次の3年間に、企業に影響を与えるテクノロジは?
ガートナーは、今後3年間で企業に大きな影響を与える可能性を持ったテクノロジを「戦略的テクノロジ」と呼んでいる。ガートナーのバイスプレジデント兼ガートナー・フェローのデイヴィッド・カーリー氏は、「必ずしもこれらトップ10すべてのテクノロジに投資して採用しなければならないというわけではないが、企業は今後2年の間にそれぞれのテクノロジを十分に検討し吟味する必要がある」と述べている。
2014年に注目すべき戦略的テクノロジ・トレンドのトップ10は以下のとおり(注:並び順は順位を意味しない)。
モバイル・デバイスの多様化とマネジメント
デバイスやコンピューティング・スタイル、ユーザー・コンテキスト、インタラクションの多様性が2018年までに高まることによって、「場所を問わずあらゆることを行う」という企業戦略の実現は難しくなる。企業・組織のBYOD(個人所有デバイスの業務利用)プログラムによって、モバイル・ワーカーの数が従来の2倍、場合によっては3倍にも増えるという予期せぬ結果が生じ、IT部門および財務部門には大きな負担がかかるようになった。企業は従業員所有のハードウェアの利用に対する自社のポリシーを徹底的に見直すとともに、必要に応じてそれを改定・拡張する必要がある。
モバイル・アプリと従来型アプリケーション
2014年にかけて、JavaScriptのパフォーマンスの向上によってHTML5の普及が促進されるとともに、企業のアプリケーション開発環境としてブラウザが主流になる。従来型のアプリケーションが右肩下がりになり始める一方で、モバイル・アプリは引き続き増加していくことが予想される。モバイル・アプリはよりコンパクトでターゲットを絞った方向へ進み、より規模の大きなアプリケーションは包括性を増していくだろう。開発者は複数のモバイル・アプリを組み合わせることで、規模の大きなアプリケーションを構築する手段を見つけなければならない。
消費者向けや企業向けのモバイル・アプリを構築するツールの市場は、100社を超える潜在的ベンダーが活動している複雑な市場。 今後数年間、すべてのタイプのモバイル・アプリに単一で対応できる最適なツールは登場しないと考えられるため、複数のツールの採用を想定する必要がある。次に訪れるユーザー・エクスペリエンスの進化は、感情と行動から推測したエンドユーザーの意図を活用し、その挙動の変化を促す環境になるだろう。
「すべて」のインターネット(Internet of Everything)
インターネットはPCとモバイル・デバイスの枠を超え、現場の設備機器などの企業資産や、自動車やテレビなどの消費者製品へと広がりつつある。しかし、ほとんどの企業は拡張するインターネットの可能性をまだ把握できておらず、業務的または組織的に対応する態勢を整えていない。
最も重要な製品やサービス、資産をデジタル化した状況を想定した場合、すべてをデジタル化することで生み出されるデータ・ストリームとサービスの組み合わせによって、「管理(Manage)」「収益化(Monetize)」「運用(Operate)」「拡張(Extend)」という4つの基本的な利用モデルが生まれる。これらは、4つの「インターネット」(人、モノ、情報、場所)のいずれにも適用可能。4つの基本モデルを活用して潜在的価値を引き出せるのは「モノのインターネット(Internet of Things)」であり、資産とマシンのみであると考えを限定しないようにすべきである。
ハイブリッド・クラウドとサービス・ブローカーとしてのIT
企業にとってパーソナル・クラウドと外部プライベート・クラウド・サービスを結び付けることは必須の要件。企業はハイブリッド型の未来を念頭に置いてプライベート・クラウド・サービスをデザインし、将来の統合と相互運用性を実現できるようにしなければならない。
ハイブリッド・クラウド・サービスはさまざまな形での構成が可能。構成されたサービスの管理は、サービスの集約、統合、カスタマイズを行うクラウド・サービス・ブローカー(CSB)が行う場合がほとんどで、 プライベート・クラウド・サービスからハイブリッド・クラウド・コンピューティングへと拡張を進めている企業がCSBの役割を担うようになっている。
初期のハイブリッド・クラウド・サービスは、より静的に操作・設計された組み合わせで構成される可能性が高く(例えば、一定の機能やデータを対象とした内部プライベート・クラウドとパブリック・クラウド・サービスの統合)、その後CSBの進化に伴い、より広い範囲を網羅したサービスが登場するだろう(たとえば、ポリシーと利用状況に応じて外部のサービス・プロバイダーを活用するプライベートなサービスとしてのインフラストラクチャ[IaaS:Infrastructure as a Service])。
クラウド/クライアント・アーキテクチャ
