精度の高いマーケティングを阻むのは、部門間の連携不足
こうした体質的な問題のほかに、マーケティング領域には構造的な課題がいくつもあるようだ。
「例えば、どのような状況においても無批判に、まずマス広告や認知向上を第一義的にしたマーケティング。広告代理店への過剰な依存が構造的に染みついています。確かに一部の企業においては、デジタルマーケティングについて実際の経験や他企業との交流によって、広告代理店よりも詳しくなっている、というケースも発生しています。しかしそれでも、社内におけるマーケティング部門が企業活動の“下流”に位置づけられ、統合型の活動がしにくい状況です。また、事業や商品を縦割り構造で担当していることから、マーケティングの担当者同士のノウハウを共有したり、コミュニケーションを取ったりしづらいことも、大きな成果を得るのを阻んでいます」
さらに、一つのマーケティング企画内のプロセスにおいても、認知向上に携わる人と最後の販促を手がける人が連携していないなど、各所での分断が課題になっている。
「つまり、従来の手法を捨てられないことと並んで大きなハードルになっているのは、部門間の連携不足です。デジタルマーケティングに積極的な企業でも、デジタルの活用がインターネット広告の出稿や、ソーシャルメディアを活用したコミュニケーション領域に閉じているケースが多いです」と神岡教授は強調する。「大幅な転換は起こりにくくても、マス広告の予算が徐々にデジタル領域へと移る動きはあります。マーケティング活動において、確実にデジタルに重きが置かれつつあるのに、多くの企業で成果が上がりにくいのは、組織間・部門間の連携がうまくいっていないことが要因です」
IT、マーケ、デジタルマーケをどう位置付けるか
「部門横断的に」「横串で」といったキーワードは円滑な組織運営に関してよく聞かれるが、神岡教授がデジタルとマーケティングがクロスする領域に関して指摘する、“連携の不十分”の背景には特殊な課題もあるようだ。
企業におけるデジタル領域の業務は、組織構成の上でIT部門に紐づいている、あるいはIT部門から派生したケースが多かった。だが、前述の環境変化を踏まえると、マーケティングでのデジタル活用においては、それを利用して業務を行う(デジタル)マーケティング部門が主体となる方が、スムーズに活動できるケースが増えている。長期的な見通しを立てる点でも、「IT部門に紐づいていることが、必ずしも得策とは言えない」と神岡教授。
社内のデジタル関連業務をIT部門だけが担っていると、デジタル関連業務を実行するのに、要求仕様などをきっちり固めて、IT部門を通して発注するやり方だけが選択肢となる。だが今や、そんなことではスピードが追い付かない。そのため、例えばアプリなどの発注や、市場の声を受けての改善などは、デジタルマーケティングを扱う現場が直接進めてしまっている状況も見受けられるという。
「ただ、(デジタル)マーケティング部門は、ITをトータルとして設計するノウハウやスキルが十分ではないので、短期的で収集がつかなくなり全社的な視野に欠けることも多い。それを解消するためにも、企業全体として顧客に向き合える最適な体制をよく考え、整備することがポイントになります。その中でIT部門の新たな位置づけというものも考えられると思います」