時にはユーザビリティを犠牲にする
組織まで変えるとは、かなり大きな決断だったはずである。ネットショップとして始めながらそこまで転換できたのは、なぜか。
「不要不急のものを売っているか、生活必需品に近いものを売っているかの違いは大きいと思います。『北欧、暮らしの道具店』は、日常生活になくても全然困らないものを売っている。本質的には、娯楽を売っているエンターテインメントビジネスなんですよね。それは映画やスマホゲームなんかと、何ら変わりのないビジネスをしているという意識を持っています。
だから、暇だなと思った時に、テレビを見るか、ゲームをするかといった選択肢の中に、『北欧、暮らしの道具店』を見るというのを、どれだけ入れていただけるかが勝負だと。
生活必需品に近いものを売っているECサイトなら、欲しいと思ったときに素速く買っていただけるよう、利便性を追究するべきでしょう。もちろん、二次的にエンターテイメント性を提供されるところもあると思いますが。
一方、僕らの場合は、ある意味では買いにくさを演出してでも、面白さを優先するということもあるわけです。なぜなら、僕らのお客様は楽しみたくてサイトに来てくださるのであって、便利に買い物したくて来られているわけではないからです。お客様の主な目的である『楽しむ』を邪魔するなら、その便利さはかえって逆効果だからです。
そう考えていくと、今まで一面的に語られてきた『ECサイトはユーザビリティよく、買いたいときに素速く買えるようにする』ということだけを追究すれば売れるECサイトになるのかというと僕個人は疑問に思っています。実店舗の世界では、娯楽的な商品を売るお店が、楽しい買い物体験を演出するために便利さを多少犠牲にしてでもさまざまな手を打つことは、ごく普通のことです。ECだけが便利さやスピードが最優先だとは思えないですよね」
ASP利用でシステムを効率化し、メディア作りに集中する
ECサイトのメディア化はもちろん、これまで『北欧、暮らしの道具店』はさまざまな変身を遂げてきたが、基本的には、ネットショップ構築ASP「カラーミーショップ」を使い続けてきた。
「おそらく、『カラーミーショップ』でなければ、ECサイトのメディア化は実質不可能だったと思います。テンプレート編集の自由度の高さはもちろんですが、やはりAPIに対応していること。
当社では、API経由で在庫・受注データを引っ張ってきて、自社開発の発注支援システムを通してメーカーに自動発注したり、再入荷お知らせメールを自動で送信したりという独自の関連システムをカラーミーショップに付加して生産性を高めているんですが、普通のASPサービスではなかなか難しいことです。
同時にショップのフロントやカート部分のサーバー管理やメンテナンスを全てカラーミーショップ側に任せられることも大きいですね。急なトラフィックが増えた際も安心ですし、サーバー管理を自社で行う手間と費用を考えると、月々3,150円(※)しかお支払いしてないのが申し訳ないくらいです(笑)。
※カラーミーショップには、月額875円、1,295円、3,150円のプランがある
通販は、非常に工数のかかるビジネスで、当社もこのオペレーション周りを効率化するまでは、サイトのメディア化に取り組むのが難しかったんです。
それが今では、月間5,000件前後の受注に適切に対応し、返品交換やお問い合わせといったいわゆる『通信販売事業者』としての機能をしっかりと提供しつつ、月に20~30の商品ページに特集記事が4本、週に2、3本のメルマガ、日々のコラムといったコンテンツを公開し、それに加えて隔月で小冊子も発行しています。これだけの仕事を経営者含めて12人しかいない会社で、毎日誰ひとり残業せずにまわすことができています。オペレーションの効率化により、本業に集中できるということですね」