れることができるチャネルとしてECは活用されているという。
それだけではない。ギャップの手掛けるブランドによりアクセスしやすい環境を整えたことで、「より強いブランドの表現ができるようになり、より強い体験をお客様へ提供できている」(イェン氏)と手応えを感じている。

ECと店舗両輪にマーケティングを展開
ECを始める前からネットマーケティングには力を入れていたというギャップジャパン。マーケティングの基本方針は「ブランドを体験してもらうこと」(遠藤氏)。実店舗だけの時から、ネットなどを通じてスタイリングに関するコンテンツの積極提供など、コンテンツマーケティングを展開していた。変わったのは「ECというタッチポイントが加わっただけ」(同)。
これまで、マーケティングを通じて案内するのはどこかの店舗だったが、ECの登場でマーケティング手法は少しずつ変わっている。店頭で商品を入れるショッピングバッグ、広告、チラシなどにECへ誘導するURLを載せたりと、「ECと店舗を両輪として、販売活動を行うようになった」(遠藤氏)。
日本ではH&Mの進出などで、ファストファッションが台頭。ファッション業界は実店舗、ECの両方で激しいしのぎ合いが始まりつつある。12年という時期にECへ参入したことは「この時期の進出を狙っていた」(イェン氏)。既存顧客のほか、まだまだ新規顧客を開拓できる余地があるということだろう。
オンライン売り上げ15億ドル(11年度)規模まで広がっている米ギャップのEC。「顧客重視」のマーケティングは1つの成功例だ。企業は何を重点に置き、マーケティングを展開すればいいのか。長期にわたってブランドを築いてきた先行者の成功例から学ぶべき点は多い。