イノベーションを起こすのに必要な力
友澤:今は技術的な変化が大きいので、皆さんがなんらかの形でイノベーションを起こせる機会があると思います。竹中さんは常にイノベーションを起こし続けている人だと思うんですけど、イノベーションを起こすために、「ヒト・モノ・カネ」の中でどれが一番重要だと思いますか?

竹中:順番でいうとヒトでしょうね。
友澤:やっぱり。私もそう思います。
竹中:次はカネ。モノは最後じゃないですか?
友澤:論点をヒトにしたいんですが、そもそもどういう人がイノベーションを起こせるのか。どういう力を持っている人がイノベーションを起こせると思いますか?
竹中:編集でしょうね。編集・デザイン力だと思います。わかりやすいのでiPhoneを例に挙げますけど、GPS機能とか、モノを小さくすることとか、CPUとか、これらは何十年も積み上げがあった。GPSというのは本当に相対性理論を真面目に計算してできたもので、最終的には三角測量ですけど、iPhoneというのはそういった数学と物理学の塊なんです。何十年も前からあったものをiPhoneでこの形にまとめあげた。初代のiPhoneは今よりもしょぼいし、GPSも付いてなかったけど、それをまとめあげる頭の役割はたぶん編集なんですよね。
iPhoneのOSに指紋認証が付くということが盛んに報道されましたが、あれも典型的な例。富士通などはもう何年も前から製品に搭載しているのにiPhoneだと、なぜあんなに騒がれるのか。ひとつはアップルやiPhoneが大好きな人が騒ぐというのもあるのですが、もうひとつはやっぱりちゃんとつくってキレイにまとめてるんですよね。

アップルのイベントのキーノートで指紋認証用のアプリのアイコンが出ましたが、今まで指紋というものを誰もアイコナイズ(アイコン化)できなかったのを、ちゃんとアイコナイズしている。最初の「ヒト」の話に戻ると、誰かが(デザイナーに)アイコン化をやらせる、そしてその人がアイコンに対してOKを出しているわけです。これだったら全世界の人が指紋だとわかり、使ってみようという気分になるということが、あのキーノートで実際に起こっている。指紋認証なんて使い古された、要素技術としては枯れた技術なんですけど。
編集力を因数分解する
友澤:「編集力」を因数分解するとどういう力に分けられますか? 私がよく「7つの力」というのを挙げているんですが、「気付く力」「挑戦する力」「捨てる力」「論点設定力」「アナロジー力」……あとなんだっけ?(笑) 新しいことをやろうとすると大体やりたいことが増えて拡散していくので、拡散してもやり抜こうとする力も必要。これは最近のアドテクの悪しき習慣なんですが「とりあえずやってみよう」というのがある。でも、「やってみよう」を10個やると大変なんですよ。
竹中:それはカネにも結び付くんですけど、人が1秒動くと何円かかかる。ビル・ゲイツとかすごいですよね、時給6000万でしょ?(笑)

友澤:だからどこかのタイミングで「やめる」ってジャッジしないといけない。自分の施策の場合はMAX3か月。1か月でラーニングして、1か月で結果出して、もう1か月で言語化する。そう、もうひとつは「言語化力」だった……。言語化できないと、抽象化できない。抽象化できないものは再現性がないんです。
竹中:チームでやる場合に伝わらないんですよね、言語化できないと。サービスにしたときにお客さんにも伝わらない。
友澤:思い出した! 7つめは「巻き込む力」だった。社内を巻き込み、マーケットを巻き込むためには言語化できないといけない。よく「予算ってどうやって取るんですか」と聞かれるんですが、かつての上司に「キレイにだましてくれ」と言われたことがある。
竹中:それは生々しい話ですね(笑)
友澤:でも、それは自分の中ですごく心に刺さっていて。結局自分が判断するときにも(たぶん竹中さんもそうだと思うんですけど)、いきなり絶対成功するなんて絵は描けない。それをどう突破するかは、自分の信念と論理をどう付け加えるかのような気がするんですよね。