ブームのおかげで現場の反応が「何それ?」から「面白そう!」に
押久保:昨今、データサイエンティストという役割に注目が集まっています。一般的に企業内に蓄積されるデータを分析する役割の方を指し、今後の企業の生命線を担うとも言われていると思います。データサイエンティストの先駆けともいえるお二人に、まずどんなお仕事をされているのか伺いたいのですが。
西郷:私はリクルートが運営する100以上のサイト分析等を行う、ビッグデータグループのデータ活用プロジェクトを統括しています。ECサイトではレコメンド機能の精度を高めたり、メディア型サイトではユーザーの分析をしたり。当グループでは約100人の分析者を抱えており、年間約200件のプロジェクトを行っています。
河本:私は、大阪ガスの各事業部にデータ分析ソリューションを提供する「ビジネスアナリシスセンター」を統括しています。当社はインフラ会社ですから、毎日の気象データをオペレーションに活用するなど、エネルギーをより安全、より効率的にお届けするための分析などを行っています。毎日気象庁から専門のデータをもらうので、アナリシスセンターには気象予報士もいるんですよ。
押久保:へえ、気象予報士もデータサイエンティストの時代ですか(笑)。これまで行ったプロジェクトの一例を教えて頂けますか。
西郷:リクルートでは、「リクナビNEXT」という転職サイトを運営しています。新規会員を募るために広告投資を行いますが、「どの媒体に」「いくら」投資すると、会員が何人増えるか、が分かる数式を作りました。転職サイトは会員数が売上げを左右するので、会員数が見えると売上も予測できるんです。
押久保:まさに、未来予測ですね。
西郷:ミサイルの弾道計算に使われる「状態空間モデル」という数式をベースにしました。でも実際の数式には、「正月明けには転職希望者が増える」とか「オリンピック中は活動意欲が下がる」といった現場の知見がたくさん盛り込まれていて、意外とアナログです。
河本:当社はご家庭にあるガス器具の修理も行っていますが、お客さまから伺った故障状況を入力すると、修理に必要な部品が分かる、というシステムをつくりました。過去10年分の修理履歴をデータベースにすることで、できあがったものです。このシステムを現場に導入したことで、顧客を訪問した日に修理が完了する割合が20%も上がりました。
押久保:いまさらですが、データって、やっぱり経営やビジネスに役立つんですねぇ…。ちなみに「ビッグデータ」「データサイエンティスト」という言葉が一般的になりつつありますが、長年いまのお仕事を続けているお二人は、率直にどう思われているんですか。
河本:「ビッグデータ」に対する反応が、「何それ?」から「面白そう!」に変わりましたね。うちの妻も「ビッグデータ」という言葉を知っているらしいです(笑)。大阪ガスにデータ分析チームができて15年になりますが、昔よりも仕事に対する理解は得やすくなりました。
西郷:私も、データサイエンティストの仕事に注目が集まるのはよいことだと思ってます。ちょっと大げさかな、と思うこともありますが、注目された方が仕事もしやすい(笑)。
河本:そうですね。でも、過剰な期待をする方も増えました。沢山のデータがあれば、すごい発見があるのでは、と。でもデータは魔法の杖ではありませんから、事業部や現場の期待すべてに応えることはできません。
西郷:その点、リクルートの事業部サイドは理解があるかもしれませんね。「面白そうだからやってみよう」「一緒に頑張ろう」というリクルート文化のおかげで、事業部とビッグデータチーム間の認識ギャップは少ないですね。