「ユーザー」がキーディメンションになることの可能性
では、ウェブサイトのアクセスデータがユーザー単位で集計可能になることによって何が変わるのでしょうか。
プロモーションの最適化はマーケティングにかかる費用の中でもボリュームが大きく、ウェブサイトのアクセスデータを活用した費用対効果手法や最適化手法は、常に関心が高い領域です。
消費者の購買行動プロセスの流れから言えば、ウェブサイトのアクセスデータは、ブランディングやプロモーション活動によって顕在化した興味関心層、さらには購入検討段階にある消費者がサイトを訪れたときのサイト内行動データ。まさに自社の顧客化(コンバージョン)に繋がるデータとなるため、多大な費用をかけてサイトを訪問したユーザーのサイト内行動データとコンバージョンをした顧客のデータを紐付けて分析を行い、プロモーション費用の「効率化」に活用したいという欲求はインターネット広告の黎明期からありました。実際に多額のコストと時間をかけて“紐付け”による分析を行った企業も少なくないと思います。

しかし先に述べたとおり、ウェブサイトのアクセスデータは多くの場合セッション単位に集計され、たとえユーザー単位であってもそれはブラウザベースの域を出ることはありませんでした。そのため、分析データの活用範囲はCPA効率の改善にとどまり、本来の目的であるはずの「顧客理解」に基づくプロモーション施策の最適化に有効なアウトプットを出すには至らなかったと考えられます。
ユニバーサルアナリティクスの機能であるユーザーIDコントロールによって、ウェブサイトのアクセスデータがリアルなユーザー単位(ブラウザ単位ではなく)で集計されるということは、企業が保有する「顧客データ」と集計単位が共通化し、双方が「ユーザー」をキーディメンションとして「紐付け」され、“人”単位の分析が可能になることを意味しているのです。
データは“分析”を超えて“運用”プラットフォームへ供給される
ユニバーサルアナリティクスによって強化される機能に「データのインポート」「カスタムディメンション・カスタム指標」があります。
- データのインポート機能:(広告の)費用データのインポートと外部データのインポートの2つの機能がある。ここでは後者を指す。
- カスタムディメンション・カスタム指標:データの基本スキーマ(構造)であるディメンションと指標を独自に設定し、トラッキングコードによってサイト内から計測したり、外部からデータをインポートする際に利用できる機能。ここでは後者を指す。
この2つの機能によって、外部データをインポートし、独自のディメンションや指標でGoogle アナリティクスのレポート画面へ集計・表示することが可能になります。本稿の執筆時点では、“ユーザー”をキーディメンションとしたインポート機能は備わっていませんが、いずれ近いうちに実装されるであろうことは容易に想像がつきます。
先に述べた、ユーザー単位で集計されたアクセスデータと外部データの統合と、実現されるであろう“ユーザー”をキーディメンションとしたデータインポート。さらに、そうしてGoogle アナリティクス内に保有されたデータを活用した“リマーケティング”リストの作成とGDN(Google Display Network)への提供。現時点では想像の域を出ませんが、あえて言うならばGoogle アナリティクスはすでに“簡易プライベートDMP”ともいえるプラットフォームへ強化されているように見えます。

一部(Google アナリティクスプレミアム)で導入されているデータドリブン機能(ルールベースではなく、アルゴリズムでアトリビューション分析を行いモデルを提示する)も注目です。そもそも「Google 検索」に見るように、データを収集しアルゴリズムで分析を行い推奨結果を提示するというのはGoolgeの得意とするところ。予測の域は出ませんが、アルゴリズムでデータ分析を行うデータドリブン機能が、リマーケティングリストの作成やウェブテスト(A/Bテスト)、将来的にはコンテンツリコメンドのような機能へ拡張される可能性を考えればなおさらです。
データがなければ分析ができないのは当然ですが、これからはデータがなければ広告やサイト運用の最適化もできないという状況も起こるかもしれません。今後のGoogle アナリティクスの進化によって、ユーザーのカスタマージャーニーを分析することができるようになるだけではなく、デザインした消費者の購買行動シナリオを能動的に促進(ドライブ)するプラットフォームの世界が待っているかもしれません。