クラウドとクライアントに関するコンピューティング・モデルはシフトしつつある。クラウド/クライアント・アーキテクチャにおいて、クライアントはインターネットに接続されたデバイスで実行されるリッチ・アプリケーションを意味し、サーバは高い柔軟性で大幅に拡張性を増しているクラウド・コンピューティング・プラットフォームにホスティングされている一連のアプリケーション・サービスを意味する。
クライアント環境はネイティブ・アプリケーションまたはブラウザ・ベースの場合もある。多くのクライアント・デバイスやモバイル、デスクトップで、強力になっているブラウザを利用することができる。多くのモバイル・デバイスに実装されている堅牢な機能、ネットワークに対する需要の高まり、ネットワークのコスト、帯域幅の利用を管理する必要性などによって、場合によってはクラウド・アプリケーション・コンピューティングとストレージのフットプリントを最小化するとともに、クライアント・デバイスのインテリジェンスとストレージを有効活用するというニーズが発生する。ただし、モバイル・ユーザーのニーズのさらなる複雑化に伴い、モバイル・アプリではサーバ側の処理量とストレージ容量の増加に対する必要性が高まるだろう。
パーソナル・クラウドの時代
パーソナル・クラウドの時代は、デバイスからサービスへのパワー・シフトを意味する。企業にとってデバイスの細かい特性は重要な意味を持たなくなるが、デバイスそのものの必要性に変わりはない。ユーザーは複数のデバイスを利用し、PCも依然として多くの選択肢のひとつとなるが、特定の単一デバイスが中心的なハブとしての役割を果たすことはなく、その役割をパーソナル・クラウドが担うことになる。 このため、デバイス自体に焦点が当てられるのではなく、クラウドへのアクセスおよびクラウドで共有または格納されているコンテンツへのアクセスが、パーソナル・クラウドで安全に管理されるようになる。
ソフトウェア定義(SDx: Software Defined Anything)
ソフトウェア定義(SDx)は、クラウド・コンピューティング、DevOps、高速インフラストラクチャ・プロビジョニングによる自動化に後押しされた、インフラストラクチャのプログラミング可能性とデータセンターの相互運用性に関する各種規格の発展に対して高まっている市場の勢いを包含した総称。SDN(ネットワーク)、SDDC(データセンター)、SDS(ストレージ)、SDI(インフラストラクチャ)テクノロジのベンダーは、いずれも各分野におけるリーダーシップの維持に努めながら、隣接市場での活動を支援するSDxイニシアティブを展開している。
WebスケールIT
WebスケールITは、企業がさまざまな局面を通じてその位置付けを見直すことで、企業内のIT環境で、大規模なクラウド・サービス・プロバイダーと同じ機能を提供する、グローバル・レベルのコンピューティングの一形態。
Amazon、Google、Facebookといった大手のクラウド・サービス・プロバイダーはサービスを提供するITの方向を見直しており、その機能は単なる対象範囲の大きさというスケールを超えて、スピードとアジリティ(俊敏性) を含めたスケールまでを含むようになっている。企業がこのような環境とペースを合わせるためには、こうした大手クラウド・プロバイダーのアーキテクチャ、プロセス、プラクティスに匹敵する環境を実現する必要がある。ガートナーは、これらすべての要素の組み合わせを「WebスケールIT」と呼んでいる。
スマート・マシン
コンテキスト・アウェアなシステム、インテリジェントなパーソナル・アシスタント、スマート・アドバイザー(質問応答システム「IBM Watson」など)、先進のグローバル産業システム、また初期の自律走行車などの普及により、スマート・マシンの時代は2020年にかけて発展するだろう。スマート・マシンの時代は、ITの歴史において最も破壊的なものになると考えられる。
企業レベルでのスマート・マシンへの投資も進むだろう。スマート・マシンが導く革新の時代においても、コンシューマライゼーションと一元管理環境の対立的な関係は緩和されず、むしろ、企業による購入の最初の波が過ぎたころ、スマート・マシンによるコンシューマライゼーションの流れが一層加速することになるだろう。
3Dプリンティング
3Dプリンタの出荷実績は2014年に75%増加し、2015年にはほぼ倍増するだろう。非常に高価な「積層造形(Additive Manufacturing)」デバイスが登場してから20年近くたつが、同等の材料と造形機能を提供する500~5万ドルの価格帯のデバイス市場は現在初期段階にあり、急成長しつつある。
消費者市場の大きな盛り上がりによって、企業はデザインの改善、プロトタイピングの合理化、短期生産を通じたコスト削減を実現する上で、3Dプリンティングが現実的で実行可能な、費用対効果に優れた手段であることを認識するようになっている。
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